じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

村上春樹「鏡」

2021-09-18 12:01:30 | Weblog
★ 石沢麻依さんの「貝に続く場所にて」(講談社)を読み始めたが、途中で挫折。東日本大震災とコロナ禍でロックダウンしているドイツの町を結び付け、心に響くようなすてきな修飾句にあふれているが、作品に入り込めなかった。純文学は絵画の鑑賞のようなもので、見る(読む)側の好みやタイミングに左右されるのだろう。折を見てまたチャレンジしたい。

★ さて、少し前の新聞で新年度から使われる高校「現代の国語」の教科書が話題になっていた。実用文重視、文学作品軽視と言われる中、ある出版社の教科書は文学作品を採用したという。その中で、村上春樹の「鏡」が取り上げられていた。

★ 村上春樹さんの「カンガルー日和」(講談社文庫)から「鏡」を読んだ。百物語のような語りで進む。主人公の男は20代の頃、ある中学校の夜警をしていたという。いつも通り午前3時の見回りをしていると、人の気配を感じた。よく見ると目の前に鏡があり、気配というのは鏡に映った自分の姿だったのだ。

★ ところが、男は鏡の中の自分自身に違和感を感じる。自分ではあるが自分ではない。鏡の中の自分はこちら側の自分をひどく恨んでいるようだ。金縛りのような状態でしばらく過ごすうちに、鏡の中の自分がこちら側の自分を支配するかのようで、恐ろしくなり、用務員室に逃げ帰ったという。

★ そして、そもそも鏡自体がなかったのだ。

★ 男は何を見たのか。ドッペルゲンガーなのか。なぜ鏡の自分はこちら側の自分を憎んでいたのか。なぜ鏡の自分はこちら側の自分を支配しようとしたのか(そう感じたのか)。なぜ自分は鏡の中の自分を恐れたのか。いろいろ考えさせられる。

★ 主観的な体験なので真偽はわからない。しかし、夜、鏡の中の自分を見るのは、案外こわいものだ。
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北方謙三「岩」

2021-09-17 11:24:34 | Weblog
★ ドラマ「野武士のグルメ」(2017年)、第12話「想い出のハヤシライス」を観てホロっと来た。退職した小心の男。野武士にあこがれ、会社人間時代には見過ごしてきた街を歩く。第2の人生を歩もうとしているようだ。最終回は、学生時代行きつけの洋食屋を訪れる。しかし、店は既に移転。40年の歳月はさすがに長い。近所に聞き込みをして移転先を見つけた男。遂に「想い出のハヤシライス」に再会する。

★ 「孤独のグルメ」は料理が中心だが、「野武士のグルメ」はドラマに重きが置かれているようだ。第2シーズンはあるのかな。

★ さて、短くとも毎日の読書。昨日は集英社編集部編「短編復活」(集英社文庫)から北方謙三さんの「岩」を読んだ。

★ 防波堤で雨宿りをしている男。彼の前で2人の男が海上の岩をめざして泳いでいる。どうやら楽しんでやっているようではなさそうだ。一人は岩にたどり着き、もう一人は途中であきらめて帰ってきた。「彼ら流」の果し合いか。

★ 決闘の影に女あり。ということで、ハードボイルドの世界へ。

★ 終盤、主人公が「岩」への想いを語るところが興味深い。「岩」とは何だろう。締め切りに追われた作家が奮闘している姿が浮かんできた。「岩」に到達できるかどうかのスリル。そして「岩」に到達した後への想い。これは作家だけではなく、誰にもある希望と不安のようだ。

☆ 近隣の中学校、10月5、6、7日に予定されていた修学旅行が中止になった。コロナ禍だから仕方がないとはいえかわいそうだ。5、6、7(コロナ)って語呂が悪かったのだろうか。

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佐野洋「尾行」

2021-09-14 22:48:43 | Weblog
★ 日本推理作家協会編「夢現」(集英社文庫)から、佐野洋さんの「尾行」を読んだ。

★ 20代の若者3人が始めた探偵社。知り合いの弁護士の下請けのような仕事をして経営はそこそこ回るようになった。今回の依頼主は、秘書課長の肩書を持つ40男。仕事の内容はある女性を尾行し、その行動を報告するというもの。さほど手のかかる依頼でもないので引き受けたのだが、どうやらアリバイづくりの片棒を担がされたようだ。

