映画作品というのは、多くの
作品で撮影上のミスがある。
名匠クロサワにしてもそうだ。
カットが変わると着装が別物
になっているままだったり。
洋画でもそうした事例は多く
見られる。踏みつぶしたサソ
リが足を上げたら逆向きにな
っていたり、右手と左手が変
わっていたりとか。
山田洋次監督は『たそがれ清
兵衛』を撮るにあたり、多く
の映画にみられるそのミスだ
けは犯すまいと心掛けたらし
い。
だが、やらかしてしまった。
ラッシュの時に初めて気づい
た。
清兵衛(真田広之)と河原で対
決する武士の大杉漣さんが、
本番撮影なのに左手の薬指
に巨大な指輪をしたままテ
イクOKを監督は出してしま
ったのだ。
このシーンの撮影では、大杉
さんの撮影刀の目釘が抜けて
撮影用刀身がカメラ方向に飛
んでしまってのNGがあった。
何度か撮り直したようだが、
監督もスタッフも出演者も
最後まで大杉漣さんの指輪
には気づかなかったそうだ。
あとで気づいたが、もう役者
さんたちのスケジュールがパ
ンパンで撮り直しが一切でき
ない。
しかたないので、断腸の思い
でこのままそのテイクを使っ
たそうだ。
作品の中で絶対に欠かせない
シーンだったので。
大杉漣さんは、まるで劇画
『ワイルド7』の「黄金の
新幹線」編で黒幕の悪者が
指にはめていたような指輪
をしたまま演技している。
それは、完成作品にそのま
ま映っている。
山田監督、痛恨のミスだろ
う。