じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

角田光代「父のボール」

2025-02-19 20:54:07 | Weblog

★ 家族には傲慢、権威主義で、外では上司にヘコヘコ頭を下げているような父親像は、向田邦子さんの「父の詫び状」が印象に残っている。

★ 角田光代さんの「父のボール」(「ロック母」講談社文庫所収)にも、家族としては許しがたい父親が出てくる。

★ 作品は、娘の視点で書かれている。娘や彼女の兄である息子の目から見ると、なんともできの悪い父親だ。身勝手で、自分の想い通りにならなければすぐに切れる。モノに当たり散らしたときなど、後片付けが大変だ。母親も不満を抱えているが、それを言った後の後始末が大変なので、従順を装っている。

★ その母親も、ポックリ先に逝ってしまった。子どもたちは早々と実家を去り、一人暮らしになった父親。その父親が癌に冒され、死の床に臥せている。もはや意識も混濁し、臨終が身近に迫っている。

★ 他に身寄りもないから、娘が父親の看護をしている。しかし、それは決して家族愛といったものではなく、むしろ今までの恨みつらみを晴らす時間を過ごしているような感じだ。

★ この父親は単に家族との関係に不器用だったのだろうか。それとも生来に自己中心的な性向だったのだろうか。父親の本音はわからない。

★ 人生いろいろ、家族もいろいろ。身近な存在だけに憎悪も深い。しかし、憎悪はまた愛情と表裏一体なのが憎らしい。角田さんの文章がグングン心に押し寄せてくる。

コメント    この記事についてブログを書く
« 恩田陸「ノスタルジア」 | トップ | 国木田独歩「巡査」 »

コメントを投稿