渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

歴史的な隠れた名作ナイフ ~ ブローニング277 ~

2017年07月30日 | open




これは私が2012年前半に購入したブローニング277の第1号だ。
私は277をこれまでに6本購入している。
この第1号機の木部が一番美しい。
現在手元にあるのは3丁だ。他の3丁はすでに人に進呈した。

1号機。(もう手元に無い)






1号機はすぐにサムスタッドを除去した。ネジ式なので、プライヤー
で両側から挟んでねじればすぐに取れる。赤いネジロックでとめて
あった。


2号機。綺麗な個体だった。


3号機。ウッド部の木質がココボロ風だ。だがバーチだろう。
この3号機からメインスクリューの仕様が変更になり綺麗なR頭となる。


現在の4号機。一番愛用している個体だ。メインスクリューが綺麗なRタイプ。




上から4号機、5号機、6号機。5~6はつい最近保管用に入手した。


最近の277は作りが荒いのではという疑問点もあったので、検証
確認の意味も含めて新品を2丁入手してみた。
真相は逆で、むしろ6年前よりずっと作り込みが丁寧に仕上げられ
ていた。

右から4号、5号、6号。


同。




5号と6号。5号は4号と木質が似ているが6号は別系だ。
色も灰色がかった物となっている。



上から5号、6号、4号。


同。


現行モデルは5年前とは完璧に仕様が違うことが判る。パッと見て
即判断できる。

右から4号(2012年)、5号(2017年)、6号(2017年)。
4号機(2012年)までのメインスクリューはクリップを外してからで
ないとドライバーで回せない裏側に凹部があったが、現行モデルは
表側にドライバー回転面を持って来ている。これは作業性は非常に
高くなるが、ガードという面と美的な外見上の問題としてはやはり
裏側に凹面を持って行ったほうがよいように思える。現行仕様は、
メンテ
ナンス性を考慮してでのことではなく、組み立ての作業効率
優先のために
こちら向きにしたような雰囲気が強く伝わって来る。


同。


上から現行モデルの2本(上、中)と2012年モデルの1本(下)。


昔のネット広告。私の1号機~2号機と同じタイプのスクリューだ。
これは向きが逆なのではなく、スクリューヘッドの形状が異なる。
元ソースはその当時の仕様のラインの個体であることだろう。

(旋盤ビットの痕跡状のものがスクリューの頭に残っているタイプ)


こうしたナイフの見方というのは、実はモデルガンマニアがモデル
ガンの製造年ごとの特徴を把握して比較することに似ている。
だが、「違いを把握する」、「違いが分かる」ということは、モデルガン
フリークにとっては必要不可欠な素養であり、どれもかれも一緒
としか見えないようではモデルガンのマニアなどやってられない。
また「違いの分かる男」でなければ、日本刀の良否や真贋なども
見抜くことなど到底できない。
日本刀ファンにモデルガンファン、実銃所持者、バイク乗りが多い
という三つの共通項があるのは、それは「違い」がその物品の主
たる存在要素を決めることによると思われる。ちょっとの違いが
死に直結したりするのが後者二つでもある。
そして、何がどうでどうなっていてどれとどのように違うか。これを
見抜ける人々が日本刀に惹かれて行く。
どれもが同じに見えたり、AとA'どころかAとCの違いも分からない、
理解できないような人は日本刀には永遠に興味を抱かない。
だが、武術や刀術などをやっている人でも、「違いが分かる」という
人は存外少なく、そういう違いの解からない人たちは大抵は日本刀
そのものに興味がない。どんなに綺麗事を並べても運動用具として
しか日本刀を捉えていないのだ。
なので、私はそのような刀術者ならぬ試合人などは一切信用しない
ことにしている。
どんなに見た目が綺麗な業を抜こうとも、そんなものは日本文化の
伝統継承には屁のつっぱりにもならず、無意味だと確信しているから
だ。
日本人の固有の歴史的文化的な財産である日本刀を大切にし、
日本刀の世界を身近に引き寄せ、日本刀の本質に肉迫し、刀剣を
知悉すること抜きにして、なんの帯刀者かと思うのだ。
本質的に掃除用具と何ら変わらぬ運動用具としか日本刀を扱って
いないのではないかと。

このブローニング277のこの6年での変更点はメインスクリューの
向きだけではない。
左2012年、右2017年。クリップの塗装は現行モデルはマットに
なっている。これも、仕上がりにごまかしがきかないクリアよりも
塗りだれなどが目立たないマットのほうが都合が良いからの
ように思える。しかも、以前のクリアはカチオンのようなドブ漬け
塗装と思える。現行モデルはサッとガンで吹いただけだろう。


