じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

門井慶喜「銀河鉄道の父」

2020-08-02 22:06:52 | Weblog
★ 小学6年生の国語の教科書(光村図書)に宮沢賢治の「やまなし」が載っている。その作品に続いて、畑山博さんが「イーハトーヴの夢」と題して、宮沢賢治の足跡を追っている。

★ 宮沢賢治の生涯を賢治の父、政次郎の視点からドラマチックに描いたのが「銀河鉄道の父」だ。

★ 門井慶喜さんの「銀河鉄道の父」(講談社文庫)を読んだ。巻末に「この物語はフィクションです」と書かれているが、宮沢家の様子はリアリティに富んでいる。創作の過程で、作者は今は亡き宮沢家の人々の声を聞いたのかも知れない。

★ 裕福な商家(質屋)に育った賢治。当時の時代の習わしとして、長男の賢治には家を継ぐことが課されていた。しかしこの御曹司、幼少の頃から変わっていたらしい。野山を散策し、石の観察に没頭する。「石こ賢さん」と呼ばれるまでに。

★ 学業に優れていたため、家業は継がず進学。しかし、彼が目指したのでは学者の道ではなく、農民と苦しみや喜びを共有することだった。

★ 妹トシの死。「永訣の朝」はこの作品の後で読むと一層心に沁みる。そして賢治も結核に冒され、若くして世を去る。

★ 生前はあまり認められなかった彼の作品、死後多くの人々に評価され、現在に至る。

★ 伝記小説というのは、どうしても事実の制約がある。そうした中で、父の視点というのは面白い。普段は家長として今の時代から見れば滑稽なほど威厳を保っている父親が、どうしようもない「親ばか」ぶりを見せつける。しかし、それが実に微笑ましい。

★ 信仰や生き方をめぐり、親子でぶつかることも多かったようだが、それは似た者同士のゆえであろう。この父親にして賢治があった。賢治の作品が生まれた。厳しくそして豊かな郷土の風土も印象的だった。
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