新しい学習指導要領では、全教科を通じて「愛国心、道徳心、公共の精神」を教えることを強調しています。こんな流れが「よい子」に「よい行い」を求める心がけ「道徳教育」に陥らぬよう心したいと思う今です。
子どものなまの生活って「道徳の標本」のようなものではないのです。大人だって、わが子ども時代を振り返ったら納得できるでしょう。
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かき取りの作戦
四年 大林 幸太郎
十一月の何日かわすれたけど、白坂君とぼくとで、よその家に、かきの実を取りに行きました。
さいしょ、学校から帰ってから白坂君の家に行きました。さいしょは遊んでいました。すると、白坂君が、
「かき取りに行かへん」
と言いました。だからぼくは、
「べつにええで」
と言いました。ぼくは、
「でも、家の人に見つかったらおこられるで」
と言いました。すると、白坂君が、
「だいじょうぶやって。作戦をな、考えればええねん」
と言ったから、ぼくは、
「ほんじゃあ、考えよう」
と言って考えました。
なんやかんや言いながらも作戦が決まりました。だから、ぼくが
「じゃあ行こう」
と言いました。作戦は、いままで集めてきた、鉄のぼうやら木のぼうでたたいてかきの実をおとして、グローブでかきの実を取る作戦です。ぼくは、白坂君に、
「成こうしたらいいのになあ」
と言いながら、行きました。だけど、約二十mぐらいの所に人がいたから、取るのをまちました。まっていると、どっかいってしまいました。
で、かきの実のえだの下に行きました。白坂君は鉄のぼうでかきの実をいきなりたたきました。ぼくは、
「いきなりやるなよ!」
と言って、2号とうの前の公園に走ってにげました。白坂君とぼくは、もう一度作戦を考えました。だから、こんな作戦ができました。黒い鉄のぼうのさきっちょに、木で作ったけんをガムテープでつけて、かきの実をたたいておとして、グローブで受ける作戦です。
(中略)
ぼくは、白坂君に、
「黒い鉄のぼう、えだにひっかけといて、オレがジャンプしてやってみるから」
と言いました。
「あーあ、もうちょっとやったのに」
と言いました。今度は白坂君が、
「ちょう、もっといて」
と言ったので、持ちました。白坂君がジャンプしても取れませんでした。白坂君もあとちょっとでした。だから『かきの実』(授業で習った詩)のあんしょうをしていました。ちょっとあっていました。
その後、ぼうでたたいたりいろいろやっても取れませんでした。暗くなってきたし、もうあきらめかけたそのとき、白坂君が、黒いぼうをえだにひっかけ、ジャンプしました。だから、白坂君の手を見ました。すると、一つのかきの実が、あるのです。ぼくと白坂君は、目をでかくして、白坂君の家ににげました。ぼくは、
「ゆうくんナイス」
と言いました。取れたから洗いました。白坂君がかいちゅう電とうを持ってきて、二人でかんさつしました。ぼくは、
「ちょっときずいってるみたいやな」
と言いました。白坂君は、
「ほんまや」
と言って、かんさつをやめて
「バイバイ」
と言って帰りました。その作戦は成こうしました。<大澤昇「生きること綴ること」より>
よその家の柿をとるのを良しとするのではありませんが、柿とり作戦を考え、工夫し、暗くなるまで熱中するこの積極性、集中力は実に子どものすばらしさです。大人も、こんな時代をくぐって大きくなったのです。
(とさ・いくこ 和歌山大学講師・大阪大学講師)