月刊 きのこ人

【ゲッカン・キノコビト】キノコ栽培しながらキノコ撮影を趣味とする、きのこ人のキノコな日常

『思い出のマーニー』

2014-08-06 22:21:37 | キノコ本
予告映像で野生タモギタケを収穫するシーンがあった、というそれだけの理由で観に行ってきました、ジブリの最新作『思い出のマーニー』。
宮崎駿が抜けて、ジブリ存続の危機すらささやかれる中での公開だったが、なかなかどうして、いい出来だった。

あらすじ
主人公の杏奈(アンナ)は札幌の中学生。閉塞感の中で日々を過ごしていた彼女は、親元を離れ、海沿いの田舎町にしばらく滞在することになった。寄宿先の気さくでおおらかな夫婦のもとでも人間関係になじめないアンナだったが、ふとしたことで、入り江の奥に大きな屋敷があること気づき、それに惹かれる。「しめっち屋敷」と呼ばれる大きな洋館は、人の気配のない建物のはずなのに、潮が満ちるときだけ、人の姿が戻るのだ。
彼女はそこで、華やかで活発な金髪の少女・マーニーと出会う。現実の存在かさえ定かではないその少女に、しかし アンナは心を許していく・・・


ジブリといえば、どちらかというと娯楽重視で、これまで人間関係の負の側面を表に出すようなことはしてこなかったように思うが、この作品ではあえてその慣例を破っている。
アンナの背負った生きづらさ、息苦しさが全体の通奏低音となり、どことなく重苦しい雰囲気が全編を包むが、それがゆえに、入り江の屋敷をはじめ、北海道の森や水辺の景色の美しさ、静けさを引き立てているように思う。

さて、この映画の「しめっち屋敷」を見ていてイメージしたのは、『千と千尋の神隠し』だ。

水に囲まれて下界から隔離された湯屋。三途の川に代表される、生と死を隔てる水のイメージと、彼岸(いわゆるあの世)を象徴するものだと思うが、そのイメージは今回もまるまる生きているように思う。

屋敷でアンナは時間の感覚が失せたり、記憶があいまいになったり、性別があやふやになったり(マーニーに恋をしているように見える)しているが、それはやはり、屋敷が現世から離れた空間であることを示すものだろう。

その生い立ちゆえに自我を確立できないアンナは、そんな「あの世に近い空間」と現世を行き来する中で、自分という殻の中の、苦しみに満ちた自我を溶かして、新しい自我を作りなおそうとしているのかもしれない。彼女のそんなおぼつかない歩みは、悩み多き思春期の自らの足取りを思い起こさせ、ちょっと苦かったりもする。

マーニーはいったい何者なのか?そしてアンナは苦しみを克服できるのか?
まあその辺は、映画館で確かめていただきたい。


……ジブリ伝統の水面の描写はさすが。特に水辺の日没のシーンは美しい。植物や小動物の描写も手抜きがない(きちんと種類ごとに描きわけている)ので、生き物好きとしても楽しめる。

そして忘れてはならないのがキノコ!マーニーとキノコ狩りをするシーンでは、キノコが3種類登場!はっきりわかるのはマーニーがナイフで切りとる黄色いキノコ・タモギタケ。その前景でこのタモギタケと同じ倒木に生えているのが、これはツキヨタケ?あるいはムキタケ?(同時に生やすにはちょっと無理あるか?)
もうひとつ、茶色い傘のきのこも採集している。柄が白くて少しぬめりがあるように描かれていた気がするので、チャナメツムタケあたりかなぁ。

じつはこのキノコの森は、2人の関係が一変する重要な場所なんだよね、今気づいたけど。そういう心憎い脇役ぶりも発揮するのでありますよ、キノコは(笑)


『山渓フィールドブックス きのこ』

2014-05-19 19:12:17 | キノコ本
コトッ。金属部品を置くときの湿った物音が、静かな倉庫に響く。男は次の部品を手に取ると、油の臭いのする布で、ふたたびそれを磨きはじめた。
男はひとり木箱に腰掛け、武器の手入れをしている。その手つきは、なめらかで寸分の狂いもない。平穏の日も、激戦の日も。毎日積み重ねた現役兵としての修練の帰結が、その所作に凝集されているようだった。

……ふいに男は動きを止める。その眼は闇夜の獲物に狙いを定めるフクロウさながら、薄暗い倉庫のドアに焦点を定めると、微動することすらなかった。

コツ、コツ。

「いるか?」

ノックの後に扉の外から、控えめに様子をうかがう男の声がした。聞きなれた声だ。ひさしく聞かなかった戦友の声……

「ああ、入ってくれ。」

手を止めたまま男がぶっきらぼうに言うと、ゆっくりと開いた扉から、堂々とした体躯が現れた。倉庫内は暗く、逆光になって顔が見えないが、確かめるまでもない。

「いつもこんな陰気くさいところで武器の手入れを?“ガレージ・ウルフ”ってあだ名はダテじゃないようだな。」
「やあ、将軍。直々のお出ましとは、こりゃ明日の配給にはワインが出るな?」
「茶化すのはよせ、アガリクス。寂しがってるだろうと思ってこうして来てやったのに。」
「フン、ぬかせ。そんなものは誰も頼まん。」

