妻に「ウィンチェスターって
知ってる?」と尋ねたら、
「何?お城?」と言われた。
そりゃ、確かにそれはお城だ
けどさあ(笑
ウィンチェスターとはアメリ
カ合衆国の銃器メーカーで、
各社を買収して巨大メーカ
ーに膨れ上がった会社だ。
弾薬製造でも高シェアを誇る
が、特に西部開拓時代のレバ
ー・アクション・ライフルが
有名だ。
これは1860年製のヘンリー
社を買収したことが大きい。
ヘンリー・ライフルのレバー・
アクション・システムは、
改良を加えられ、1873年に
不朽の名銃ウィンチェスター
M1873となる。
その後M1876で強力実包用
に改良され、さらにジョン.
F.ブローニングによりM1886
とM1892が開発され、最終バ
ージョンとしてM1894が発売
されて軍用銃として各国に売
り込みがかけられたが、安全
性等多くの理由から成功しな
かった。(唯一ロシアが弾薬
を変更して採用)
西部劇、というか西部開拓時
代末期(1860~1890年)に
よく登場するのはウィンチェ
スターのM73モデルだろう。
だが、多くは、M92を1880年
代の物語に登場させてしまっ
ているというハリウッド特有
の時代考証のいい加減さがあ
る。
ジョン・ウェインが西部劇で
使用するウィンチェスターは
ほぼM92。これは第二次世界
大戦の戦争映画の空戦にファ
ントムが出てくるようなもの。
ウィンチェスターの兄弟ライ
フル(西部開拓時代)
そして、ウィンチェスター・
ライフルと並んで「西部を征
服した銃」とまで呼ばれて圧
倒的な生産量とシェアを誇っ
たのが、コルト社のシングル・
アクション・アーミーだ。
こちらも、ウィンチェスター
と同じく1873年に軍用発売が
開始された。民間発売は1875
年から。
なぜコルトSAAが爆発的に売
れたかというと、ウィンチェ
スターM73と同じ.44-40とい
う.44口径弾薬を使用するシッ
クス・シューターというモデ
ルがあったからだ。
コルトSAAというと.45ロング
コルト弾のモデルが有名でポ
ピュラーだったが、ライフル
銃と同じ.44口径40グレイン
(2.59グラム)の火薬の弾薬
が使用できる拳銃は、それは
もう西部開拓者にとっては願
ったりかなったりだったので
ある。
ヘンリーライフルは連発式ラ
イフルとして非常に画期的で
あり、そのヘンリーを買収し
たウィンチェスターのM1866
イエローボーイは同じ.44口径
でもリムファイア弾を使用す
る人気ライフルだった。
だが、M1866は7万丁の販売
実績であるのだが、.44リム
ファイアより強力で高速弾で
あるセンターファイア・カー
トリッヂ.44-40弾を使用する
M73に至っては72万丁も売れ
ている。
もう西部に行く者はほぼ全員
がウィンチェスターM73を持
つのが定番、といったほどに
M73ライフルと使用弾薬の
.44-40は爆発的に売れていた
のだった。
当然にして、拳銃のコルト
SAAは実質的な人気も、ウィ
ンチェスターM73弾が使用で
きる.44口径にこそあったと
いう現象が発生している。
.45口径の弾薬がコルトSAA
の代表選手だが、1873年に
ウィンチェスター・リピータ
ーアームズ社が初めて発表し
たセンターファイア弾である
.44-40弾は、記録を観ると発
売後すぐに全米でトップ人気
の弾薬となっている。
拳銃とライフルに共用できる
この弾薬があったからこそ、
コルトSAAもウィンチェスタ
ーM73も "The gun that won
the West." =邦訳意訳で「西
部を征服した銃」と呼称され
るようになったのだ。
つまり、SAAにおいても、売
れ筋は代表選手のキャリバー
.45ではなく、.44口径だった
のである。
レミントンが.44口径の強力バ
ージョンである.44スペシャル
を更にチューンナップした.44
マグナム弾を販売したが、最
初はエルマー・キースが個人
的にハンドロードでチューン
ナップした弾薬が.44マグナム
だった。
