河村顕治研究室

健康寿命を延伸するリハビリテーション先端科学研究に取り組む研究室

CKCトリビア(どっこいしょ)

2009-01-11 | CKCトリビア
突然閃いたアイデアというのは二関節筋のメカニズムを応用して介護用の装具を開発できるのではないだろうかというものであった。
添付した図がその時に描いたラフスケッチであるが、大腿直筋に代わるようなベルトを大腿前面に装着する。
介護者が被介護者の腰を引く動きが股関節伸展モーメントを引き起こし、これがベルトによって膝伸展モーメントに転換されるという仕組みである。
さらに背当てのパッドを利用して座位保持にも利用できる。
すなわち、一人では座位もとれないような患者さんがこのベルトを装着すると良肢位で端座位が保持でき、介護者がベットから車いすへの移乗介護を行う時には楽に介護が行えるというベルトである。

私はこのベルトに「どっこいしょ」というネーミングをした。
介護関係の装具には思わず笑ってしまうようなネーミングの商品が多くて、まねてみたのである。
後から知ったが、ロシアだかどこかの国のツアーガイドの人が最初に覚える日本語が「どっこいしょ」だそうだ。
バスで観光地巡りをして、帰ってきて座席に座る時みんな必ず「どっこいしょ」と言うらしい。

こういった装具は少なくとも私は見たことも聞いたこともなかったので特許も取れるのではないかと思った。
しかし、その後約1年くらいの間は私の頭の中だけにあって日の目を見ることはなかった。
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CKCトリビア(二関節筋はパワートランスファー)

2009-01-10 | CKCトリビア
さて、CYBEX 6000を用いてCKC運動の関節モーメントや筋電図を計測していて、不思議でしょうがない事実に遭遇した。
膝関節屈曲60度で固定して等尺性にレッグプレスを行わせると、足部の出力はきれいに股関節から足部へと向かう。
これは関節モーメントでは股関節はほぼゼロであり、膝伸展モーメントで出力を行っていることを示している。
かなり鍛えた男子大学生では、OKCでの膝伸展モーメントはざっと200Nmくらいである。
これがCKCで計測すると膝伸展モーメントが400Nmとほぼ2倍になるのである。

これはどのように解釈したらよいのだろうか。
通常の解釈は股関節伸展モーメントが大腿直筋などの二関節筋の働きで膝伸展モーメントに転換されたとするものであろう。
たとえば大殿筋による股関節伸展モーメントはそれを打ち消すだけの大腿直筋の働きがあれば股関節モーメントはゼロになる一方で、膝関節では大腿直筋は膝伸展モーメントを発揮する。
したがって大腿直筋が十分緊張すれば股関節伸展モーメントを膝伸展モーメントに転換できるという解釈である。

添付した図は当時私が思考実験のためにWorking Model 2Dというコンピューター上でニュートンの力学空間をシミュレートできるソフトを使ってあれやこれやと試行錯誤していた時のものである。
単関節筋はモーターで再現し、二関節筋はアクチュエーターで再現した。
この時の結果では、股関節周辺の単関節筋の発揮する力を大腿直筋やハムストリングなどの二関節筋を組み合わせることで膝伸展モーメントに転換するということは比較的簡単にできそうであった。

ところが筋電図の計測は矛盾していた。大腿直筋の筋放電は著明に抑制されているのである。
同様の働きをする大腿筋膜張筋も筋放電は著明に抑制されている。

現在のところ、私の解釈は筋張力と筋放電は必ずしも一致するものではないから、大腿直筋や大腿筋膜張筋は腱様作用で筋放電を過大に出すことなく、必要な張力は発揮しているのではないかというものである。

この頃、大殿筋の筋力が大体直筋を伝わって膝伸展筋力に転換されるというようなイメージを頭の中で繰り返し描いていたら、あるとき突然発明のアイデアが浮かんだ。
ちょうど、お正月に実家に帰ってソファに寝転んでいた時のことである。
あれやこれやと考えを巡らしていたとき、雷のようにそのアイデアが閃いた。
そのアイデアについては次回述べることにする。
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簡易なCKC計測システム

