く~にゃん雑記帳

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<奈良市写真美術館> 「石内都 布の来歴―ひろしまから」展

2019年08月25日 | 美術

【入江泰吉が晩年に撮った大和路の「はな」展も同時開催】

 奈良市写真美術館で6月下旬から開催中の「石内都 布の来歴―ひろしまから」展も9月1日の閉幕まで残り僅か。つい最近広島平和記念資料館を訪ねたこともあって、ぜひ国際的な女性写真家石内都の作品を見なければ、と写真美術館に向かった。原爆犠牲者の衣服の写真には着物をほどいて縫い直したものが多い。まずその文様の美しさと風合いに見とれ、次いで親から子へ受け継がれた衣服の長い時の流れ、それをその時生身の人間が身に着けていたことにしばし思いを馳せた。

 石内都は1947年群馬県桐生市生まれ。79年に写真家の登竜門、木村伊兵衛写真賞を「Apartment」で受賞、2007年からは広島の原爆被爆者の遺品を撮影した「ひろしま」シリーズに継続的に取り組んでいる。14年には〝写真家のノーベル賞〟ともいわれるスウェーデンのハッセルブラッド国際写真賞を受賞した。作品は国内の主要美術館のほかニューヨーク近代美術館など世界各地の美術館にも収蔵されている。

 会場に入ってすぐ右手に丹前(どてら)のような厚手の明るい衣服の写真が展示されていた。着物をパッチワーク状に縫い直したのだろうか。その暖かそうな立体的な風合いはまるで実物を額の中に収めたよう。つい顔を壁に寄せて横から眺め実物でなく写真なのを確認してしまうほどだった。「ひろしま」シリーズの展示写真は衣服に加え布製の手提げかばんなどを合わせて14点。緑地に白い襟が付いた長袖の上着は女学生の通学服だろう、左腕の部分に「学徒隊」と縫い付けられていた。ピンク地に小さな花が散りばめられた可愛いワンピースは一部が焦げたり裂かれたりしていた。

 石内はこの展示会の開催にこんなコメントを寄せている。「広島に遺されている被爆死した人達が身にまとっていた衣類達のたたずまいは、痛々しい風貌よりも布の質感や色彩やデザインが戦前、戦中の時代にもかかわらずさほど古臭いとも貧相とも思わず、むしろ上質な布で仕立てられた手仕事の細やかな創意工夫の跡が人の手のあたたかさを充分感じさせた」

 展示会には「ひろしま」のほか「Rick Owens′kimono」「幼き布へ」「阿波人形浄瑠璃」などのシリーズ写真も展示中。展示点数は計45点。「Rick Owens′kimono」はファッションデザイナー、リック・オウエンスの父親の形見で、2年前に遺品の絽の着物などが石内の元に送られてきた。その父親は終戦の1945年に米軍兵士として来日して着物を買い求め、帰国後も着物を愛用していたそうだ。石内はコメントの中に「衣布は人間よりもはるかに長い時間を静かに過ごしている」と記す。

 同時開催の入江泰吉の「はな」展では1980年頃から亡くなる91年までに撮影した大和路の草花を中心に68点を展示。その中には長谷寺のボタン、室生寺のシャクナゲなど有名寺院の花のほか、ヒトリシズカ、ヒメユリ、ササユリ、ムラサキ、キキョウ、ワレモコウ、ナンバンギセル、ユキワリソウなど野山や路傍に人知れず咲く花の写真も多い。ヘクソカズラ(別名ヤイトバナ)はその汚名が気の毒だが、花の拡大写真の美しさにはつい目が引き寄せられた。

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