なぜ.45ロングコルト弾ではな
く.44スペシャル弾を選択した
かというと、.44スペシャルの
ほうが.45ロングコルト弾より
もカートリッヂが頑丈であり、
かつ、シリンダーが小口径の
ため僅かながら肉厚となり、
この理由でも堅牢さが確保で
きたためだったと銃砲史の研
究者たちには言われている。
かくして、アメリカ人は.45
弾と「45」という数字に一
種の聖域的な感覚を持ってい
るが、歴史の実像としては、
西部開拓時代に実際に圧倒的
に普及していたのは.44-40弾
であり、その後ハイパワーな
一発倒しの本来ならば米国人
が.45口径に抱くようなイメ
ージを真実体現していたのは
.44マグナムだったのである。
.45口径リボルバー弾が本当
の主役にはなっていないのだ。
リボルバーの弾丸での主役は
.44-40(フォーティーフォー・
フォーティー)であり、それ
の強装弾の.44マグナムだ。
警察弾ならば.38スペシャル
であり、それの強装弾の.357
マグナム(.38と全く同口径
で安全のためケースが長い)
である。
.45口径が実質的にシェアを
持つのは、半自動拳銃である
コルトガバメントに使用され
た.45ACP弾が唯一メジャーで
ポピュラーとなった弾薬とい
える。
西部を征服した銃はコルト・
シングルアクションであって
も、弾丸は.45口径ではなかっ
た。
この事実は結構深いところで
はショッキングだが、もし、
仮に私が西部開拓時代の合衆
国に生まれていて、西部に生
きる男であったとしたら、弾
丸は迷わずに.44-40を選択す
る。
理由は他の西部開拓時代の人
たちと同じく、拳銃弾とライ
フル弾が共用できるからだ。
このことの実効性はとてつも
なく大きい。
なお、.44口径と.45口径では、
銃身の口径はたった0.01イン
チしか違わないが、弾薬のほ
うは0.01違っただけで、.44口
径の銃のシリンダーにはまっ
たく.45口径弾は入らない。
だが、.45口径用銃に.44口径
弾は装填できてしまうので、
プライマーのセンターを叩け
れば撃発は可能だろう。
シリンダー内でカートがぐら
ぐら揺れて危険だが。
ブレット=弾頭のセンターが
銃膣の中心線と合致せず、銃
身フレーム基部のフォーシン
グコーンを横削りしながら弾
頭が発射されることになるの
で、極めて危険だ。暴発に近
い現象になることだろう。
コルト.45SAAは西部を征服し
た銃=ピース・メーカーとは
よくいうが、実は.44-40弾を
使用するフロンティア・シッ
クス・シューターのほうが実
体としては普及していたとい
う驚愕の事実(苦笑
コルトは専用弾として.45ロ
ングコルト(略称LC)をSAAと
同時発売したが、結局はウィ
ンチェスター弾.44-40のほう
がシェアが強すぎたのだろう。
ということは、それからある
ことが類推できる。
それは、SAAまずありきでは
なく、ウィンチェスターM73
ライフルが爆発的人気があっ
たということだ。72万丁販売
実績は伊達ではない。
西部劇や西部開拓時代という
と、どうしても腰に吊るした
拳銃のイメージが先行するが、
実はライフルこそが狩猟や自
衛のためにも必要不可欠な大
西部の道具だったのだろう。
さもありなん、という感じが
する。
拳銃よりもライフル。これも
本当のワイルドウエスト、西
部開拓の真の姿だったのでは
なかろうか。
なんだか「刀が合戦の主力武
器」と大きな勘違いが今でも
広くなされている日本刀の姿
にも重なる。
日本の歴史の中で腰の刀が戦
闘に広く使われたのは幕末の
京都でのごく一時期のごく限
定的な場所においてのみであ
り、合戦の主要武器は薙刀、
槍、弓、鉄砲だった。
そして、実は最も多く使われ
て広まっていた最大の殺戮武
器は石つぶてだったのである。
つまり、そこらに転がってい
るただの石。
戦国時代、投石での死者は夥
しかった。
真実の歴史というものは、普
段思い込んでいることとはか
なりかけ離れた実像であるこ
とが結構あるものだ。
コルトSAA