2009-01-09 | CKCトリビア
平行四辺形理論を見いだした時、これまできれいに計測できるもののその意味が良く分からなかったCYBEX 6000でのCKC計測の解釈がすっきりとできて感動した。
それだけでなく、この理論を応用すれば簡易なCKC計測システムが作れそうに思えた。
そこで粘れば今頃は新しい何かができていたと思うのだが、他にもいくつも研究テーマを見つけたものだからいつのまにかそのままになってしまったのである。

昨年春から通信制の大学院ができて、特別な計測システムを持たない一般病院勤務の院生の研究指導を行うことになった。
調査研究であればあまり問題にならないが、私の指導を希望する人はCKCでの計測や運動指導をテーマにする人が多いので、何らかの計測システムを必要とする。
そこで、最近取り組み始めたのが一般家庭で使用されているデジタル体重計を計測に利用するというものであるが、この平行四辺形理論がこの計測に生かせるかもしれないと考えている。
体重計は計測面に対して垂直の力しか計測できないが、逆にある力の分力を計測したい時には設置の傾きを調整するだけで簡単に計測できるというようにも解釈できる。
架空の平行四辺形をデザインして架空のレバーアームに垂直の分力を計測できるように体重計を設置すれば、下肢3関節のモーメントの総和が求まるのではないかと考えられる。
あるいは、しっかりと出力できる設定で計測を行い、演算処理で補正をかけるという手法も良いかもしれない。
OKCの計測と比較すると複雑で直感的に理解しづらいのが欠点だが、本質的に下肢の出力は足部の蹴る力ではなくて関節のモーメントで評価しなければ意味がない。
これは多くの人が誤解していることだが、CKCでは膝関節が伸展位に近いほど強い力で蹴ることができるが、関節のモーメントで見た場合、伸展位ではモーメントアームが小さくてモーメント自体はさほど大きくないのである。
実際には屈曲位の時の方が大きなモーメントを発揮できる。
最大の関節モーメントを発揮できる角度は何度かと言うことになるが、それはCYBEX 6000でのCKC計測値が示してくれている。
やはりOKCと同じ膝関節屈曲60度あたりなのである。

ちなみに後日、ハムストリングの膝伸展作用については改めて記載するが、CKCの状況下では股関節角度にかかわらず膝関節屈曲角度60度まではハムストリングは膝伸筋として作用する。
膝関節の屈曲角度が深いとハムストリングは膝屈筋として作用するので、それらもモーメント発揮には少なからず関係していると考えられる。
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CKCトリビア(平行四辺形理論)

2009-01-08 | CKCトリビア
さて、いよいよここからがおもしろいところである。
ロードセルで外力の計測ができて下肢の各関節のモーメントも計算できるようになったのではあるが、いろいろとデータをいじっているとCYBEX 6000で計測できるトルク自体が股関節・膝関節のモーメントの総和を表しているように思えて仕方がなかった。
労災リハ工学センターの鈴木先生に相談したところあっと驚く考察が生まれてきた。
読者は果たして理解できるだろうか。

我々の考えている評価機器の原理は以下のようなものである。すなわち股関節位置をH、膝関節位置をK、足関節をA、トルク計測のアームの回転中心をC、足部の荷重のかかる位置をFとしたとき、H,K,A,Cで平行四辺形を形づくるように設定する。H,K,A,Cの各点から力ベクトルに対して垂直な線を引き各点をそれぞれH`,K`,A`,C`とする。各関節のモーメントの比較は各点から引いた垂線の長さであるモーメントアームの長さで比較できる。このとき、トルク計測は重力補正を行うため各体節には質量はないものとし、等尺性の計測を行うので静的な状態で考察する。三角形の相似の関係から各関節のモーメントアームの長さを足したものがトルク計測のモーメントアームの長さに等しくなる。まとめると、下肢の各関節とモーメント計測の中心軸が平行四辺形を形成すると、計測されたトルクは下肢の3関節の発揮したトルクの総和となる。この理論を仮に“平行四辺形理論”とする。

