く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> 「バイオエネルギー大国 ブラジルの挑戦」

2012年05月17日 | BOOK

【小泉達治著、日本経済新聞出版社発行】

 東日本大震災に伴う東電福島原発事故で原発の安全神話が崩れる中、ついに国内の原発50基が全て運転停止になった。今年の夏は無事に乗り切れるのだろうか。輸入依存の石油と原子力に頼った電力政策は今後どうなるのだろうか。国はいまだに中長期的な方向性さえ打ち出せていない。それだけに国を挙げて再生可能エネルギーの導入に取り組んできたブラジルの挑戦は、今後の日本のエネルギー安全保障問題を考えるうえで示唆に富む。

    

 著者は1969年石川県生まれ。筑波大卒業と同時に農林水産省に入り、米農務省経済研究所客員研究員、農水省農林水産政策研究所主任研究官などを経て現在、国連食糧農業機関(FAO)天然資源・環境局の事業調整官(ローマ在住)。ブラジルのバイオエネルギーについて研究を始めたのはFAO経済社会局に所属していた2002年というから、ほぼ10年になる。

 ブラジルでは現在、一次エネルギー供給のほぼ半分の約47%(2009年)を再生可能エネルギーが占める。その中心がサトウキビを原料とするバイオエタノール。需要増加の背景には価格に応じてガソリンとエタノールの混合割合を任意に設定できるフレックス車(03年発売)の普及がある。ブラジルは今や砂糖とともにバイオエタノールでも世界最大の生産・輸出国。大豆や落花生、ヒマワリなどの植物油脂を原料とするバイオディーゼルも、軽油の代替燃料として増加。さらにサトウキビ圧搾後の搾りかす(バガス)を使ったバイオ電力のウエートも徐々に高まっている。2011年10月現在、ブラジルの電力総生産量の割合は水力66%、ガス11%、石油6%、バガスを含むバイオマス由来が7%などとなっている。

 ブラジルのバイオエネルギーが優れている点として①生産コストが低い②エネルギー効率が高い③化石燃料に比べ温室効果ガスの削減率が高い④主原料のサトウキビの増産可能性が高い――などを挙げる。問題は主原料が農産物のために生じる食糧との競合。ブラジル政府は自動車用ディーゼルに対しバイオディーゼルの混合割合を徐々に高めているが、需給予測モデルによる分析ではバイオディーゼル需要の拡大で国際大豆価格は上昇するものの国際大豆ミール価格は逆に下落するとし、必ずしも農産物価格の上昇を引き起こすものではないとしている。

 筆者はブラジルの現状を踏まえ日本はリスク分散のうえからもエネルギー源の多様化が重要とし、「再生可能エネルギーを普及させていく際には小規模のエネルギー供給施設を日本各地に建設するという分散型エネルギーシステムを構築し、地域で生産したエネルギーを地域で消費するというエネルギーの『地産地消』を進めていくべきだ」と主張。ブラジルから学ぶ点としてコジェネレーションシステムの導入、バイオエネルギー関連インフラの整備、バイオエネルギーの普及と雇用の創出などを挙げる。ブラジルではエタノール産業の創出で砂糖産業と合わせ100万人近い直接雇用を生み出したそうだ。

 これまで国内で再生可能エネルギー問題が論じられるとき、モデルとして取り上げられてきたのは主にドイツやデンマークなどヨーロッパの国々だった。ブラジルについては世界最大のバイオ大国にもかかわらず、サトウキビによるバイオエタノール精製などが、砂糖や農産物の国際価格高騰などに絡めて断片的に報じられる程度だった。だが、本書はブラジルが再生可能エネルギーの先進国として世界のモデルになり得ることを示している。


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