ぞんざいな口のきき方とは裏腹に、顔は笑いながら、“アガリクス”と呼ばれた男は続けた。

「で、今日はどのような御用向きかな?ボレトゥス司令官。」

男は、沈黙を答えにすると、手近な木箱を見つけてゆっくりとそれに腰かけた。

「“ボル”でいい。こんな戦況では肩書きは重くてな。せめてお前だけは昔のまま俺と向き合ってくれないと……」
「ふふん、ずいぶんと弱っているようだな、ボル。『戦場の鬼』のふたつ名が泣くぜ?」
「そう言ってくれるな。こう毎日机の上で煮詰められては、鬼だって泣き言を言いたくなる。」

男はそう言うとアガリクスの手元の武器に目を止めた。

「山渓フィールドブックス、YKFか。お前まだそれ使ってたのか?」
「文句あるか?掲載種数1155種は全図鑑の中でもトップクラス、それでいてこの取り回しの良さ。写真がいいうえに解説は簡にして要を得ているし、植物寄生菌や変形菌まで網羅するカバー範囲の広さは……」
「ああ、わかったわかった。まあそいつのスペックもお前の経験と知識があってこそだけどな。新兵のあいだじゃいい評判は聞かんぞ?だいたいそれ初版だろ。新装版は使わないのか?」
「あれは外装が手抜きだ。湿気に弱い。そんなものに命は預けられん。」

ボレトゥスは一つため息をつくと、顔をうつむけ、ひとり言のようにつぶやいた。

「あいかわらず直截だな。その物言いがなければ、もうちょっと出世できたものを……」
「フン、またそれか。悪いが俺は好きで前線にいる。出世に興味はない。」
「お前がそばにいれば助かるのに、ということを言っているんだ、わからず屋が。」
「頑固はお互い様だろう。……覚えてるか?ボル。同じチームにいた頃。あんた39度の高熱でぶっ倒れそうなのに、夜の見張りに立つって聞かなくて。結局俺があんたの見張りやらされる羽目になったんだよな。俺は必死に抗議したよ、なんで見張りの兵隊を見張らなきゃなんねえんだって。」
「違う、あれは!フロッグの奴も風邪だったから!負担かけたくなくてだな……」
「俺だったら負担かけてもいいのかよ!」
「お前、見張りったって、ほとんど居眠りしてたじゃないか!」
「あ?そうだったっけな?」

他愛のない会話で、束の間笑いあう。共に死線をくぐり抜け、無条件に信頼しあうふたりだからこその空気。だがそれも、戦時下という状況にあっては、ほんの息抜きでしかない。アガリクスは、ふいに笑いを止めると真顔に戻り、戦友の目を覗きこむようにして言った。

「今日はこんなバカ話をするために来たんじゃないだろ?ボル。」

「……ああ。」

男は、一度顔をそらして答えると、一呼吸おいてから司令官の顔を取り戻して向き直った。
「アガリクス、君に頼みたい任務がある。君にしか頼めない仕事だ。」
「危険な任務なんだろう?」
「この戦いの勝敗を左右するほど重要な作戦だ。」

ふふん、とアガリクスは鼻で笑うと、彼は立ちあがった。

「水くせえな。ボル、あんたは司令官だ。お茶くみだろうと特攻だろうと、部下には傲慢に命令を下せばそれでいい。あんたの言うことならば、俺は何だって聞く。」
「すまない。」
「だから、それが水くせえって言ってんじゃないか。」

司令官はいくぶん表情を和らげ、かなわないな、といったふうに首をかるく振ると、話を続けた。

「作戦は少数で敵地に乗り込んでの潜入工作になる。まだ詳しくは話せん。詳細は追って伝える。」
「潜入工作……隠密行動か。……ひとついいか?人選は俺に任せてくれ。フロッグがほしい。」
「フロッグ?あいつでいいのか?」
「ああ、精鋭って感じじゃないけどな。話に出たら急にヤツと組みたくなった。」
「あいつならお前になついてたからな、いいだろう。頼む。」

立ちあがって差しのべられたボルの手をアガリクスが握る。これ以上の言葉はいらない。

戦友が立ち去るのを見届けると、男は再び武器の手入れを始めた。その手つきは、なめらかで、寸分の狂いもなかった。


(きのこ戦記シリーズ 『北陸のきのこ図鑑』




『山渓フィールドブックス きのこ』
その質実剛健さがたまらない、携帯フィールドきのこ図鑑の古参にして、今なおハイクオリティな一冊。

掲載種数は大量1155種!
シンプル&コンパクト、まったくムダのないお堅い構成!
冬虫夏草・粘菌・サビキン マイナー菌類大活躍!

