じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

吉村昭「青い星」

2023-09-20 15:29:07 | Weblog

★ 昨日の「それぞれの終楽章」に続き、今日も壮年の物語を読んだ。吉村昭さんの「遠い幻影」(文春文庫)から「青い星」。

★ 40年の会社勤めを終え、主人公は思い出の数々を拾う旅を余生の楽しみにしている。彼の生地は戦争で焼け、すっかり姿を変えていたが、妻と結婚して3年間暮らしたアパートはかろうじて現存していた。

★ 懐かしく歩を進めると、小学生時代の同級生と出会い、昔話に花が咲いた。ふと話題が主人公の兄のことになった。主人公には2人の兄がいた。長兄は家業の工場を継ぎ、次兄は徴兵され戦地に赴いた。

★ 当時次兄には彼女がいたが、若い二人の交際に母親が反対していた。家業を継いだ長兄も仕事に精を出さず、色恋に溺れる弟を快く思わなかった。そうこうしているときの徴兵だった。そして、次兄は戦死した。

★ それから50年。今、昔の人々と話す中で、当時次兄が付き合っていた女性が健在であると知る。そして、彼女は当時、次兄の子を身ごもっていたことも知る。

★ 彼女は今、名古屋で飲食業を営んでいるという。主人公は、客を装って店に入った・・・。

☆ 次兄の彼女の消息をたどるため、主人公が次兄の古い友人を訪ねた時、その友人がつぶやいた言葉「あれから五十年もすぎたんですね。つい先頃のことのようですが・・・」

☆ 私にも、最近、この心境がよくわかる。

 

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阿部牧郎「それぞれの終楽章」

2023-09-19 15:43:03 | Weblog

★ 近隣の小中学校ではコロナが猛威をふるっている。学級閉鎖も聞こえてくる。マスクを装着している児童・生徒が少数派となり、当然のようにウイルスは活躍を始めたようだ。

★ さて、阿部牧郎さんの「それぞれの終楽章」(講談社文庫)を読み終えた。第98回(1987年)直木賞受賞作。巻末に「1991年5月28日読了」とメモしているから、再読になる。ただ、30代に読んだのと60代で読んだのとでは感慨が違った。

★ 主人公の男は、高校時代の友人の訃報を聞き、久しぶりに東北地方の故郷を訪れる。かつての日々を懐かしむと同時に、高校卒業後に友人たちが歩んだ道に心を痛める。そしてそれぞれが人生の最終章を迎えようとしている。

★ 終盤は、主人公が自らの人生を振り返る。エリート官僚でありながら戦争に翻弄され、紆余曲折の末、何とか東北地方の閑職にありついた父親。その父親に伴って主人公も京都から父の任地へと移住する。

★ 理想は高く持ちながらも、口下手で自分をうまく表現できない父親。やがて酒に溺れていく。そんな父親を嫌悪しつつ、自らの中に父親との類似性を認める主人公。父親を避けるかのように京都の大学に進学。卒業後は東京の企業に就職する。

★ それから30年。彼は小説家となり、痛む腰を抑えながらようやく安住の地を見つけたようである。そして、彼もまた終楽章を迎えようとしている。

☆ 主人公が生きた戦中、戦後と今の時代は大きく異なっているが、終楽章をいかに迎えるかという課題は時代を超えて共通のようだ。

☆ 「VIVANT」最終回の視聴率は20%近かったとか。果たして続編はあるのだろうか。「皇天親無く 惟徳を是輔く」がまだ回収されていないしなぁ。 

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小池真理子「食卓」

2023-09-18 15:16:45 | Weblog

★ 敬老の日。65歳以上の人口が約3600万人。日本の全人口の29%を占めるという。平日の午前11時台のスーパーに行くと、この数字(いやそれ以上の高齢化率)を実感する。そういう私も、気持ちばかりは若いものの、きっちり高齢者の仲間入りだ。

★ さて、あと何年生きられますやら。

★ 今日は小池真理子さんの「玉虫と十一の掌篇小説」(新潮文庫)から「食卓」を読んだ。

★ 主人公の女性、彼女の理想は夫と共に老い、夫が先に旅立ったら、その遺影に毎日おいしい料理を備えること。目の前に夫がいなくとも、夫に愚痴を言い、夫と共に笑い、夫と語らいながら余生を楽しむこと。彼女はいつか観たドキュメンタリー映像の老婆にあこがれる。

