「阿波母與 <アワモヨ>」。「私は」と急に声を落としてスセリヒメは歌います。多分、しばらくは十分の間をおいて、更に声を落として歌うのです。不思議なのですが万葉仮名で書かれてある古事記の中の歌を、読むでなく、見るでなく、眺めるように一字づつたどれば、すると、自然に「スセリヒメ」の声が何処からともなく私の耳に届いてくるような感じがするのです。その歌を書いてみますので声に出して句ださい。
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奴斯許曾浪 遠邇伊麻世婆 ヌシコソハ ヲニイマセバ
宇知微流 斯麻能佐岐邪岐 ウチミル シマノサキザキ
加岐微流 伊蘇能佐岐淤知受 カキミル イソノサキオチズ
和加久佐能 都麻母多勢良米 ワカクサノ ツマモタセラメ
阿波母與 売邇斯阿禮婆 アワモヨ メニシアレバ
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このように、先ず、「オホクニ」の立派な御姿を歌ってから、それに比べて自分の持つオホクニに対する心を歌っています。それは恋の駆け引きとしては最上級の方策なのです。