まさしくキノコを観て調べるだけで幸せになれる観察屋さんのためにあるような図鑑である。しかもジメジメした野外でも使用に耐えられる防水仕様の表紙(ただし、旧版)、これがなめらかで触っているだけで気持ちよく!軽すぎず重すぎず、このサイズがまた絶妙で!井沢さんの写真もキレイだし!用もないのについついめくってしまう。

ただし、掲載種が多すぎて、キノコひとつひとつの解説が極端に短いので、「日本のきのこ」(山渓)や「原色日本新菌類図鑑」(保育社)などの巨大図鑑と組み合わせて使うことをおすすめする。フィールドで見たわからないキノコにだいたいの目星をつける、あるいは見たことのあるキノコを確認するなどの場面で真価を発揮するだろう。



なお、2006年発行、カバー表紙がドクツルタケの新装版は内容が多少新しくなっているものの、表紙に防水仕様になっておらず、雨の日に持ち歩いたりするとヨレヨレになるのでご注意。

『ニンジャスレイヤー』

2014-04-28 09:43:34 | キノコ本
(引用)
【それにしても、この悪臭は何とかならぬものか。これでは、鋭敏すぎるニンジャ嗅覚が逆に仇となる。フジキドは軽い吐き気を催した。マツタケは高級食材であり、自生の大物ともなれば、ツキジに眠る旧世紀の未汚染冷凍マグロ並みの価格を誇る。だが、いかんせん臭い。腐った死体の臭いを放つとも言われる神秘的なきのこなのだ。

それでも日本人はマツタケの香りを好み、カンポと呼ばれるオリエンタル的薬効成分を珍重する。松の木の下に死体を埋めると、そのマツタケは美味くなるという伝説も古事記にある。】


……どこをどうしたらこうなっちゃうんだ!

それは近未来の退廃した日本を舞台にしたアメリカのSF小説・『ニンジャスレイヤー』の第二部・『キョート殺伐都市』編にあるうちの一話・『チューブド・マグロ・ライフサイクル』に描かれている。


≪あらすじ≫
妻子を殺され、全ニンジャに復讐を誓った「ニンジャを殺すニンジャ」・ニンジャスレイヤー(フジキド)。彼は、キョートを牛耳るニンジャ集団「ザイバツ・シャドーギルド」が、秘密裏に「バイオ鹿兵器計画」を進行させていることに気付き、その阻止を試みる。

それを迎え撃つザイバツのニンジャ・スカベンジャーはドトン・ジツを得意とするキノコニンジャ・クランのニンジャであった。彼は戦闘で傷つくと懐からあるキノコを取り出し、食べはじめる。すると、みるみる傷が治っていくではないか!

【一体何故、彼の傷は再生したのか?何らかのジツを使ったのか?……否。その答えはマツタケである。ニンジャにしか耐えられない特殊バイオ手術を受けたスカベンジャーは、マツタケと呼ばれる特殊なキノコを経口摂取することにより、脅威的速度で肉体再生を行える体を手にしたのだ。】


……紅葉舞い落ちるキョート山脈の山裾にある松林でスカベンジャーと戦うニンジャスレイヤー。その地の利によってスカベンジャーは優勢に戦う。

【「イヤーッ!」スカベンジャーは敵から追撃を受ける前に、落ち葉の山の中へ飛び込み、再びドトン・ジツで気配を消した。土中を高速で掘り進みながら、彼は松の木の下で手を伸ばし、マツタケを採取し、咀嚼するのだ。(((俺は無敵だ!永遠にでも戦えるぞ!)))破壊された肉体を再生しながら、スカベンジャーは敵を嘲笑った!】


……圧倒的なカラテを持つニンジャスレイヤーも、徐々に追い込まれ満身創痍、絶体絶命のピンチ!しかしここで彼を救ったのは、バイオ鹿兵器の実験台として捕らえられていた鹿たちであった!


【「ニィイイイイーッ!」「二ィ!ニィイイイイイーッ!」「ニィイイイイイーッ!」「ニィイイイイイーッ!」「ニィイイイイイイイーッ!」広大な松林の全域に出現した鹿たちは、培養シャーレを汚染するジャームめいて一瞬で地面を覆いつくした。貪欲な彼らは最高級オーガニック・マツタケの臭いを嗅ぎつけ……喰らう!

