天皇は家臣「身毛君太夫<ムケノキミマスラオ>」」を吉備下道に密かに派遣さして、連れ戻したのです。その様子が
“虚空輒急帰<オホゾラ アカラサマニ カヘル>”
となったのです。それまでは、頑なに、都へ帰ることを認めなかった前津屋です。それが太夫を遣わしたくらいで、そんなにも、たやすく帰ることを認めるわけが有りません。当然、内密的な 忍者のような早わざを使って、虚空は都まで帰り来たのではないかと、その様子が十分に想像できます。また、しばらくたって、居なくなった虚空に気付いた前津屋の驚きふためいた様子までもが、たった、この“輒急”の2字の中に読みとることができます。後の祭りとはこのことです。更に、それが、この事件をより物語風にするための作為として、「虚空」と云う名前の人物を、敢て、この場に登場させたのではないかと、作者の意図までもが、存分に、想像を掻き立てます。
そして、都に帰り着いた虚空は、早速、天皇に吉備での出来事をくわしく復命します。
“前津屋以少女為天皇人 以大女為己人 競令相闘 見幼女勝 即抜刀而殺”
と。