【学名や花色から「リリオペ」や「サマームスカリ」の別名も】
日本、中国、台湾に分布するキジカクシ科(旧分類ユリ科)リリオペ属(ヤブラン属)の常緑性多年草。林野の藪などに自生し、細長い葉がシュンラン(春蘭)にそっくりなことから「藪蘭」の名が付いた。名前はランだが、スズランやオリヅルランなどと同様ランの仲間ではない。
開花期は8~10月。地際から伸びる幅1cmほどの細長い葉の間から花茎を伸ばし、紫色のごく小さな花を穂状に付ける。たまに見られる白花は「シロバナヤブラン」と呼ばれる。晩秋になると、黒い球状の種子ができる。最近人気なのが「フイリヤブラン」。葉に白や黄色の斑(ふ)が入る園芸品種で、明るい雰囲気から洋風の庭にもマッチする。
ヤブランは属名から「リリオペ」とも呼ばれる。その名前はギリシャ神話に登場する水の妖精「レイリオペ」(ナルキッソス=「ナルシスト」の語源=の母)に因む。またムスカリに似た花色から「サマームスカリ」という別名もある。根茎の肥大部は「大葉麦門冬(だいようばくもんどう)」(生薬名)として漢方に配合される。ヤブランより一回り小型のものに「ヒメヤブラン」や「コヤブラン」(リュウキュウヤブラン)。
「ヤマスゲ(山菅)」はヤブランの古名ともいわれる。万葉集には山菅を詠んだ歌が十余種含まれる。その1つに「ぬばたまの黒髪山の山菅に小雨降りしきしくしく思ほゆ」(柿本人麻呂歌集より)。『万葉の花』(片岡寧豊著)によると、この歌の山菅は「ヤブランやジャノヒゲ(蛇の鬚)とする説が有力」。ジャノヒゲは別名リュウノヒゲ。ただ牧野富太郎博士は『植物記』の中で、万葉集で歌われた山菅の多くは「本当のスゲ属」の植物とし、ヤブランについては「全然万葉歌の何れにも無関係」と断じている。