「しまった!マツタケが!」狼狽するスカベンジャー!「イヤーッ!」「ニィイイイイイーッ!」「イヤーッ!」「ニィイイイイイーッ!」スリケンを投擲して鹿の虐殺を試みるが、とうてい殺しきれる数ではない!イナゴの群れに抗うファラオのように無力だ!そこで生まれた一瞬の隙目掛けて、ニンジャスレイヤーは杭打ちめいた痛烈な低空トビゲリを仕掛ける!「イヤーッ!」「グワーッ!」】

……かくしてスカベンジャーを倒したニンジャスレイヤーは、ホーリーアニマルを兵器転用するという恐ろしい陰謀を阻止、このサツバツとしたキョートにはびこる悪の根をまたひとつ絶つことに成功した。しかし彼はそのことに決して満足などしない。彼の目的はたったひとつなのだ。そして今日もひとりつぶやく。「ニンジャ、殺すべし……!」


『ニンジャスレイヤー』  ブラッドレー・ボンド + フィリップ・N・モーゼス 著

アメリカ人二人組による、なんかいろいろ誤解の多すぎる日本観にくわえ、その本文が持つ世紀末的な世界観やリズムの良さ・安っぽさを際立たせる日本語訳が、ごくごく一部で話題になったサイバーパンク小説。

警官がジッテを持って捕り物をしたり、エレベーターで電子マイコ音声が「三階ドスエ」などと案内したり、あまりにふざけた荒唐無稽な設定は、デタラメに見せて実は緻密に計算しているようだ。なかなかバカにできない。

このマツタケの件も、「腐った死体の臭い」「死体を埋めると美味くなる」などとメチャクチャ言っているようでいて、キノコが死と近しい存在であることを見抜いているし、キノコニンジャの名・「スカベンジャー」(scavenger=ゴミをあさる人、清掃動物)も、キノコが生態系において分解者であることをきちんと知っていることを示している。

そして何より、鹿がマツタケを食べることを知っているとは!

相当のキノコ通じゃないと知らないことを知っている時点で、著者のなまなかではない知識がうかがわれる。アメリカニンジャ小説、おそるべし!

そして魅力的なキャラクター設定とリズミカルなストーリー展開!小説としてのクオリティ・完成度も予想以上に高い。映画化大希望。

ただ、第一部だけで1冊500ページ×4巻組、それが三部構成というすさまじい分量なのと、やたら残虐シーンが多いのがタマに傷。わざわざ買ってまで読むべきかというとそれは……「イヤーッ!」地中からドトン・ニンジャの奇襲攻撃!「グワーッ!」連続投擲したスリケン八枚が次々と急所に突き刺さる!そしてニンジャは灯籠の上に降り立つとアイサツを決めた。
「ドーモ、キノコスレイヤーです。トリイ=サン、ハイクを詠め!」
「アバッ、ニンジャナンデ?・・・香りマツタケ、マギ・シンジ、種も仕掛けもない、胞子ならアリマス・・・」

「イヤーッ!」「グワーッ!」ナムアミダブツ!今宵はここまで!サヨナラ!

『京都利休伝説殺人事件』

2014-03-15 19:45:06 | キノコ本
『京都利休伝説殺人事件』  柏木圭一郎 著

≪「飛鳥英機さんの体内から検出された毒物なんですが、とっても珍しいものだったんです」
「珍しい毒物?」
美雪がコーヒーを淹れる手を止めた。
「カエンタケっていう毒キノコなんです」
「カエンタケ?」 ≫

週に一度の割合で謎に満ちた殺人事件が起こる、謀略と猜疑の渦巻く街・京都。

そこでふたたび殺人事件が起きた。被害者は茶の湯のグランプリの優勝候補。金と権力がちらつくきな臭い人間関係をバックに疑いが疑いを呼び、捜査は混迷を極める。ここで登場するのがフリーカメラマン・星井裕。彼は元妻の警察官・美雪と力を合わせ、持ち前の推理力を活かして事件の真相に迫る・・・!

出た!毒キノコ殺人事件!
もちろん前例がないではないが、こういう典型的な推理小説で毒キノコが出てくるのはかなり珍しい。で、なに?使ったのはカエンタケ?気付かれずに致死量食わせるのって難しくない?赤いよ?ダシ煮詰めるわけ?
あとなに?このダイイングメッセージみたいなのとか、こじつけっぽくて無理があると思うんだけど。それに二件目のトリックとかも。そもそもねー、美食カメラマンってなによー、コレあざと過ぎない?なんか「ドラマ化カモーン!」みたいで。だって、京都とグルメだよ、そんなの・・・グブッ、ウッ・・・  え?・・・何、コレ・・・なんか、ヘンな、ゴフッゴフッ!・・・・・毒?  ハァ、ハァ・・・ちょ、そんな・・・  カハッ、待っ・・・

グッ・・・  お・・・・・   ガクッ





【しばらくお待ち下さい】




……数ある推理小説でもめずらしい、毒キノコを用いた殺人事件モノ。本作では毒キノコの中でも今もっとも旬といえる、カエンタケが犯行に用いられている。カエンタケは近年発生が激増していて、触るだけでもかぶれる真っ赤な毒キノコとしてマスコミ露出度も高い。話題性はピカイチだ。

さてっと。問題はここからだな。

毒キノコ殺人事件というのが(現実にもフィクションにも)ありそうでないのには実は理由があって。思いつくものから挙げていくと

1・調理しなければならないため犯人が特定されやすい
2・人を殺す毒としては不確実
3・即効性がない

の、3つだ。1はなんとかクリアするにしても、犯人サイドとして2と3はかなり困る。実際に、猛毒キノコを食べても一命を取りとめる確率はけっこう高いし、死に至るとしても、すぐに亡くなるケースは珍しい。カエンタケの実際の死亡症例を見ても、中毒患者が亡くなったのは翌日か翌々日だ。この小説のように数時間で亡くなる確率は高くない。