要するに、平行四辺形を形成するように設定を行うと、ロードセルやビデオの撮影など一切しなくても、下肢3関節のモーメントの総和が計測できると言うことなのである。
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CKCトリビア(CYBEX6000で行ったCKC運動の筋張力解析)

2009-01-08 | CKCトリビア
ロードセルに投資したことによりCYBEX 6000を応用したCKC運動時の下肢に働く外力の計測が可能となり、当初目的としていた筋張力のシミュレーションが可能となった。労災リハ工学センターの元田先生、鈴木先生の協力を得てシミュレーション結果が明らかとなった。
筋電図の計測結果と同じように大腿四頭筋とハムストリングの共同収縮が現れており、予想通りの結果であった。
ただ、二関節筋である大腿直筋の筋収縮はほとんど出ていない。
最適化手法の問題点とされる二関節筋の筋張力が現れないという現象がここでも出てきていた。

シミュレーションの結果はともかく、足部に働く反力は股関節と膝関節の間を抜けて、両方の関節にバランス良くモーメントを分散しているのは明らかで、運動様式としては理想的であった。
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ロードセルを買う

2009-01-07 | CKCトリビア
こういった研究を行っていると、次第に研究費もまかなえるようになってきた。
CKC運動を行っている時の筋張力のシミュレーションを行って膝関節ストレスを求めようとしたのだが、CYBEX 6000のデータでは明らかにデータ不足であった。
それというのも、CYBEXのレバーアームの回転中心周りのトルクを計測しているわけであるから、足部の出力としてはレバーアームの長さが分かっているので回転の円弧の接線方向の力は求められるが、レバーアームの軸方向の力は分からないのである。
労災リハビリテーション工学センターの元田先生が、フットプレートの下に1軸ロードセルを取り付ければ計測ができると教えてくださった。
そこで、いろいろ調べて共和のロードセルを購入した。
アンプも含めて100万円くらいしたように記憶しているが、後日購入した3軸ロードセルはそれどころではなく目玉が飛び出るほど高かった。それでもだんだんそういった高額研究機器が購入できる程度に金回りは良くなってきた。

ロードセルを付けてCKCの計測を行っていくといろいろなことが分かってきた。
その中で、一般には公開していない非常におもしろいことがあったのだが、これは次回のお楽しみとする。
ちょっと複雑で、あっと驚くような内容である。
ブログで公開するのはもったいないような気もするが、もうずいぶんこのアイデアは放置されているので公開することにする。
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CYBEX6000でCKC計測

2009-01-07 | CKCトリビア
画像の貼り付け方がよくわからない。
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CKCトリビア(器械がなくてもCKC計測を行う方法)

2009-01-07 | CKCトリビア
入浴エクササイズは単に患者指導と評価を行うだけで結果が出せたが、私には他にやりたいことがあった。
それは理想的なCKC運動用の器械を作るということである。
特にIsokineticなCKCマシンを作りたかった。
しかし先立つものがない。

そこで知恵を絞った。
吉備国際大学にはIsokinetic Exerciseの行えるCYBEX 6000があった。
これを何とか工夫してCKC運動用に使えないだろうかと考えた。
アメリカ留学中、体幹筋力を計測する必要に迫られた時、身近に専用の器械がなかったので文献を調べて古いCybex IIを用いて体幹筋力を評価した経験があった。
同じように、工夫次第でOKCの器械をCKCの計測に使えるのではないだろうかと考えた。