★ ドラマ「古畑任三郎」のエピソードに「ラストダンス」というのがあった。松嶋菜々子さんが二役を演じていた。それを思い出した。
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ドラマ「野武士のグルメ」

2021-09-13 23:16:20 | Weblog
★ 食事の時、グルメ番組が欠かせなくなってきた。「孤独のグルメ」が週1なので、残る週6は他番組をあさっている。今観ているのは「野武士のグルメ」(2017年)。「孤独のグルメ」と同じく久住昌之さん原作だ。

★ 還暦になり定年退職者した会社人間を竹中直人さんが演じる。サラリーマンとして奉職して30数年、彼は今新たな人生を歩もうとしている。彼のあこがれは「野武士」だ。自分の才覚だけで世を渡り歩くワイルドな男。ドラマの中では玉山鉄二さんが演じている。

★ 小心を「野武士」の幻影で奮い起こし、男は近隣の居酒屋、喫茶店、食堂を渡り歩く。「孤独のグルメ」との大きな違いは、中にはひどい料理が出てくるところだ。第2話「悪魔のマダム」のラーメンはひどかった。男は家に帰って鈴木保奈美さん演じる妻のつくったインスタントラーメン(「まるちゃん正麺」だろうか「ラ王」だろうか)を「うまい」と食べる気持ちがわかる。

★ 第3話「朝のアジ」は民宿のごく平凡な朝食。にもかかわらず。白いご飯が実においしそうだ。第7話「雨漏りコの字カウンター」はキャストと一緒に笑いがこみあげてきた。お酒は楽しく飲まなければ。

★ まだ5話残っている。あと5日間は食事のお供にできそうだ。

★ そうそう、最近寝る前に昔の映像を見ている。ユーチューブは本当にありがたい。石川優子さんの「レット・ミー・フライ」、佐々木好さんの「ドライブ」、レベッカの「フレンズ」、相曽晴日さんの「コーヒーハウスにて」「トワイライトの風」。「ポプコン」があった時代。数十年若返る。
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筒井康隆「母子像」

2021-09-12 23:17:17 | Weblog
★ 市役所の集団接種会場で新型コロナワクチンの第1回目接種を受けた。多分市役所の職員であろうスタッフ、それに医師、看護師の連携が見事で、何ら混乱もなく運営されていた。

★ 国民で希望する人はもれなくワクチン接種をする(それも短期間で)という国・地方挙げての一大プロジェクト、菅内閣の評価はともかく、この営みは将来高く評価されると思った。(予約の取りにくさは課題だが)

★ さて、接種の待ち時間に「日本推理作家協会編 謎001 東野圭吾選」(講談社文庫)から筒井康隆さんの「母子像」を読んだ。ユーモアあふれる筒井作品とは趣の違った内容だった。

★ 夫と妻、そしてまだ乳児のごく平凡な3人家族。ところがある日、妻と子が姿を消してしまうのだ。

★ ドラマ「フリンジ」では「もう一つの世界」が描かれ、スティーブン・キングの「ランゴリアーズ」では時間に追われて人々が消えていった。理由はわからないが、理不尽な状況に直面した人々の恐怖が伝わってきた。

★ この作品にも同じような怖さがあった。ごくまれに異世界にいる妻と子の姿が窓に映る。その姿はマリア様とイエスのようだ。まさに母子像のようだ。(川端康成の「心中」と並ぶホラーだった)

★ 作品は余韻を残して終わっている。
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中田永一「なみうちぎわ」

2021-09-11 16:53:58 | Weblog
★ 5年の昏睡から覚めた女性の物語。「LOVE or LIKE」(祥伝社文庫)から中田永一さんの「なみうちぎわ」を読んだ。

★ 高校生の彼女は、小学生の男の子の家庭教師をすることになった。ある日、家の近くの海で溺れている彼を助けようとして彼女も溺れてしまった。男の子は無事に救助され、彼女も救急隊によって一命をとりとめたが、「遷延性意識障害」(寝たきりで辛うじて生命を維持できている状態)になってしまった。

