オホクニの母は
「お前が出雲の国にこれ以上いては、きっと、八十神たちに滅ばされてしまうこと間違いなに。逃げるが勝ちだ、今、木の国にいる大屋毘古神<オホヤビコノカミ>のもとに行きなさい。助けていただけます。
と言って、
”速遣<イソガリ ヤリタマヒキ>”
直ぐそのままの姿で、木の国。そうです。紀州へ急がせます。なお、此の「大屋毘古神」は、木の種を日本に初めて播いた神様です。その土地が紀ノ国だったのです。だから木の国なのです。ここから日本全体にある森が生まれたのです。最初は人も森の何もこの国にはなかったのです。神話の世界ではですが。
又、この「大屋」と云う名も、もともと家の棟木のことなのですから、『木』と大変関わりのある名を持つ神様です。この神様は、書紀には
「素戔鳴尊の子で、五十猛ノ神<イダケルノカミ>で、“有功之神”」
と書いてありますので、何事も広く受け止めて、きっとオホクニを守ってくれると母は思って遣わしたのです。でも、その母の思いを八十神は察知して、追いかけて矢を撃ちかけて来ます。八十本もの矢が、一度に、オホクニめがけて飛んできます。オホクニは、丁度、すぐ側に有ったのでしょう大木陰で身を守ります。そして、それからの事に付いて、古事記では
“自木俣漏逃而去<キノマタヨリ クキノガレテ サリキ>”
と書いてあり、これを宣長は
「こは大樹の下に隠居て、其木の俣(また)より脱出して、竊に遁去りたまふなり」
と、説明しております。