いろいろ思案して、背もたれを倒し込んで背臥位になり股関節の屈曲伸展のモードを利用してレバーアームを蹴らせればうまく行くのではないかと考えた。
レバーアームにフットプレートを付ければ完璧である。
そこで、つきあいのある病院で使わずに転がっていた足関節訓練機の金属製フットプレートをもらってきて、昔なじみの吉備高原リハセンターの研究員の方に固定のためのドリル穴をあけたりの加工をしてもらって、ほとんどお金をかけずにフットプレートを自作した。

それを使ってCKC運動を行わせてみると非常にスムーズに運動が行えた。
さらに、計測も何を計測しているのか最初はよく分からなかったが、再現性のあるスムーズな波形が記録できたのである。

よく分からないが、CKCの出力のグラフはOKCの出力のグラフをちょうど2倍に引き延ばしたような形になっている。
さらに、多数の計測を行うとCKCとOKCのピーク値はきれいな相関を示す。
これは結構おもしろいのではないかと考えた。

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CKCトリビア(入浴エクササイズ NY Ex.)

2009-01-06 | CKCトリビア
時はさかのぼり1994年、私はアメリカ東海岸ボルチモアにあるジョンスホプキンス大学整形外科バイオメカニクス研究室に留学していた。
主に膝や腰椎のバイオメカニクスの研究を行っていた。
ボルチモアはニューヨークから南に下ったところにある。
アメリカの生活で何が困るかというと食事以外ではお風呂である。
バスタブが浅くてシャワーを前提としているので熱いお湯をためて肩までどっぷりとつかると言うことができない。
日本のお風呂が恋しかった。
そんな生活の中から変形性膝関節症の「入浴エクササイズ NY Ex.」を着想した。
講演では
アメリカ留学中ニューヨークで「入浴エクササイズ」を思いつきました。
ですから「ニュウヨクエクササイズ」ではなく「ニューヨークエクササイズ」と読んで下さい。
等と説明している。

しかしこれは半分本当で半分は罪のないジョークである。
第一ニューヨークは地図で見ると近そうに見えるが実はボルチモアからは車では4時間ほどかかる。
ニューヨークへは留学中も、帰国してからも何回か訪れたが、ニューヨークで「入浴エクササイズ」を思いついたわけではない。
しかし、アメリカ留学中にCKCの理論を学んだのは事実だし、関節を保護する筋肉の共同収縮の概念や椎間板や膝関節軟骨は血管組織を持たないことから圧縮弛緩のサイクリックな刺激が重要であることは認識していた。

実際に「入浴エクササイズ」を思いついたのは日本に帰国して吉備国際大学に赴任した1995年のことである。
当時、私は大学に赴任したばかりで科研費もなく、研究に取りかかるための研究費を必要としていた。
そんな中、地元岡山のある企業が研究助成を公募していていてそのテーマが「日本人のライフスタイルにかかわる研究」というものであった。
私は留学中の経験から日本人の入浴習慣は世界でも特異なものだと感じていたので、これはいけそうだと感じて、入浴中にバスタブでレッグプレスの運動を行うという課題を応募した。
翌年、この課題は私の思惑通りに採択された。

平成8年度第18回財団法人両備てい園記念財団助成金
   日本人の生活スタイルを活かした変形性膝関節症のリハビリテーション
   河村顕治

お風呂でリハビリを行うなどちょっと滑稽で、学術的にはどうかと思ったが、いざ採択されると結果を報告する義務が生じて、何かやらざるを得なくなってしまったというのが事実である。
高齢者向けに温泉マークの入った分かりやすい運動処方の冊子を作り、整形外来で患者さんに指導を行った。
意外にも患者さんには好評で、効果はともかく継続率は抜群に良かった。
専門的に言うとコンプライアンスが非常に良かったのである。
それもそのはずで高齢者ほど毎晩規則正しく入浴しており、お風呂では膝の痛みも取れることから運動が継続しやすいのである。
この結果は助成財団に報告したが、せっかく良いデータが出たので何か形にしたいと思い、その頃リハの新しい取り組みを紹介するコーナーが設けられていた雑誌に送ってみた。
私としてはまっとうな研究を行ったという意識は全くなかったので、こんなおもしろい取り組みをしたので紹介しますという内容であった。
しばらくして、編集部から返事が来て、非常に重要な内容を含んでいるので原著論文として再投稿して下さいと書かれてあった。
私はびっくりしたがありがたいことなので、急遽論文形式にまとめて再投稿した。
それが以下の論文である。