★ それから5年。ある日突然、彼女は目覚めた。1997年に意識を失った彼女は2002年に目覚めた。彼女は今21歳。しかし心は16歳のまま。一方であの日の小学生はもう高校生。かつての先生と生徒の関係にも変化が。

★ 男の子はこの5年間、ずっとある秘密を抱えていた。

★ 愛と恋のちがいについて、化学反応で解釈しているところが興味深かった。「愛とは状態のことで、恋とは状態が変化するときに放出される熱なのではないか」(87頁)。

☆ 作品の中で、9.11同時多発テロが話題に挙げられている。彼女が「眠っている」間に起こった事件。その事件からも20年が過ぎた。

☆ あの日、私は「ニュースステーション」で事件を知った。塾の授業を終え、何気なくつけたテレビでCNNのライブ映像が流れていた。ちょうど久米さんが夏休み中で女性アナが実況をくり返していた。最初は小型機が貿易センタービルに激突したという感じだった。しばらくして、2機目が大きく旋回しビルに激突した。目を疑うシーンだった。

☆ やがて、アフガニスタン紛争へと進展していく。いろいろあったなぁ。
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小松左京「戦争はなかった」

2021-09-10 21:29:09 | Weblog
★ 「永遠の夏 戦争小説集」(実業之日本社文庫)から、小松左京さんの「戦争はなかった」を読んだ。

★ 旧制中学校の同窓会。主人公の男は時間に遅れてしまい、慌てたせいで転倒、壁に頭を打った。大事には至らず既に盛り上がっている宴会に参加する。

★ 懐かしい面々との昔話に花を咲かせていると、どうも話が合わない。同級生たちは口をそろえて「戦争はなかった」というのだ。

★ 戦後の繁栄、民主国家の建設はあの戦争の反省の上にあったのではないか。しかし、仲間たちは、戦争などなかった。なくても民主国家ができたから良いではないかという。納得できない主人公は街頭で「戦争はあった」と訴えるが、結局は狂人扱いされてしまう。

★ 歴史に「たら、れば」はないと言うが、仮定してみたくなるのも人情。ナチスが第2次世界大戦で勝利したなんてドラマもある。

★ 男はパラレルワールドに入ってしまったのだろうか。のどもと過ぎれば何とやら。戦争を体験した世代が減り、戦争の惨禍もいつしか他人ごとに。原発でさえ、福島原発事故直後ではあれほど脱原発が言われたのに、今や再起動の道を歩んでいる。
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芥川龍之介「疑惑」

2021-09-09 19:34:21 | Weblog
★ 近隣の中学校でコロナ感染があったとかで、3年生は学年閉鎖。午前中に全員帰宅させられたらしい。塾としても対応せずにはおられず、今日の中学3年生の授業はすべてキャンセル。

★ 少し時間ができたので、「心に残る物語 日本秀作選 浅田次郎編」(文春文庫)から芥川龍之介の「疑惑」を読んだ。短いけれど、なかなか重い作品だった。

★ 実践倫理学の講義をするため岐阜県に招かれた主人公。毎度の接待に辟易していたのでその旨伝えると、旅館ではなくある素封家の別荘を用意してくれた。講義もいよいよ終盤となり、宿舎でくつろいでいたところ、そっと40がらみの男が訪ねてきた。自分の身の上話を聞いてくれという。

★ 突然の来訪で読書の楽しみを妨げられ、いささか気分を害した主人公だったが、結局男の話を聞くことに。この告白が重い。

★ 明治24年、濃尾地震が起こった際、男は妻と共に被災した。妻は家屋の下敷きになりもだえ苦しんでいた。助けようとしたがどうしようもない。そこへ火の手が迫ってきた。この時、男のとった行動が、彼のトラウマとなっている。

