桜高に学ぶあなたへ~本気で向き合ってくれる大人たちがいる
◆在校生への手紙
「桜高にあこがれて入学し、一年過ごした一年生のあなたへ
桜高生活の中で、見違えるほど成長した二年生のあなたへ
仲間を失った辛さを胸に、桜高を巣立つ三年生のあなたへ」
この書き出しで始まる「桜宮高校から体罰をなくし、改革をすすめる会」会員保護者・卒業生一同の手紙(2013年2月19日)を泣きながら読ませていただきました。高校生たちの胸の痛みに共感し、自ら考え、自ら立ち上がり、変えよう変わろうとする彼らへの信頼の手紙でありました。
そして、この手紙は続きます。
「桜高は、暴風の中から抜け出しつつあります。この1ヵ月、あなた達に加えられた心ない声から守ってあげられなくて、ほんとうにごめんね。大切な、大切な仲間をなくし、どんなに悲しみの涙を流したか、どうしてと自問自答し、自らをも責めていたか、決して平気ではなかったこと、父、母はちゃんとわかってます」
◆立ち上がる生徒・父母
「この悲しみから目をそらすことなく、桜高を見つめなおし、二度とこうした事態が起こらないよう、何をするべきか考え始めました。その矢先、『桜高は大阪の恥だ、異常だ』と一方的に決めつけた市長が、『体育系2科の入試中止、クラブ活動の全面禁止、教員の総入れ替え』をテレビを通じて声高に叫びました。あなたたちは自分たちがどう考えているかを聞きもしないこの動きに、『桜高を何も知らないのに、無責任だ』と怒り、体を震わせましたね」
「桜高は一瞬にして、『学び舎』の主人公である、あなたたちを無視した運営にされてしまい、翻弄されかけたのです」
「あなたたちの、卒業を控えた3年生の部長仲間が、思い余って、意を決して、記者を前に話したことは私たちもびっくりしました。桜高の生徒は大切な仲間を失ったことを悲しみ、それをどう受け止めていくべきか、二度と悲劇を起こさない桜高にする思いはだれにも負けないことを精一杯、世間に伝えようとしましたね。一部に、自主的に行動できるあなたたちを見ず、『誰がやらせたのか』などという心ない中傷が浴びせかけられる事態がありました。しかし、あなたたちの行動は大切な仲間を失った悲しみを乗り越えて、逆流に抗して、死を自ら選んだ仲間の思いを受け止めて生きていこうとする、勇気ある、心からの叫びだったと思います。あなたたちは、私たちの、何物にも代えがたい、誇りであり、宝ものです」
「私たち父、母も、あなたたちの勇気に負けまいと、有志の弁護士さんや卒業生、市民の方たちと一緒に、『桜宮高校から体罰をなくし、改革をすすめる会』を立ち上げました。桜高にかかわる自分たちが動かずして、桜高が抱える問題を解明し、改革することはできないと考えたからです」
そしてこの後、すすめる会は教育委員会に5項目の要請をし、クラブ活動の再開、新普通科の募集要項を生かしたカリキュラム設定と専門学科への改変を示唆し、生徒や保護者の意見を聞く方向性を示す文書回答を引き出したのです。
手紙はさらに続きます。
「私たち父、母は、あなた一人が子どもと考える狭い考えを捨てることを、約束します。桜高の生徒みんなをわが子と思い、心の闇から発せられるクライシスコール(救いを求める叫び)を決して見逃しません。体罰は決して許しません。教職員のみなさんも同じ思いで、桜高の改革に取り組もうとされています。クラブ活動の再開で、朝早くから登校するようになったあなたたちの目の輝きを見ると、今回の桜高へのいわれのないさまざまなバッシングから、桜高改革と未来が守れたと、痛感します。定員を超える受験生も夢を抱いています」
「どんなに困難な問題にぶつかっても、生きて、しっかり事実を見つめ、自分の意見を持ち、それに責任をもって発言し、行動すれば、道は必ず開かれます」と結ばれています。
きっと、高校生たちの胸に届いたことでしょう。本気で自分たちと向き合ってくれる大人たちがいるから、彼らは生きていきます。
(とさ・いくこ 和歌山大学講師・大阪大学講師)