これだけのデメリットがあるのにもかかわらず、それでも毒キノコで人を殺そうというのなら、それ相応の理由がないといかんわけなんだけど……これが難しいんだな。

結論を言ってしまえば、この小説も、毒キノコを殺人に用いた動機は、いまひとつ納得いかないものだった。多少入手に難があっても、確実に人を殺せる毒薬の方を選ぶだろ、ふつー。

ってことで!
ミステリー作家の皆さん!毒キノコ殺人事件として、バチっと整合性のあるヤツを今度こそ頼む!


ちなみにこの「京都利休伝説殺人事件」は「名探偵・星井裕の事件簿シリーズ」のうちの一作で、シリーズのうちの何作かはドラマ化もされている。京都とグルメが売りというあざとい小説だが、作中で登場する飲食店が、限りなく実名に近い形で登場してくるという、さらにあざとい作りとなっている。クソッ、祇園の鰻屋さんに行きたくなったぜ(゜¬゜)

そして、私が実際にお会いしたことのある菌類の先生まで限りなく実名に近い形で登場していた!まさかキノコフリークまで読者に取り込もうというのか!?

うーん、優雅な景観とはうらはらに、貪欲な本性が見え隠れする商業の街……まさしく京都のミステリーですな。


『現代農業 2005年9月号 特集・キノコの力を』

2014-03-06 20:06:00 | キノコ本
『現代農業  2005年9月号 特集・キノコの力を』

プロ農家のマル秘テクニックから、ばーちゃんの知恵袋まで、ありとあらゆる農業関係の情報を盛りこんだ(そして微妙にあやしい記事が多い)月刊誌『現代農業』。
その2005年9月号の特集はキノコだった!

目次
◎キノコは畑を元気にする
“いい畑”にこそ、キノコが生える!?
地力をつくりミネラルを集める畑のキノコ
キノコ菌ボカシで大根の土壌消毒がやめられた
廃菌床で土ごと発酵!
廃菌床は最高の高炭素有機物

◎キノコは人も元気にする
健康の秘訣は毎日飲んでいるキノコ茶なり
シイタケ丼
キノコ農家のキノコレシピ
畑のキノコで食べられるもの、食べられないもの
ジャンボマイタケの自然栽培法
村の牛糞堆肥で どんこサイズの特大マッシュルーム栽培

目次を見てもわかるとおり、キノコ栽培より、「農業(畑)にキノコを利用する」方がメイン。なかなか他では見られないキノコへのアプローチは、さすが「現代農業」!

農業には、「土壌の微生物を活用する」という技法がある。微生物のエサたる有機質肥料をうまく分解させて、作物に必要な養分を作らせるとともに、その活動によって土をやわらかくし、作物の根が水や栄養を吸収しやすい環境にする。
さらに、土の中で安定した微生物層を維持することで、特定の病害菌が増えることも防ぐことができる。まさしく一石二鳥、三鳥の高等テクニックだ。

この微生物の一種として、キノコも有効活用できる、というわけ。

この特集では、竹やぶから集めてきた土着菌を培養して、畑に施した大量の有機物を分解させ、その発酵熱を利用しながらキュウリを育てる技法や、ブナシメジの廃菌床を投入する農法が紹介されている。

マッシュルーム栽培は、かつてフランスでメロンを栽培するとき、肥料の発酵熱で温かくなった土から偶然生えたことから始まったという。それと同じようなことがここで紹介されていておもしろかった。

ジャンボマイタケや特大マッシュルームなど、独自で工夫した栽培法にプライドをかけて取り組んでいる人たちの記事もいい。なんかこういうところに出てくる人たちって、気持ちいいほどゴーイングマイウェイなんだよな……。

ただ、「発酵技術研究所」とやらの先生が書いた記事だけ、すごいアヤシイ・・・


オイちょっと待て、ツッコミどころが多すぎる……とりあえずハツタケとアミタケはそこじゃないだろー。

この後出てくる「アミタケ使ってオガクズ分解」は、かわいそうなのでやめてほしいよう(アミタケは菌根がなくなったら死ぬだけ)。自信満々で間違えてるとか、いったいどんな研究所なんだ……。

実は農業とヨタ記事って、昔からすごく相性が良くてね、ハハハ(^_^;)

こういうのも含めて、さすがは『現代農業』!


畑に生えるキノコではハルシメジとハタケシメジがトップツーに挙げられてた。


『世界の美しいきのこ』

2014-03-01 19:56:53 | キノコ本
『世界の美しいきのこ』  保坂健太郎 監修

ビジュアル系、デザイン系の本を多く出版し、『きのこ絵』『きのこポストカードブック』などキノコ関連書籍も手掛けるピエ・ブックスの制作したキノコ写真集。世界中の写真家たちの手による美しい写真をあつめた『世界の写真シリーズ」の中の一冊だ。

サイズは15センチ四方の正方形と、写真集としては変則ながら、200ページ弱の中身はビッチリきのこ写真でうずめられている。まさにキノコの洪水!

