★ 昨日の「それぞれの終楽章」に続き、今日も壮年の物語を読んだ。吉村昭さんの「遠い幻影」(文春文庫)から「青い星」。
★ 40年の会社勤めを終え、主人公は思い出の数々を拾う旅を余生の楽しみにしている。彼の生地は戦争で焼け、すっかり姿を変えていたが、妻と結婚して3年間暮らしたアパートはかろうじて現存していた。
★ 懐かしく歩を進めると、小学生時代の同級生と出会い、昔話に花が咲いた。ふと話題が主人公の兄のことになった。主人公には2人の兄がいた。長兄は家業の工場を継ぎ、次兄は徴兵され戦地に赴いた。
★ 当時次兄には彼女がいたが、若い二人の交際に母親が反対していた。家業を継いだ長兄も仕事に精を出さず、色恋に溺れる弟を快く思わなかった。そうこうしているときの徴兵だった。そして、次兄は戦死した。
★ それから50年。今、昔の人々と話す中で、当時次兄が付き合っていた女性が健在であると知る。そして、彼女は当時、次兄の子を身ごもっていたことも知る。
★ 彼女は今、名古屋で飲食業を営んでいるという。主人公は、客を装って店に入った・・・。
☆ 次兄の彼女の消息をたどるため、主人公が次兄の古い友人を訪ねた時、その友人がつぶやいた言葉「あれから五十年もすぎたんですね。つい先頃のことのようですが・・・」
☆ 私にも、最近、この心境がよくわかる。