じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

柚木裕子「臨床真理」

2021-09-04 15:44:23 | Weblog
★ 柚木裕子さんの「臨床真理」(角川文庫)を読んだ。面白かった。

★ 障がい者が暮らす施設で16歳の女性(彩)が「自殺」を図った。彼女は失語症を患い、腕には度重なるリストカットの跡が残っていた。多量の失血で、彩は救急搬送中に亡くなる。救急車に同乗した施設長の安藤に、同じ施設で暮らし彩が唯一心を開いていた男性(藤木司)が「お前が殺したのだ」と暴行。その混乱で救急車は横転した。

★ 藤木司は入院し、心身の治療を受ける。彼を担当する臨床心理士・佐久間美帆がこの物語の主人公。美帆は司から思いがけない秘密を打ち明けられる。自分は人の言葉が色に見えるというのだ。最初はこの能力を信じられなかった美帆だが、「彩は自殺ではない」という司の真摯な訴えに次第に動かされていく。

★ 美帆は、高校時代の同級生で今は警察官になっている栗原と彩の「自殺」の真相を追っていく。そして障がい者を食い物にする人々にたどり着く。ただ、物語はそれだけでは終わらない。最後にはもう一つクライマックスがある(詳しくは書けないが)。

★ 終わってしまえば2時間ドラマによくあるような筋書きだが、飽きさせないのは作者の筆の力だ。「孤狼の血」のように映像化してほしいのだが、障がい者の描写が難しいかも知れない。柚月裕子さんの作品は「孤狼の血」「盤上の向日葵」も面白かった。これからも楽しみにしたい。 
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島田一男「殺人演出」

2021-09-03 10:33:25 | Weblog
★ 新型コロナ感染症の症例が中国・武漢で初めて確認されたのが2019年12月というから、およそ1年半以上も世界中がこの病と戦っていることになる。この間、どれほど多くの人々の人生設計や運命を変えたことであろうか。日本でもコロナ対策を優先するあまり、どれほどの政治家課題が停滞しているであろうか。

★ いや、新型コロナはアーサー.C.クラークの「地球幼年期の終わり」に登場する宇宙船のように、人類の新たな目覚めへのプロローグなのだろうか。破滅か創造か、後から振り返ると今が重要な局面なのかも知れない。一党の総裁の椅子を争っている場合ではないと思うのだが。

★ 連日、新聞に載る世界の新規感染者数、最近、フランス、イギリスが徐々に増えているようだし、イランの増加も気がかりだ。南米ではラムダ株、更にはミュー株と次々と強力な変異株が出現しているという。そのうちギリシャ文字のアルファベットでは足りなくなるかも。

★ お盆に続き、2回目の秋雨前線。気温の変化に自律神経が乱され、憂鬱な気分になりがちだ。コロナでなくても夏風邪を引きそうだ。気をつけねば。さて、昨日は島田一男さんの「殺人演出」(日本推理作家協会70周年アンソロジー「夢現」集英社文庫所収)を読んだ。

★ 島田さんが1946年に発表した作品だという。今から見れば殺人トリックを謎かけるようなシンプルなもので、社会性とか人間の情念とかドロドロとしたものはあまり感じなかった。語り口調は少々芝居がかっていて(時代性なのか)、テンポがよい。キャラクターにイマイチ引き込まれなかったり、トリックが映像的に感じられなかったりと不満も残るが、それは私の読み取りのせいかもしれない。75年も前の作品だから仕方がないかな。

★ 鬱陶しい天気だが、何か美味しいものを食べ、気分を晴らそう!おっと、突然雷が鳴った。神の怒りか・・・。
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江戸川乱歩「防空壕」

2021-09-01 19:15:54 | Weblog
★ 9月が始まり何かと慌ただしく、まとまった本が読めないので、今日は、日本推理作家協会70周年アンソロジー「夢現」(集英社文庫)から江戸川乱歩の「防空壕」を読んだ。

★ 戦後、ある男が空襲の日に起こった秘話を告白する。B29の爆撃、小型爆弾や焼夷弾で燃える町、主人公は破壊のもつ独特な恍惚感に浸りながらも、身の安全を守るため、ある防空壕に入る。そこにはもう一人、彼が理想とするような「若い美女」が避難しており、命の危機に瀕しているせいか欲情が高まった彼は、その女と一夜の契りを結んでしまう。

★ 翌朝、男が目覚めると女性は姿を消し、彼女のことが忘れられない男は、その面影を求めて探し回るというもの。

★ 後半は、その女性の立場から一夜のことが語られる。同じ出来事でも受け取る側によって事実が異なる。その面白さを体験できる。

★ 爆撃に追われる恐怖、燃える町の様子は、空襲を体験した人ならではの臨場感があった。
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