Closed Kinetic Chain Exerciseの臨床応用
    変形性膝関節症における入浴エクササイズ
    河村顕治
    Journal of Clinical Rehabilitation Vol.7 No.5 544-547、1998.5

実は、変形性膝関節症の患者さんにお風呂を利用したエクササイズを行わせるというのは私のオリジナルではない。
講演などをすると、フロアから私も患者さんにお風呂を利用したエクササイズを指導しているというコメントが寄せられることがある。
それ以前に、患者さんに入浴エクササイズを指導しようとすると、以前からお風呂で運動していましたと言われることが再三ある。
入浴すると温熱効果で膝の痛みが楽になるので、運動してみようというのは自然な流れなのである。
私のオリジナルはお風呂での運動を明確にCKCに結びつけたことだと思っている。
当時、変形性膝関節症の患者さんにバスタブでCKCの運動を行わせよう等と考えた人は誰一人いなかった。

吉備国際大学では当時理学療法学科1年生に身体運動学実習を指導していた。
OKCとCKCについて講義を行い、理想的な膝リハビリテーションというテーマでレポートを書かせた。
当時、私は「入浴エクササイズ」についてはまだ研究に着手したばかりなので学生には教えていなかった。
ところが、一人の女子学生がお風呂の浮力を利用したエクササイズのレポートを提出したのである。
内容は私の考えていたレッグプレスとは違い、お風呂の底の角を足で蹴って膝伸展と共に体が浮力の作用も手伝って上方に浮くというものであった。
私はそのレポートを全員の前でほめて、満点をつけてあげた。
このことは、CKCの理解があれば、誰でも入浴エクササイズを思いつく可能性があるということである。
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CKCトリビア(プロローグ)

2009-01-04 | CKCトリビア
CKCとは直接の関係はないが、これまでの経験で既成概念が覆されたと強烈に感じたのは新しい創傷処置法である「閉鎖療法」を経験したときだ。
それまで傷はイソジンなどの強力な消毒薬で消毒してガーゼを当てるということに何の疑問も持たずに創処置を行ってきたのが、それがかえって傷の治りを阻害しているというのだからたまらない。
自分が患者さんのためにと思って行ってきた行為が間違っているというのだから衝撃だった。

ことの始まりは2004年の10月のことだった。もう既に4年以上前になる。
こういう事はブログを書いていると正確に記録が残っているので助かる。
当時、吉備国際大学の保健科学部看護学科長を務めておられたN教授から、養護教員の現場の素朴な疑問に答える分かりやすい解説書を作りたいので協力して欲しいとの依頼があった。
私の本音としてはそんな雑用はまっぴらごめんというところだったが、当時、保健科学部をまとめ上げて研究所の補助金を取りに行こうと言う動きがあり、私はその中心メンバーであったので看護学科長の依頼を断るのは良くないと判断した。
書く内容もそんなに難しくないというのでそれなら引き受けようかと言うことになった。
ところがこれが苦難の始まりだった。
質問の第1問は「擦り傷はどう処置すればいいか、基本を教えて下さい」というものであった。
これには困った。基本と言われても消毒してガーゼを当てると書いてしまえば1行で終わってしまう。
原稿用紙いっぱいの記述は無理である。
それで、いろいろ文献やネットを検索して調べていくと、何と
「傷は消毒するな、ガーゼを当てるな」
と書いてあるではないか(以下のサイト参照)。

