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【連載小説】竹根好助の経営コンサルタント起業6章 苦悩 9 懐かしい香りの便り

2024-12-20 12:21:00 | 【小説風】竹根好助のコンサルタント起業

  【連載小説】竹根好助の経営コンサルタント起業6章 苦悩 9 懐かしい香りの便り 

 
■ 【小説】 竹根好助の経営コンサルタント起業 
 私は、経営コンサルタント業で生涯現役を貫こうと思って、半世紀ほどになります。しかし、近年は心身ともに思う様にならなくなり、創業以来、右腕として私を支えてくれた竹根好助(たけねよしすけ)に、後継者として会社を任せて数年になります。 竹根は、業務報告に毎日のように私を訪れてくれます。二人とも下戸ですので、酒を酌み交わしながらではありませんが、昔話に時間を忘れて陥ってしまいます。
 これからコンサルタントを目指す人の参考になればと、私の友人が、書き下ろしで小説風に文章にしてくれています。 原稿ができた分を、原則として、毎週金曜日に皆様にお届けします。
【これまであらすじ】
 竹根好助は、私の会社の後継者で、ベテランの経営コンサルタントでもあります。
 その竹根が経営コンサルタントに転身する前、どのような状況で、どの様な心情で、なぜ経営コンサルタントとして再スタートを切ったのかというお話です。

 1ドルが360円の時代、すなわち1970年のことでした。入社して、まだ1年半にも満たないときに、福田商事が、アメリカ駐在事務所を開設するという重大発表がありました。
 角菊貿易事業部長の推薦する佐藤ではなく、初代駐在所長に竹根が選ばれました。それを面白く思わない人もいる中で、竹根はニューヨークに赴任します。慣れない市場、おぼつかないビジネス経験の竹根は、日常業務に加え、商社マンの業務の一つであるアテンドというなれない業務もあります。苦闘の連続の竹根には、次々と難問が押し寄せてくるのです。
 日常業務をこなしながら、アテンドという商社マンにつきものの業務を自分なりに見つめ直す竹根です。慣れないニューヨークを中心としたアメリカでのビジネスですが、時として折れそうになってしまいます。そのようなときに、若い竹根の支えとなってくれるのが、本社で竹根をフォローしてくれるかほりで、実務支援だけではなく、存在の有り難さに感謝を竹根です。

◆6章 苦悩
 商社マンは、商品を輸出すれば良い、というのが、それまでの商社の生き方でした。はたしてそれで良いのか、疑問に纏われながらの竹根好助でした。その竹根が、何とか現状で仕事をしながら活路を見いだそうと考えていました。
 しかし、問題は、そんなに簡単なものではなく、苦悩する竹根です。
  ※ 直前号をお読みくださるとストーリーが続きます。
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◆6-9 懐かしい香りの便り
 かほりとの手紙のやりとりが中断して、まだ、それほど日にちは経っていないに、何か月も経ったような思いの竹根である。
 帰宅して、いつものように玄関を入って、郵便箱の鍵を取り出そうとポケットに手を入れた時に、何となくなじみのある香りがした。周りを見まわしたが女性がいるわけでもなく、一瞬のことで、何の香りかわからず、気のせいのようにも思えた。鍵を差し込んで、ポストのドアを開けようとすると、かすかながら確かになじみの香りがする。庭に植えられた四季咲きのバラかと思ったが、それとも違う、懐かしさを感じさせる香りである。
 ポストを開けると、その香りが顔を包み込んだ。一通の見慣れた封筒から香りがこもれ出ていて、ポストを開けた瞬間それが竹根の顔をめがけて、香りのキッスを繰り返したのだ。すぐにかほりからのものとわかると、あきらめたはずの決心が、その香りで吹き飛ばされてしまった。
 封筒を掴むと、一目散に二階の自室に駆け上がった。アパートの鍵を開けようとするが、手が震えて、なかなか刺さらない。もどかしさに、普通ならイライラするところを、なぜかきもちははやるが、そのようないらつきではなく、ときめきという表現に近い。
 いつもの竹根なら丁寧に開封するのに、乱暴に封を切った。かほりの香りが部屋中に広がる様が見えるようだ。その広がりを見るよりも、早く手紙を読みたい。
――好助様
 ここのところ、お手紙もなく、部屋が凍り付いた毎日です。
 私が手紙を出さない報いなので仕方がありませんね。
 今日、父が好助さんに電話をしたと電話で言ってきました。父の失礼な言葉をお許しください。
 私は、決心をしました。あなたについて行きます――
 そこまで読んでから、玄関の横にあるいすに腰を下ろしてから、またはじめから読み返した。歓天喜地(かんてんぎち)の竹根である。その言葉通り、天に向かって大声を上げて叫びたい、地に対して多いに喜びたい心地である。
――父の言葉を聞いていて、私は決めたのです。会社を辞め、アパートを引き払って、できるだけ早くあなたのところに飛んでいきます――
 竹根は、先を急いだ。そこからは、最後まで一気に読んだ。
――あの温和しいかほりさんが、なんと激しいことを・・・父親の反対を押し切ってでも自分のところに来るという・・・そんなかほりさんをあきらめようとした自分が恥ずかしい――
 竹根は、それから何度も何度も手紙を読んだ、そらんじて言えるくらい、かほりの香りに包まれながら、三枚に渡るかほりの手紙を読んだ。
  <続く>

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