お気づきになっただろうか。
クリップは塗装だけが変ったのではない。形状が変っている。

俯瞰するとよく判る。フレームの形状は同じであるがクリップ
の曲り角度が変更になっているため、押さえる位置が変わって
きている。




2012年モデルと現行2017モデルを比較して、ある程度の結論を
導き出そうとすると、工業的なクオリティとしては、2012年モデルの
ほうが高いということがいえる。削り加工の仕上げは現行モデルは
丁寧になったが、それは作業要領の徹底という生産部門の作業
管理の問題であり、工業製品的には現行モデルは明らかなコスト
ダウンが実行されている。
だが、工業製品の品質とは、一体どこを基軸にするのかという視点
と指標で品質の高低が決定されてくる。ゆえに一概にどちらが良い
と一面的に断定することはできない。削り等の加工性は現行2017
モデルのほうが丁寧で高品質だが、工業生産物としての手間暇は
2012年モデルのほうがかかっているし、組み立て一つにしても
「なぜそのような手間をかけたか」という息吹のようなものが見える。
私の3号機とそれ以前では、メインスクリューのヘッドが単に向きの
問題だけでなく違いが見られ、明らかに1号機よりも3号、4号では
丁寧なスクリューヘッドのR処理が為されたものが装着されている。
現行製品では、その丁寧にRを綺麗に削ったスクリューヘッドを
裏側に持って行ってしまい、スクリューのねじ込み部を表に出して
作業性をアップしている。
だが、そこでの作業性とは、納品後の調整の利便性確保というよりも、
どうも組み立て時の作業性優先のようなものが何かしら見える。
こういうことは生産性確保として行なわれる改善であり、ユーザー
サイドに立った製品の改善とはいえないという意識が私にはある。
私も工業界に身を置く人間なので、日々生産拠点における原価低減
などには直接関与していないポジションであるとはいえ(むしろ使い
勝手の向上を主軸としてメーカーにフィードバックするポジション)、
本当の良品質とは一体何かを常に考えている。
ブローニング社の社内呼称製品ナンバー32227は、生産効率の面
からいったらこの5年でいろいろ変更点が実施されている。削り込み
の作業も丁寧になった。
だが、製品の品質基準をどこに視点を置くかという点において、ユー
ザーサイドから見た品質性という観点に置くと、決して高品質に変化
したとは断じることはできないという矛盾に達する。
ごまかしが利くマット塗装よりもドブ漬けカチオンでのクリア塗装のほう
が手間暇はかかるが物質的品質は高いし、スクリューヘッドのR仕上げ
や向きにしても、生産性よりも使用上の不具合等を優先した場合、5年
前のモデルのほうが生産者の人間らしさを感じることができる。

ただ、この私の手元にある(あった)3つのジェネレーションのブローニング
モデルナンバー277は、通しで歴史を見る限り一つのことが見えてくる。
それは、たとえ生産効率優先化であろうとも、「常になんとか改良しようと
している」という生産者の人間的な脈動が感じられるのだ。
物は人が作っている。
それをこのブローニング277には感じられて、何だか言い知れない安堵感
が湧いてくる。無機質な機械がオートメーションでポコポコと生産している
のではない人の手を介した製品という息吹がこのモデル277からは感じ
られるのである。
そういう意味でも良いナイフだと思う。

友人ふたりから連絡あり。
277を手に入れたとのことだ。また愛好者が増えた(笑)。
いや、このトゥーセヴンティセヴンは本当に使い勝手も良いし、出来も良い
ナイフだと思う。
この277は実はかなり古い型で、中国でOEM生産がなされるずっと前に
米国ブローニング社の型番にラインナップされていた。かつては、同じデザ
インで大きさにいくつかのバージョンがあったようだが、今では277がメイン
となっているようだ。ブレードは6センチを多少超えるため、日本版の銃刀法
を考慮して作られたモデルではない。

游雲会の友人の一人が購入したブローニング277。
目が細かいウッドハンドルだ。


別な友人が購入した277。これまた面白い柾目の強いウッドだ。


初期刃付けはまったく問題なしとのこと。よく切れる。


ブローニング社のモデル277(社内記号32277)は本当に
「良いナイフ」だと私は心から思う。
これはフォールディング・ナイフでは私は一推し。
デスクナイフでの使用がメインだが、アウトドアでも軽作業用
に非常に重宝する。
もしかすると、密かに隠れた「歴史的な名作の一作」かも知れ
ない。
私の周囲には10名の愛用者がいる。
これは1機種としては少ない数ではない。メジャーなバック110
のようなナイフならばともかく、無名ともいえるブローニング277が
私のごく親しい周囲だけでも10名(私を 含めて11名)が愛用している。
少なくはないと思う。
さしずめ11人のカウボーイというところか。
どの面子も少年ではなくいい歳した男たちだが(苦笑)。

このブローニングのトゥーセヴンティセブンは、全体のデザインも
古過ぎず新し過ぎず、それでいて何かしら郷愁めいたものを感じ
させる、そんな温かみのあるナイフだと思う。
しかも、良好な作動性と切れ味。
これほんまに良いナイフ。