山浦清美のお気楽トーク

省エネ、農業、飛行機、ボウリングのことなどテーマ限定なしのお気楽トークができればと思っております。

ボールスピードを上げるには~バックスイングを高くする!?

2020-06-04 | ボウリング
 ボールスピードを上げるには、バックスイングを高くしてやれば良いという説明がされることが多いようです。
事実「スポーツ・ボウリング(※1)」のP41にそれらしき解説がしてあります。もっとも、ここにはスイング・パワーの大きな部分とされております。そして「身体の運動量は保持している物体に移転される」とも。更には、腰や肩の捻りでプラスαのパワーを得ているとも・・・。
 これを読んでいると物理を少しでも齧った方ならば、頭がクラクラッとくるかも知れません。ここで仕事と仕事率がごちゃ混ぜに使われており、運動量保存則とスイング・パワーがどのような関係にあって、ボールスピードに関係してくるのかといったことが何も語られていません。

 さて、ボウリングのスイングは振り子の運動に例えられます。重力は保存量ですから、エネルギー保存則が成立しております。つまり、運動エネルギー+位置エネルギーは一定値となります。
 ボールの質量をm、リリース時の速さをv、肩からボールまでの長さをlとしますと、リリース位置からバックスイングのトップ(この時ボールは静止)までの鉛直方向の角度をθとします。高さの差は、l(1-cosθ)と表せますから、エネルギー保存則より、
 1/2mv^2=mgl(1-cosθ)
が得られます。
よって、リリース時のボールスピードは
 v=√(2gl(1-cosθ))
で与えられます。

 さて、ここで実際に計算してみることにしましょう。
l=0.5m、重力加速度g=9.8m/s^2として、バックスイングの角度を45°、60°、90°、180°でそれぞれ計算してみましょう。
45° ・・・ v≒1.7m/s≒6.1km/h
60° ・・・ v≒2.2m/s≒8.0km/h
90° ・・・ v≒3.1m/s≒11.3km/h
180° ・・・ v≒4.4m/s≒15.9km/h

 という結果が得られました。どんなにバックスイングを高くしても15km/h程度しかボールスピードは得られません。それどころか60°でも最大スピードの半分も得られるということが分かります。
 これでは如何にリーチが長くても30km/hを超えることは無理でしょう。ちなみに、このスピードを得るためには高さの差が3.5m以上必要となります。いくらリーチの長い人でもこれは無理な話ですね。
 助走のスピードが加わるという方もいらっしゃるでしょうが、10~20km/hの助走はそもそも無理ですし、第一リリース時にはほぼ停止していませんか。ということでこの説明にも無理がありそうです。

 では一体全体どのように考えれば良いのでしょうか。先に指摘した書籍「スポーツ・ボウリング」にいみじくもヒントが隠されていました。それは「身体の運動量が物体に移転される」ということです。

 そこで、ボウラーの質量をM、ボールの質量をm、ボウラーのリリース直前の助走スピードをV、リリリース直後の助走スピードをV'、リリース直前のボールスピードをv、リリース直後のボールスピードをv'とします。
リリース直前と直後の運動量は保存されるので、
 m(v+V)+MV=mv'+MV'
となります。
これをv'について解くと
 v'=v+(m+M)V/m-MV’/m ・・・①
を得ます。
 この式の意味することを評価してみましょう。
 静止してリリースする場合(例えば0歩助走)はV=V'=0と考えられますので、①に代入しますと
 v'=v
を得ます。これはスイングのみによるボールスピードに一致します。つまりバックスイングの高さによるボールスピードとなります。
 次に、一定の速さで助走しながらリリースした場合を検討してみます。この場合V=V'と考えられますので、①に代入しますと
 v'=v+V
を得ます。これはボールスピードがスイングと助走によるスピードの和ということで、予想されるイメージに合致します。

 では、ボールスピードが最大となるのは、いうまでもなく①の右辺の第3項=0、即ちV'=0となる場合です。これは助走スピードがリリースした瞬間に0となることを意味します。これは余り現実的なことではありませんが、リリース直前に助走の最大スピードとし、リリースの直後には静止していることがより速いボールスピードを得るために必要であることを意味します。

 せっかくですから、①の式に実際の数値をあてはめて評価してみましょう。
ここで、ボウラーの体重を70kg、ボールを15ポンド≒6.8kgとし、振り子スイングによるボールスピードv=2.2m/s、リリース直前の助走スピードをV=1.0m/s、リリース直後の助走スピードをV'=0.5m/sとしますと、
 v’=2.2+(6.8+70)×1.0/6.8-70×0.5/6.8≒8.3m/s≒30.0km/h
となり、ボールの初速は当たらずとも遠からずといった結果が得られるのではないかと考えられます。

 ①の式は理想的な物理的条件の下で得られたものですので、現実のボウリングにそのまま適用できるものではありません。
実際には、腕の振りに力が加わるでしょうし、腰や肩の捻りによる力もあることでしょう。
しかしながら、バックスイングの高さはほとんどボールスピードアップには寄与しないことや、どのような場合に最大スピードが得られるかといったことについては目安が出たのではないかと思います。

 ことの発端は、(※1)の書籍にv=√(2gh)といった式が書いてあったことでした。読んだときには確かになと実際に数値をあてはめもせずに信じ込んでしまったのでした。数式で書いてあるとなるほどと納得してしまい、ボールスピードアップ=バックスイングを高くするといった図式に嵌ってしまっていたのです。物理的には実現不可能な方法で、無意味な努力を積み重ねていたということになります。

 

(※1) 宮田哲郎著「スポーツ・ボウリング」ベースボールマガジン社



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