★ 彼女には離婚歴があった。結婚した相手から、自分は同性愛者だ告白され、別れを告げられたのだ。彼女にはわずかに親の遺産があったし、自らもピアノを教えて収入が得ることができた。さしあたり生活には困らない。このまま猫でも飼って、独身で通すのも悪くないと思い、ペットショップを訪れた。

★ そしてそこで、新たな出会いがあったのだが。

☆ 添い遂げたくとも叶わない関係がある。何となくだらだらと続く関係もある。これを昔の人は「縁」と言い、納得していたのだろうか。

★ 女性の次の心情が心に響く。「年をとったら、いろいろなことが見えてくる、はっきりしてくる、賢くなる、というのは大嘘だ」「年を重ねるほど、ものごとが余計にわからなくなる。混乱する」

★ 女性はただ、好きな男と毎日死ぬまで、差し向かいで手作りの料理を食べる、それだけを心の支えに生きてきたのだ。それなのに。とは言え、弱音を吐きつつも、すぐ前向きになれる彼女は強い。

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サキ「肥った牝牛」

2023-09-17 23:55:45 | Weblog

★ ドラマ「VIVANT」最終回。いわゆる考察隊が話題を膨らましていたが、案外あっさりとした結末だった。何か続編がありそうな。しかし、「家政婦のミタ」も何かありそうで結局なかったけれど。

★ 先日、津村記久子さんの「サキの忘れ物」を読んで、その中で紹介されていたエピソード、「サキ短篇集」(新潮文庫)から「肥った牝牛」を読んだ。

★ 昭和33年(1958年)初版の文庫なので、活字が小さいし、中村隆三さんの訳も少々古い。難渋しながらも主旨は読み取れた。

★ わけあって牛専門の画家となった男。近隣で飼っている牛が隣家の庭を荒らしていると助けを求められる。牛専門の画家ではあるが、牛の扱いには疎い。何とか追い払おうとしていると、牛は庭からリビングに。結局隣家に小言を言われることに。

★ なんやかんやで牛は家を後にするのだが。ちょっとしたエピソードって感じだった。

 

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佐々木譲「兄の想い」

2023-09-16 20:33:07 | Weblog

★ 塾生は学校の様子をよく話してくれる。近隣の中学校では1年生の担任が休養に入ったという。40代のベテランの先生だというが、クラスをうまくまとめられなかったようだ。代わりに、教頭先生が授業を代行しているとか。しかし、それが子守唄のようでとのこと。

★ その教頭先生もベテランなのだが、管理職となり授業から遠ざかっているうちに、感覚が鈍ってしまったのだろうか。それにしても教員不足が深刻そうだ。学校の荒れは初期段階で手を打つのが最良の策だ。ところが、人手不足で後手に回っている様子。

★ 恒例の合唱コンクール、あるクラスでは男子たちがボイコット(集団で参加しない)に動いているとか。この先、学校が大きく荒れなければよいのだが。

★ さて今日は、佐々木譲さんの「廃墟に乞う」(文春文庫)から「兄の想い」を読んだ。北海道警、わけあって休養中の仙道刑事が活躍する警察小説。

★ 北海道の漁師町で、将来を託されている若い漁師が、町の有力な漁師の親方を刺殺するという事件が起こった。以前世話になった加害者の親族からの依頼を受け、個人的な相談ということで仙道がその町を訪れる。

★ 事件の背景には、漁師間の引き抜き騒動があるようだが、それだけではないようだ。事件の真相に気づきながら口を閉ざす家族たち。加害者も罪を認める様子だ。

★ 真相を求めて仙道は走り出す。

☆ 久しぶりに映画「仁義なき戦い」を観た。面白い。高倉健さんや鶴田浩二さんの仁侠映画も最後はスカッとするが、実際の抗争は「仁義なき戦い」のようにドロドロしているのだろうね。

 

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津村記久子「サキの忘れ物」

2023-09-15 21:34:14 | Weblog

★ 阪神タイガース18年ぶりの優勝。久しぶりなので優勝の瞬間を普段見ないサンテレビで観た。私は村山、江夏、田淵、掛布、岡田、バースの時代しか知らないから、選手の名前を聞いてもよくわからなかったが、とりあえずめでたい。

