【絵画、浮世絵、陶磁器、染織品、甲冑…】
奈良県立美術館(奈良市登大路町)が開館したのは1973年(昭和48年)。日本画家・風俗史研究家吉川観方氏(1894~1979)からの膨大なコレクションの寄贈が契機となった。それからほぼ半世紀。その後も篤志家の寄贈が続いたこともあって、収蔵品は4000点を超え関西有数の美術の殿堂となった。「奈良県美から始める展覧会遊覧」と銘打った今展では、日本の書画や洋画をはじめ陶磁器、刀剣甲冑、浮世絵、染織品など多岐にわたる収蔵品の中から選りすぐりの名品が約170点(前後期合わせ)展示されている。
6つの展示室のうち最初の第1室には寄贈者やジャンルを問わず作品がランダムに並ぶ。まず江戸時代初期の『伝淀殿画像』(写真㊤)、伝曽我蕭白の『瀧山水図』、富本憲吉の『金銀彩羊歯模様大飾皿』、〝アクションペインティング〟で有名な白髪一雄の作品2点、奈良出身のグラフィックデザイナー田中一光の『写楽二百年ポスター』など。奥に進むと葛飾北斎の『富嶽三十六景相州七里浜』や狩野探幽の『春日若宮御祭図屏風』(写真㊦)、祗園井特の『美人図』、野見山暁治の『脱ぐ女』、田中敦子の『90E』……と続く。田中敦子(1932~2005)は白髪一雄と同じく具体美術協会の会員として活躍した。出身は大阪市だが、1972年に奈良・明日香村にアトリエを構えた。
第2~第6室は寄贈者別とともに、奈良ゆかりの作家の作品を工芸編、絵画彫刻編に分けて展示。吉川観方のコレクションには100点を超える浮世絵が含まれる。葛飾北斎の『瑞亀図』は庭の井戸から現れた大きな亀に老夫婦がお酒を飲ませる構図で長寿の祝いを表現した。竹内栖鳳の六曲一隻『保津川之図屏風』、橋本雅邦の六曲一双『烏鷺図屏風』、太田垣蓮月の『和歌短冊帖』などもありコレクションの幅の広さを表す。白髪一雄の作品は実業家・化学者大橋嘉一(1896~1978)のコレクションの中でも2点紹介されている。奈良・柳生出身の哲学者由良哲次(1897~1979)のコレクションでは雪村の『山水図屏風』、池大雅の『夏山水図』、大雅の妻池玉瀾の『墨梅図扇面』など。曽我蕭白の代表作の一つ『美人図』は前期に展示されていた。
第3室には富本憲吉の作品を15点ほどまとめて展示中。皿や壷、茶碗、鉢など様々な形と意匠の作品が並び、〝大和時代〟から〝東京時代〟にかけての作品をじっくり堪能できる。ここには北村大通、北村昭斎父子の漆芸作品も1点ずつ展示中。北村家は代々、正倉院など奈良の社寺の宝物修理を手掛けてきた。昭斎は螺鈿の重要無形文化財保持者(人間国宝)。第5室には奈良県ゆかりの作家の絵画彫刻編として、浜田葆光の『水辺の鹿』、不染鉄の『奈良風景』、平山郁夫の大作『長安の残輝』、絹谷幸二の『チェスキーニ氏の肖像』などが展示されている。充実した展示内容に時間を忘れるほどだった。会期は3月27日まで。