【絵画、香炉、印籠、鉢、墨書、陣羽織…】
京都国立博物館で今年の干支「寅(とら)」に因む新春特集展示「寅づくし―干支を愛でる」が開かれている。日本に生きた虎が海を渡って連れてこられたのは江戸時代の終わり頃という。ただ、それ以前にも中国や朝鮮半島から伝わる美術品などを通じて美しく逞しい虎は注目を集め、絵画や工芸品などの題材として盛んに取り上げられた。この新春特集では虎にまつわる内外の作品36点を一堂に集めて紹介している。2月13日まで。
展示会場は平成知新館の2階。展示の筆頭は尾形光琳(1658~1716)筆の「竹虎図」。前足を行儀よくそろえ丸い大きな顔をこちらに向ける表情がなんとも愛らしい。この博物館の公式キャラクターは「トラりん」いう。このキャラクター、実はこの虎の絵がモデルになっているそうだ。室町時代の水墨画家雪村(1504~89)の「鍾馗図」は厄病を祓う大陸渡来の神様鍾馗がじゃれつく虎の前足をつかんで遊ぶ様子を描く。江戸後期の絵師岸駒(1749または56~1839)の「虎図」は1匹の虎が川べりで水を飲む様子を描いた作品。生きた虎を目にできない岸駒は虎の頭蓋骨に虎皮を被せてスケッチしたり、虎の足の剥製をもとに関節の位置や仕組みを調べたりしたそうだ。ただ目の瞳は丸ではなく昼間の猫のように縦長に描かれている。
昔の日本では体に丸い模様がある豹は虎の雌と誤解されていた。このため安土桃山時代の絵師狩野松栄(1519~92)作「龍虎豹図」の豹の掛け軸も、母親の虎が描かれていると思った人もいたのではないかという。江戸時代の鹿背山焼の陶工井上松兵衛作「染付山水丸紋鉢」も内側の見込み部分に2匹の虎のような動物が描かれているが、このうち1匹は水玉模様になっている。ただ、中国にもこんな言い伝えがあったそうだ。「虎が3匹の子を産むと、その中には必ず1匹の豹がいる」。中国・明時代の展示作品「子連虎図」(京都・東海庵蔵)にも水玉模様の子どもの虎が描かれている。
江戸後期の絵師横山華山(1784~1837)作「虎図押絵貼屏風」は12カ月の虎の姿を月毎に描いた六曲一双の作品。そこには虎の姿がかなりリアルに描かれている。華山作では「四睡図」も展示中。中国・唐時代の禅僧豊干と弟子の寒山・拾得、それに1匹の虎が目覚めたばかりの様子をユーモラスに描く。「暤虎図(こうこず)」(京都・両足院蔵)は朝鮮通信使に画員として随行した李義養の作品。桃山時代の後陽成天皇宸翰「龍虎・梅竹大字」(京都・法金剛院蔵)、伝徳川家康所要の「虎艾(とらよもぎ)に五毒文様陣羽織裂」、明時代の「青花虎形香炉」(京都・霊洞院蔵)、江戸時代の虎の蒔絵の印籠なども並んでいる。
平成知新館の1階では「新収品展」も開催中。同博物館が新たに購入したり寄贈されたりした新収蔵品の数々で、画面いっぱいに数十匹の子犬を描いた伊藤若冲の「百犬図」をはじめ、徳川家光筆「梟図」、鶴沢探索筆「山水図屏風」、長沢芦雪筆「関羽図」、池大雅筆「竹石図」、重要文化財の「短刀 銘長谷部国重」なども含まれる。こちらの会期は2月6日まで。