★ 映画「Fukushima50」を観た。事実に基づいた作品で、原作が同じだから、NETFLIXの「THE DAYS」の復習と言う感じで観た。設計で想定された2倍以上の圧力に耐え、格納器が爆発しなかったのは、結局は「たまたま」だったのか。幸運だったのか。歴史に「たら、れば」は禁物だが、もしかしたらこの国の姿はすっかり変わっていたのかも知れない。この出来事から教訓を学べねばと思った。(それにしても当時の総理大臣は怒鳴るばかりで、ひどい)

★ さて今日は、津村記久子さんの「サキの忘れ物」(新潮文庫)から表題作を読んだ。2021年の大学入試共通テストに出題されたとき、課題文は読んでいたが、文庫が出たので改めて全文読んでみた。

★ 千春は高校を中退し、病院に併設された喫茶店でアルバイトをしている。父母の関係がうまくいかず、家庭は冷え冷えとしている様子。付き合っていた彼氏にも都合よく遊ばれていたようだ。千春は、いつしかやりたいことが見つからず、自分から何かをしようなどと思わない日々を過ごすようになっていた。

★ そんなある日、祖母よりも若く、母よりも年配の女性が喫茶店に文庫本を忘れていった。サキの短編集だ。彼女は「サキ」という響きに心を動かされた。結婚して子どもが生まれたらサキと名付けようと思っていたからだ。

★ 普段全く本など読まない千春。心ひかれるままに、本屋でサキの本を買った。1冊の本との出会い、あるいは一人の女性との出会いが、彼女の人生を変えていく。

★ 課題文では取り上げられていなかったが、最終章に感動した。

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三浦哲郎「おおるり」

2023-09-14 14:43:34 | Weblog

★ 東日本大震災で起こった東京電力・福島原子力発電所事故。それをテーマにしたNETFLIXのドラマ「THE DAYS」を全話観終わった。面白かった。当時の吉田所長を役所広司さんが演じられていた。

★ 決死の覚悟で事故対応にあたる現場。それに引き換え、メンツにこだわり、あたふたと慌てるだけの東電の経営陣や政府関係者のぶざまな様子が印象的だった。

★ 中でも、原子力保安院の院長や原子力安全委員会の会長はまったく無能で役に立たず、それに閣僚だろうかそれとも政党の幹部だろうか、国会さながらにただ喚き散らすだけの政府関係者。中でもひどいのがイラつき怒鳴るばかりの総理大臣。総理大臣が現地に飛んで何か成果があったのだろうか。

★ これを見るに、この国の危機管理のもろさを実感した。廃炉作業は今も続き、「処理水」(あるいは「汚染水」)や残土の問題も積み残されている。「怪獣」の後始末は大変そうだ。(のど元過ぎれば何とやらで再び原子力発電依存も高まりつつある)

★ 引き続き、同じテーマを扱った「Fukushima50」を観始めた。こちらは吉田所長役を渡辺謙さんが演じられている。

 

★ さて今日は、三浦哲郎さんの「おおるり」(「日本文学100年の名作 第7巻」新潮文庫所収)を読んだ。今期のテレビドラマ、「VIVANT」と並び、「ハヤブサ消防団」が好調だ。「おおるり」は消防士が主人公で消防団も描かれている。

★ この城下町の消防署には屯所と呼ばれる分署がある。2人の署員が交代で有事に備えて控えている。とはいえ幸運にして火事で出動することは稀で、署員は普段、息抜きに屯所に顔を出す消防団たちの相手をして時間をつぶしている。いざとなれば共に火の中に飛び込む仲間たち、日頃から気心を知っておくことが大切だという。

★ 屯所では金魚と数種の野鳥を飼っている。野鳥の中でも「おおるり」の鳴き声がうつくしいようだ。向かいの市民病院で付添人をしているという女性がある日、美しい鳴き声の主を探して屯所にやってきた。

★ 物語では「おおるり」の美しいさえずりを背景に、2つの死が描かれていた。

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野坂昭如「ベトナム姐ちゃん」

2023-09-13 19:01:13 | Weblog

★ 季節の変わり目のせいか、コロナに感染して休む生徒が増えてきた。5類に移行し、もはや第9波ともなるとニュース性は薄れてきたが、コロナ感染症は決して終息していない。