★ この妻、何か障がいがあったようで(「以下82行省略」とあるので詳しくはわからないが)、これが自らの行動の理由になったのではという疑惑が男を苦しめる。

★ 最初は映画「ステキな金縛り」のようだったが、読むにつれ深みにはまっていくようだ。内容も深いが、とにかく芥川の文章がうまい。

★ 近隣の中学校は保健所の調査の結果、濃厚接触者はおらず、明日から平常通りの授業とのこと。まずは一安心。
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綾辻行人「特別料理」

2021-09-08 18:38:50 | Weblog
★ 「短編復活」(集英社文庫)から綾辻行人さんの「特別料理」を読んだ。主人公は某大学哲学研究室の助手。学生時代、ひょんなことから虫(よく家の中にいる黒いヤツ)を食べてしまい、以来、ゲテモノ食にハマってしまったという。

★ 彼はある人から紹介された「その筋」の店に妻と訪れる。普段馴染みのない食材。美味しいかどうかはともかく、食の既成概念を壊し、チャレンジすることに快感があるようで、食材はだんだんエスカレートしていく。そして最後には・・・。

★ 最初、気味悪がって嫌がっていた妻を説得する主人公の屁理屈が面白い。難解な用語を駆使し、素人をけむに巻く様子は学者への皮肉だ。筒井康隆さん的な雰囲気も感じた。

★ 食材から料理を想像するだけでゾクゾクするのだが、それでいて作品にひき入れられる。怖いもの見たさかな。「そろそろ子供をつくろうか」のセリフが怖い。

★ 中国の春秋時代、斉の料理人・易牙を思い出した。

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相場英雄「トップリーグ」

2021-09-05 22:00:38 | Weblog
★ 与党第一党の総裁選、それに続く総選挙。永田町界隈のお祭りが始まっているようだ。

★ そんな中、ドラマ「トップリーグ」を見始めたら、あまりに面白かったので、その原作、相場英雄さんの「トップリーグ」(ハルキ文庫)を読んだ。

★ 「トップリーグ」とは、内閣総理大臣や官房長官と一対一(サシ)で話せる記者のこと。紋切り型の記者会見とは違って、政治家のホンネが聞ける人々だ。一方で、政治家に食い込めば食い込むほどに、権力とメディアとの癒着の恐れがある。この作品は、政治部に異動した一人の経済部記者が、政治と触れ、その暗部との葛藤する姿を描く。

★ 小説であるから言うまでもなくフィクションだ。しかし、芦原総理が安倍(元)総理で、阪義家官房長官が菅義偉官房長官(当時)であることは明らかだ。

★ 作中の阪義家官房長官、貧農の出でありながら苦労の末、政権中枢に食い込み、人事を巧みに操りながら官僚を掌握するところは見事だ。様々な機密に触れることができる官房長官という役職で、芦原長期政権を支えている。麻生氏らしい人物や谷垣氏らしい人物、二階氏らしい人物も登場し、権力闘争をしている様子が面白い。

★ この作品は、政治権力を描くとともに、かつてのロッキード事件(作中ではクラスター事件)にも触れる。田中(作中では田巻)金権政治と、そのカネの怪しい流れ。その裏金と阪官房長官との関りを暗示している。

★ とにかく政治家という人々の習性がよくわかる。権力を維持するための権謀術数は見事だ。すべてが計算づく。メディアをどう抱き込むかも実力の内。そう考えれば、現実世界の菅総理の退陣劇。人事権、解散権を封じられ八方ふさがりになった末の退陣と言われるが、ここにも裏があるのかも知れない。

★ 菅、岸田の直接対決は岸田優位の情勢だった。このままでは安倍・菅路線が途絶えてしまう(大福【大平VS福田】戦争が今なお尾を引いているのか)。「宏池会」系に政権が移れば、まずいことが暴露されるかも知れない(一方で「大宏池会」構想もくすぶっているが)。菅氏が総裁選から下りれば乱戦となり、少なくとも岸田氏の圧勝はなくなる。そんな思惑があるのか。

★ 本人たちは必死だろうが、傍目で見ている分には面白い。相場氏は「トップリーグ」の中で語らせる。「永田町は強烈な嫉妬の海です」と。権力争いは司馬遷の「史記」の時代から変わらない。敗者を数万人も生き埋めにしないだけ、マシになったということか。
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