まるで絵の具につけこんだような色のウラムラサキやワカクサタケ。
青空の下、野草の花との共演を見せる野原のマッシュルーム。
暗闇に赤く浮かぶ、この世のものならざる雰囲気のウスベニコップタケ。
キノコと戯れるようなリスや小鳥とのツーショットも。

美しいきのこの写真といえば定番のベニテングタケや光るキノコはもちろん、色とりどり、形もとりどりの多種多様なキノコがページをにぎわす。

世界のキノコとあらば、つい珍菌・稀菌のたぐいを期待してしまうが、そうでなく、あくまでも当たり前に見るキノコを中心として、キノコの多様さ、面白さを引き出そうとしたセレクションには感心する。カワラタケやチャワンタケなど、いわゆるキノコ型じゃないキノコが大活躍しているのも楽しい。



テキストはキノコの名前のみ。


動物のってどうやって撮ったんだろ?

撮る人がバラバラだから、撮影道具も撮影スタンスもバラバラ。それだけいろんなキノコ写真を楽しめる。
本を飾ればそのままインテリアになりそうな仕様もありがたい。今まで、ありそうでなかった純然たるキノコ写真集だ。


『ポケット図鑑 日本のキノコ262』

2014-01-14 21:06:41 | キノコ本
『ポケット図鑑 日本のキノコ262』 柳沢まきよし 著

2009年発行の比較的新しいポケット図鑑で、文一総合出版からの出版。「哺乳類の足跡」「イモムシ」「海辺の漂着物」「雑草の芽生え」「淡水産エビ・カニ」など、スキマ狙いで魅力的な生き物関連ハンドブックをたくさん送り出している出版社だ。

ハンドブックは本屋でチラ見することがあるんだけど、どれもけっこう出来がよくて舌を巻く。そしてこのキノコ図鑑も例にもれず。おそらくポケットきのこ図鑑ではトップクラス(ていうよりトップ)だと思う。

著者の柳沢まきよし氏はフリーの写真家。当然ながら写真はうまく、印刷もきれいに仕上がっている。しかも、傘の裏側や断面、乳液などの色や変色性など、それぞれの特徴がきっちりわかる小さな黒バック写真が各キノコに2、3枚ずつ付けられており、非の打ちどころがない。


解説は情報量重視。限られたスペースを可能な限り有効活用している。ただ、専門用語が多いため、完全な初心者が使うのは苦労するかもしれない。

著者は長野出身ということもあり、キノコのセレクションは東日本ベース。ターゲットがキノコ狩りをする人に設定されているようなので、妥当かと思う。タイトルにもあるように、掲載種数は262と、コンパクト図鑑としては多め。携帯用ならこの数字でも十分だと思うが、堅くて食えないサルノコシカケ系(カワラタケやコフキサルノコシカケなど)のキノコをほぼ全て削っているので、その数字以上に充実度を感じる。


分類の難しいホウキタケを「ハナホウキタケの仲間」「コガネホウキタケの仲間」とするなど、正直申告が信条らしい。

キノコ知識もある程度のレベルになると、「コンパクト図鑑なんて役に立たないしジャマ」みたいに思うこともあるが、この図鑑ならば中級者でも十分に使えると思う。普段いかないフィールドに携帯すると威力を発揮しそうだ。

巻末には採り方食べ方コーナーが設けられているが、分量的にはちょびっと。本編がいいのでこれで十分でしょ。


ふむ。主だった食用キノコ・毒キノコは見開き2ページで。

『炭と菌根でよみがえる松』

2013-09-02 18:48:54 | キノコ本
『炭と菌根でよみがえる松』  小川真 著

ショウロというキノコをご存知?

直径3センチくらい、まんじゅう型の地味ぃ~なキノコで、海岸沿いの松林で採れるんだけど……先日、初めて食べました。ちょっと鼻につくくらいの豊かすぎるキノコ臭とショリショリとした食感が奇妙にアンバランスで、ほほえましい感じ。薄く切って、すまし汁なんかに浮かべたら結構おいしいだろうなー、などと思えるモノだったけど……今はこのキノコ、滅多に手に入らず、『幻の食材』あつかいされているみたい。
それもそのはず、全国的な松枯れで、海岸の松林そのものが瀕死になっているからなんだそう。そういえば、白砂青松なんて風景、最近ほとんど見ないですもんね。

――背景暗転、どこからともなく人の声――

S:ハッハッハ、それは違うよそこのキミ!

K:はっ、この声はいったい?

S:僕の名前はショウロマン!まあ、ショウロの精みたいなものかな?松がなくなったからショウロが消えたなんて、そんな一面的な見方では真実は見えないよ!