★ さて今日は、野坂昭如さんの「ベトナム姐ちゃん」(「日本文学100年の名作 第6巻」新潮文庫所収)を読んだ。第6巻は1964年から1973年の作品が収められている。激動の時代、政治の時代だけあって、なかなか面白い作品が集まっている。

★ 世の中が乱れると面白い作品が現れるというのも興味深い。

★ 物語の舞台は横須賀の歓楽街。時代はベトナム戦争の雲行きが怪しくなったころ。横須賀にはベトナムから帰還した海兵隊員が上陸し、ひと時の休息を過ごす。そしてその街には、彼らに性のサービスを提供する女性たちもいた。

★ この作品に出てくる弥栄子という女性もその一人。もはや30代も半ばを超えたが、徴兵され生死の境に直面した20歳そこそこの米兵を癒している。彼女はいつからか「ベトナム姐ちゃん」と呼ばれるようになった。

★ 彼女を動かすもの。それは太平洋戦争中のある体験だった。

☆ 小説家も戦争を経験した人たちが少なくなった。本当に生きるか死ぬかの経験をした人はどこか凄みが違う。

☆ 重いテーマだが、野坂節で語られると、歌詞のように物語が流れていく。

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辻原登「家族写真」

2023-09-12 16:24:56 | Weblog

★ ドラマ「VIVANT」はSNSを巧みに使って成功している。筋書きに込められた謎、あちこちに散りばめられた伏線。その回収をめぐって、諸説奮発するのが面白い。視聴者参加型謎解きという感じか。

★ NETFLIXで「THE DAYS」を観始めた。2011年3月11日、東日本大震災でメルトダウンの危機に瀕した原子力発電所を描いている。東京電力が「東央電力」になっていたり、菅直人総理大臣が「東総理大臣」になったりと若干のデフォルメが施されているが、大筋は実際に起こったことが描かれている。

★ 第1回から、事故の実態がつかめずにいら立つ総理大臣の姿が印象的だった。原子力保安院の院長に「君の出身大学はどこか」と聞き、脇谷院長(モデルは寺坂院長)が「東京大学経済学部です」と答えるあたり、なかなか面白かった。

★ さて今日は、辻原登さんの「家族写真」から表題作を読んだ。田舎に住む一家。父親は収入役をしている。長女が高校を卒業し大阪市内の電器会社に就職するというので、家族で記念写真を撮ろうと提案する。

★ 最初は気の乗らなかった家族だが、なぜかこの時ばかりは自説を曲げなかった父親に従って、街の写真館で記念撮影をすることに。父と母、子ども4人の6人家族、食事をした後でいざ撮影。緊張する家族。何とか和らげようとする写真館の店主。さて、どんな写真が仕上がりますやら。

★ それから半年。穏やかだった家族の風景が一変する。故郷に帰ってきた長女は、この事態をなんとか受け入れようとするのだが。

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川上弘美「さやさや」

2023-09-11 14:41:37 | Weblog

★ 「論集」の原稿を提出。一仕事終えたという感じ。11月には「偲ぶ会」が催されるという。

★ 日曜夜の楽しみは「VIVANT」だ。第9話も面白かった。来週はいよいよ最終回。昨年は「鎌倉殿の13人」にはまったが、今年はこの作品だ。

★ さて今日は、川上弘美さんの「さやさや」(「日本文学100年の名作 第9巻」新潮文庫所収)を読んだ。

★ 主人公の女性が年齢不詳(たぶん主人公より相当年上かな)の男性と蝦蛄を食べ、その後、暗い夜道をどこまでも歩いていく話。

★ 主人公と男性が並んで蝦蛄を食べている風景は「センセイの鞄」の場面を思い出す。

★ 男性とひたすら歩く話に、幼い頃の叔父のエピソードをうまく織り込んでいる。接吻や「したばき」と上品な表現が良い。酔っぱらった女性が夜明け前に、カエルの声が騒がしい草むらで、小雨に濡れながら放尿する話ながら、何か情緒がある。

★ 「咳をしても一人」と詠んだのは尾崎放哉だったか。さみしい男女の風景からこの句が浮かんできた。

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