母のところに行ったら ベッドに腰掛けて 冬服を畳んで整理していた。
雨降りの今日、居間の鴨居に洗濯ものがたくさん ハンガーにぶらぶらぶら下がっていた。
「母さん こんなに洗濯したの?」
「昨日の夜 9時までかかって伸ばして つりさげたよ」
母の洗濯は 出来上がった洗濯ものを クッションや自分の腿の上に置き、手で時間をかけてついた皺を伸ばすことから始まる。この一手間が 乾いた後の皺の少なさにつながると言って 毎回不自由な手で行う。人の何倍もの時間をかけて干すのだ。
「わたしが来たときに洗濯するのに・・・」
というと こうして時間をかけても自分でやることがまだ出来るという満足感を味わいたいのだそうだ。何か仕事がある、今日はこれをやる、そういったものがあるだけで充実感を持てるという。
痛みが出ると大変なのになと思うが、母のやりたいことを禁止すると それもまたストレスになってしまうことだろう。
そして母がクッションの上のセーターを指差して言った。
「ほら、このセーター 今日の午前中に洗濯機で洗わないで 汚れた部分を手でつまみ洗いして、それからトントンと叩いてやったんだよ。もう乾いていると思うけど。30分以上もかかってしまったよ」
すでにクッションの上のセーターは乾いていて 綺麗になっている。
「母さん よくやるなぁ」
そう言って 夕飯の支度にとりかかった。
台所にわたしが立っていると 必ずといっていいほどそばにやってきてテーブルの上に手を置いて話しかける。今日もそうだった。あれこれととりとめないことを話していたら、急に母が
「さっき お前が今日は母さん何してた?って聞いただろ?あれを聞いて ずっと考えていたんだよ」
「で 何していたの?」
「それが・・・何をしてたか さっぱりわからないんだよ。11時にベッドに横になったのはわかるけど」
「玄関に座って外を見ていたとか?」
「うん それもやった。新聞を取りに行きながら 風除室の椅子に座って30分くらい外を見ていたけど、それでも11時までにはまだ時間があるし。一体寝る前に何やっていたんだっけ?」
と わたしの方を見る。
「わたしに聞いたって わかるわけないよ」
「・・・う~ん」
この頃 母は忘れっぽくなっていることを心配する。年相応のリアクションだと激励?してあげるのだが、今日はいくら考えても思いだせなかったらしい。
夕飯の支度が整って トレイにおかずを乗せていた そのとき。
居間にいた母が突然 素っ頓狂な声で
「あーー!!わかった!このセーターの汚れを落としていたんだった!」
と晴れ晴れとした顔で言った。
なんだ それってわたしが入っていったときに教えてくれたことじゃないの。何をしていたかというより、わたしに教えたことを忘れていたってことじゃないの?
だんだんその日にしたことを覚えているのが大変になっていくだろうな。それでも母はなんとか認知症にならないようにと あれこれ考え行動しているようだ。ひとりでいる時間が多くなると、やっぱり不安も出てくるだろうし、話相手がいるということが 母のような年代には大切なことなんだと毎回思ってしまう。もう少し 母と一緒の時間を作らなくちゃ。
雨降りの今日、居間の鴨居に洗濯ものがたくさん ハンガーにぶらぶらぶら下がっていた。
「母さん こんなに洗濯したの?」
「昨日の夜 9時までかかって伸ばして つりさげたよ」
母の洗濯は 出来上がった洗濯ものを クッションや自分の腿の上に置き、手で時間をかけてついた皺を伸ばすことから始まる。この一手間が 乾いた後の皺の少なさにつながると言って 毎回不自由な手で行う。人の何倍もの時間をかけて干すのだ。
「わたしが来たときに洗濯するのに・・・」
というと こうして時間をかけても自分でやることがまだ出来るという満足感を味わいたいのだそうだ。何か仕事がある、今日はこれをやる、そういったものがあるだけで充実感を持てるという。
痛みが出ると大変なのになと思うが、母のやりたいことを禁止すると それもまたストレスになってしまうことだろう。
そして母がクッションの上のセーターを指差して言った。
「ほら、このセーター 今日の午前中に洗濯機で洗わないで 汚れた部分を手でつまみ洗いして、それからトントンと叩いてやったんだよ。もう乾いていると思うけど。30分以上もかかってしまったよ」
すでにクッションの上のセーターは乾いていて 綺麗になっている。
「母さん よくやるなぁ」
そう言って 夕飯の支度にとりかかった。
台所にわたしが立っていると 必ずといっていいほどそばにやってきてテーブルの上に手を置いて話しかける。今日もそうだった。あれこれととりとめないことを話していたら、急に母が
「さっき お前が今日は母さん何してた?って聞いただろ?あれを聞いて ずっと考えていたんだよ」
「で 何していたの?」
「それが・・・何をしてたか さっぱりわからないんだよ。11時にベッドに横になったのはわかるけど」
「玄関に座って外を見ていたとか?」
「うん それもやった。新聞を取りに行きながら 風除室の椅子に座って30分くらい外を見ていたけど、それでも11時までにはまだ時間があるし。一体寝る前に何やっていたんだっけ?」
と わたしの方を見る。
「わたしに聞いたって わかるわけないよ」
「・・・う~ん」
この頃 母は忘れっぽくなっていることを心配する。年相応のリアクションだと激励?してあげるのだが、今日はいくら考えても思いだせなかったらしい。
夕飯の支度が整って トレイにおかずを乗せていた そのとき。
居間にいた母が突然 素っ頓狂な声で
「あーー!!わかった!このセーターの汚れを落としていたんだった!」
と晴れ晴れとした顔で言った。
なんだ それってわたしが入っていったときに教えてくれたことじゃないの。何をしていたかというより、わたしに教えたことを忘れていたってことじゃないの?
だんだんその日にしたことを覚えているのが大変になっていくだろうな。それでも母はなんとか認知症にならないようにと あれこれ考え行動しているようだ。ひとりでいる時間が多くなると、やっぱり不安も出てくるだろうし、話相手がいるということが 母のような年代には大切なことなんだと毎回思ってしまう。もう少し 母と一緒の時間を作らなくちゃ。