http://www.wound-treatment.jp/

これはどういうことだとすっかり混乱してしまった。
実はそれよりも前に医学雑誌で閉鎖療法の記事を読んだことはあったのだが、自分の問題としては捉えていなかったのである。
それからは眠れぬ日が続き、自分でも確認作業が必要だと判断して、創傷被覆材を入手して患者さんに治療で試してみることにした。
最初は自分自身かなり勇気が必要だった。
本当に消毒しないで化膿しないのだろうかとおそるおそる試してみる毎日である。
ところが、私の心配にもかかわらず患者さんは痛がらないし傷の治りは明らかに早くてきれいである。
だんだんその効果が実感できるようになり、原稿も「閉鎖療法」一本にまとめて記述した。
そうして完成したのが下記の本である。

救急処置「なぜ・なに事典」外傷編1(閉鎖療法を中心として)
編著:大谷尚子・中桐佐智子・岡田加奈子
著:河村顕治
東山書房(京都), 2005.3

現在第3版の改訂作業中であるが、第3版では閉鎖療法を湿潤療法に改める方向で検討が進んでいる。
私は「はじめに」に下記のような解説を追加してもらうよう依頼した。

 なお、湿潤療法のほとんどは被覆材が傷に密着し閉鎖するので閉鎖療法とも呼ばれています。擦り傷や切り傷の処置としてはそれでよいのですが、深い褥瘡などを完全に閉鎖して治療すると浸出液の排出を妨げて創感染を起こしやすくなることから、誤解を招かないように本書では湿潤療法という表現を用いております。傷に密着し閉鎖するのが良いのではなくて、適度な湿潤環境を保つことが重要だからです。

これは偶然であるが、CKCは閉鎖運動連鎖であり閉鎖療法とは「閉鎖」つながりである。
閉鎖療法の解説書を記述したのは何かの運命のいたずらだったのかもしれない。
それにしても、この本の執筆を機に私の創傷処置法は湿潤療法一本になった。
患者さんにも喜んでもらい、とても良かったと心から思っている。


この経験から学んだこと。
1.忙しくていやだと思う仕事でも、学術的な依頼であれば断ってはならない。
2.先入観を疑え。あまりにも当たり前だと思っていることでも間違いはある。
3.リハビリテーションの技術でも当たり前と思われていることの中に間違いがあるかもしれない。そこに研究のヒントがあるはずだ。

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1月18日 大阪講演

2009-01-04 | CKCトリビア
1月18日に大阪で講演を行う。
大阪府理学療法士会からの依頼で、主に卒後間もない新人理学療法士対象とのことである。
近隣の卒業生も来てくれるかもしれないので、ちょっと宣伝しておく。

日時:1月18日(日)9:30~12:30
場所:新梅田研修センター
テーマ:膝関節疾患に対するCKCエクササイズ

先方の希望としては90分を2回の2部制で、入浴エクササイズの話は是非入れて欲しいとのことであった。
昨年末から、具体的にどういう話をしようかといろいろ考えていたのだが、第1部は真面目なテーマ通りの話をして、後半の第2部は新人理学療法士が話を聞いて研究に興味を持ち何かやってみようかと思えるような興味を引く話題を提供するのはどうだろうか。
例えば「CKCトリビア」というような感じで、これまでの私の研究の中で見つけたちょっと意外でおもしろい話を分かりやすく話すのである。年末からの体調不良もだんだん治ってきたし、箱根駅伝での選手達の真摯な走りに感動してやる気が出てきたので、ちょっと頑張ってありきたりでないおもしろい講演を行ってみようかと思う。

それで、昨年の1月にも行ったが、このブログで講演のトピックを少しずつまとめて行こうかと思う。
もし、講演に来られなくてもこのブログを読み返せば大体の内容が分かるという仕組みである。
しかし、講演には私が開発したシーティングベルトなどの現物も持って行って見せる予定なので、ブログを読んで講演を聴いた気になってさぼらないようにしてほしい。



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