K:えっ、ショウロの精?一面的な見方?

S:そう!確かにショウロは松の根にとりついて栄養を集める。松がなければショウロは生えられないんだ。でもそのかわり、松の根の生長を助けてあげることができる。だから……

K:だから?

S:僕たちショウロがとりついた松はとても元気になる。松枯れ病にだって負けない木になるんだ!すごいだろ?松がなくなったからショウロが消えたんじゃない。僕たちがいないから松がダメになっちゃったんだ。

K:え?そうなの?じゃあキミたちをあちこちの松にとりつかせれば、海辺の松は生き返るんだね?

S:うん、それがね……

K:ダメなの?

S:そうなんだ。僕たちは落ち葉やゴミの少ない栄養の乏しい砂地じゃないと、すぐ他のキノコやカビに負けちゃうんだ。これまでは、キミたち人間が、燃やすための松葉や枯れ木をせっせと集めてくれたから、僕たちも長いこと生えていられたんだ。でも今じゃ、誰も松林の手入れなんかしてくれない。僕たちも松も今や風前の灯だよ……

K:そんな……なんとかならないの?

S:うん。まず手入れだね。茂った草や木を取り除いて、土をはぎ取り、きれいな砂といれかえて、若い松を植えてもらえれば。

K:うへぇ、なんだかすごく大変そう。

S:あと、炭だね。

K:炭?あの、バーベキューとかに使う?

S:うん。僕たちが菌糸を広げるのにとても都合のいい構造をしているんだ。他の菌を遠ざけるアルカリの成分も入ってるしね。どう?できる?

K:うん、時間と手間がすごいけど……何とかやってみる。

S:たのんだからね!それじゃ!

―――って、どんな展開や!ま、それはさておき。
海辺の松を取り戻したいと願う人にはもちろん、キノコをはじめとした生き物に関心がある人にも、経験と実践に裏付けられた生きた知識がタップリの一冊。

現在の日本の自然というものは、長い長い人間たちの活動の末に作り上げられたものであって、けっして自然のみによって成されたものじゃない。古くからの風景が失われいくのを、ただ黙って見守るのか、それとも手を加えて守るのか……。
手つかずの自然というものが必ずしも豊かでないということを。人間もまた自然の一部であるということを。私たちが学ばなければならないことは、あまりにも多い。


……やや学術的で分厚いけど、キノコの生態を知りたい向きにはイチオシの本。ナラ枯れも扱う続編『森とカビ・キノコ』もおススメ。



『よくわかる日本のキノコ図鑑』

2013-08-30 19:35:22 | キノコ本
『よくわかる日本のキノコ図鑑』 キノコ雑学研究倶楽部 編

ツヤツヤの表紙、カクカクのシルエット、カバーなし、そして安っぽい装丁……出た!これぞ
ワンコインきのこ図鑑。

廉価(600円)で入手できるオールカラーキノコ図鑑。ワンコイン(ごめん、ツーコインだな)だけあって、書店で売るのではなく、コンビニなんかで並べることを前提として作ったように思う。この本が出版されるにあたって、どのような客層が、どのようなシチュエーションでこの本を買うと思ったのか、企画段階でのプレゼンが非常に気になるところだが、それはさておき。

掲載種数は約90種。章立てが独特で、掲載キノコは
第1章『美人キノコ写真館』
第2章『危険!毒キノコ』
第3章『食べられるキノコ』
第4章『森を彩るキノコたち』の順に紹介されている。

目を引くように、美しいキノコを巻頭に持ってきたのはわかるとして、毒キノコが食べられるキノコより先に配置されていることに注目。
従来のキノコ図鑑の大半は「食べられるキノコを調べるため」という明確な目的を持って出版されてきた事実を考えると、この逆転はけっこう意味が大きい。

おそらく、この本を作る際の基本方針として、編集者はこう考えたのであろう。
『コンビニを利用するような客が、天然のキノコに期待する姿は「美味な自然食材」ではない。きっと彼らが望むのは「アヤシイ植物」としてのキノコであろう!』と。

たしかに近年の「こびとづかん」や「なめこ」のフィーバーを見るに、「アヤシイ」にもそれ相応の市民権が生まれたのは確かなことだ。

なるほど、そう考えれば表紙のデザインも納得がゆく。色彩をおさえた黒っぽいバックにボンヤリ光るようにして浮かぶブナシメジは、さながら丑三つ時の幽霊。ページ下の青文字は心霊写真特集とかに欠かせないホラーフォントが使われており、ページ上の『よくわかる日本の』の赤文字はよく見ると血が滲んでいる……!

