河村顕治研究室

健康寿命を延伸するリハビリテーション先端科学研究に取り組む研究室

骨粗鬆症による骨折連鎖とは

2012-06-17 | 研究・講演
6月15日、久しぶりに勉強会に参加してきた。

『PTHによる新しい骨粗鬆症治療戦略』
新潟大学整形外科 遠藤 直人 教授

最近発売されたテリボンに関わる講演会である。
これまで、骨吸収を抑制させることによって骨量を増やすのが主な治療薬のメカニズムであったのが、ここに来て直接骨芽細胞を刺激して骨量を増やす薬が登場してきた。
テリボンもその一つであり、PTH(副甲状腺ホルモン)と同じ作用のあるテリパラチドという薬である。
テリパラチド+骨(ボーン)=テリボン
というネーミングである。
旭化成ファーマが開発した日本製の新薬であり2011年11月25日に発売が開始された。

PTHは84個のアミノ酸から構成されているが、テリパラチドはそのうちの34個のアミノ酸でできている。
テリパラチドにはほかにもフォルテオという注射剤があり、毎日1回患者さん自身が自分で注射を行う。
私はこれはこれまで3名の患者さんにフォルテオを勧めたが、全員が脱落してしまった。
その他数十人の骨粗鬆症患者の方には、自分で注射するという話をしただけで恐ろしがって拒絶されてしまった。
どうも日本人の高齢者には骨粗鬆症治療で自己注射というのは無理なような気がしている。
それに対して、テリボンは毎週1回で病院で注射をしてもらえる。
回数が少ないから効果が弱いのかというとそうでもなく、むしろ骨の多孔化や高Ca血症などの有害事象が起こりにくいのだそうだ。


さて、肝心の遠藤先生の講演でおもしろかったこと。
それは『骨折連鎖』と言うものである。

骨粗鬆症の患者は2005年の調査によると推定1280万人で年間97万人の新規患者が発生している。
ざっと1300万人に毎年100万人の新規患者ということになる。

骨粗鬆症による骨折患者数は減っていない。
高齢化が進むにつれて骨粗鬆症患者が増えて骨折も増えるという簡単な構図である。
2010年の調査では、骨折しても本来必要な手術が行われなかったのは全体の11.5%。
寝たきりが増えると言うことである。

骨粗鬆症で問題になる主な骨折は腰椎圧迫骨折(L2~L4)と大腿骨近位部骨折(大腿骨頸部骨折など)。

骨折になるリスクファクターは主に二つある
1.既存骨折(腰椎圧迫骨折と大腿骨近位部骨折)
2.骨折の家族歴

これを分析すると3つの『骨折連鎖』が見えてくる。
1.脊椎圧迫骨折を起こした高齢者は次に大腿骨頸部骨折を起こす
2.1側の大腿骨頸部骨折を起こした高齢者は次に反対側の大腿骨頸部骨折を起こす
3.母親が骨折を起こした娘は高齢になると骨折する

分かりやすく言うと
母親が骨粗鬆症になり骨折したことのある娘は、60から70歳代にかけて脊椎の圧迫骨折が進行して背中が曲がってくる。
それが80歳代になると大腿骨近位部骨折を起こす。
それから立て続けに反対側の大腿骨頸部骨折を起こす。
そのまた孫も同じことを繰り返す。

このような傾向のあることは整形外科医なら誰でも経験的に知っている。
ただ、『骨折連鎖』という言葉は新鮮だった。

こうした骨折連鎖を断ち切るのがこれからの医療の役割である。
まだまだ新しい治療を受けている骨粗鬆症患者は10人に1人くらいである。
製薬会社の片棒を担ぐわけではないが、健康寿命の延長に直結する治療なので私も及ばずながら貢献したいと思った。



追記メモ
SSBT:Severly Suppressed Bone Turnover









コメント
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