……てのはまあウソだけどね。


しょっぱながベニテン。第一章は『美人キノコ』とかいいながら、セレクションが異常にシブい。ヒトクチタケとかアクニオイタケとか。なにゆえ(笑)


ドアップ写真が好きらしい。印刷画質はイマイチ、いやイマニ…ニイテンゴくらい。でもこの価格で250ページオールカラーなんだから褒めてあげよう。
テキストは意外と頑張っていて、特に毒キノコの中毒症状の解説はふるっている。なお、この本で、山で採ってきたキノコの種類を調べるのは無理。掲載種数の少なさを見ても、索引がないのを見ても、そういうふうに作っていないことがわかる。


自宅で菌床キノコ栽培の記事!第五章以降のキノコ雑学コーナーやコラムは初歩的な内容ながら、かなり頑張って書いている。キノコ読み物としては一般の入門書に引けをとらないぞ。巻末の『キノコ分類表』、ひそかに使える(^_^;)

総合的に見て、ツーコインきのこ図鑑としては頑張っていると思うが、コンビニでこれを買う人ってどんなだろう……という邪念が頭にまとわりついてはなれない。あたかも呪いのように。
ハッ!やはり心霊キノコ図鑑であったか……!!


ちなみに、写真提供しているのが
『ドキッときのこ』竹しんじさん
『ゆめきのこ』高橋洋一さん
『遅スギル』osoさん
いずれも名うてのキノコ写真家だけに印刷画質が悪いのが惜しまれる。

『きのこ文学名作選』

2013-08-25 21:15:49 | キノコ本
『きのこ文学名作選』 飯沢耕太郎 編

キノコ書評家・飯沢耕太郎の手によるキノコ書評本三部作(かってに命名)の中でも、燦然と輝きすぎる一冊。

夢野久作、加賀乙彦、泉鏡花、正岡子規、宮澤賢治……数々のきのこ文学の中でも、より抜きの名作を凝縮した「きのこアンソロジー」の決定版。

名作ぞろいだから中身は文句なしにスゴイと言えばスゴイんだけど、それを抜きにしてもなんかこの本、輝いてるんだよね。うん、まあなんというか、その、デザインが。

あれ?

乱丁?

なんじゃこりゃ?

発狂デザイン(笑)
作品が変わるごとに紙の色ばかりでなく、紙質まで変えるという手の込みよう。手掛けているのは『言いまつがい』『伝染るんです。』など、奇抜な装丁を手がけることで有名なデザイナー・祖父江慎。道理でなー。



ブックカバーはよく見ると穴だらけで、表紙は金ピカ。こんなもんどうやって印刷すんだ?

読めません(苦笑)

正直、読みづらいのでここまでやるのはどうかとも思うが、おもしろいので良しとする。ただ、これがキノコ的なデザインかといえば、そうではないと思う。まだまだ掘り下げが足りぬようだ。

キノコとは、植物ではなく動物でもないもの。滋養を持ち、毒を持つもの。死物を分解し、生ける者へ還元するもの。すなわち、死を招き、新しい生をもたらすモノ……!その!二律背反を体現するブックデザインとは!!

……ウラもオモテも両方表紙で!!裏表紙からはじまる作品はぜんぶ上下逆さに印刷してある!!紙は表半分が白系、裏半分が黒系で!表側からのページと裏側のページがまん中でゴッツンコすると、そこだけがレインボーカラー、さらにはホワイトアウト!上下も左右もない無重力の混沌状態になっているっ……!!

……ってぇ案なんだけど、いかがかしら?


『日本菌類図説』とのコラボも。

他にも、ペインター・松田水緒の手による落書き的挿画が多用されているが、こちらの出来も、ちと残念である。落書きとは、無意識とのファーストコンタクトから生まれるものだが、それが生み出されるにはまず沈殿が要る。その沈殿がない。だから薄い。堅い。精気がない。(意味不明でスイマセン)

結局、この本のデザインは、ただ奇抜なだけのように思う。もちろんキノコを念頭において作成したのだろうが、それはキノコという存在を頭の中のイメージオンリーでこねくりまわしただけ。実体がない。
別に奇抜でなくてもよかったのに、あえて奇抜にしたかったのなら……せめて生き物への愛がある人にまかせてほしかった。キノコはこんなカタチをしておらぬ。

少々読みにくいが、テキストそのものには問題なし。
個人的には加賀乙彦の『くさびら譚』、村田喜代子『茸類』が好きかな。
キノコの暗黒的な側面をうまく掘り下げた作品が多い。

『爪先に光路図』

2013-07-30 21:03:23 | キノコ本
『爪先に光路図』  青井 秋 著

『……あぁ やっぱりだめだ どう考えても これは恋だ』

几帳面で線の細い男子学生・岩井は、アルバイトとして、とある研究施設で助手をすることになる。山深くにあるその研究所には、ただ一人、室田という男が住みこみで研究を続けていた。一見して偏屈でとっつきにくそうな雰囲気だが、自然に対する真摯な眼差しを持ち、ときおり優しさも見せる室田に、やがて岩井は信頼をよせていく。
そして、彼はいつしか、それが別の感情へと置き換わっていくことに無自覚ではいられなくなっていくのだった……

菌類の研究所を舞台に繰り広げられる、ボーイミーツボーイ的な何か。いわゆるBL(ボーイズラブ※)漫画。

『まるで別の星にいるみたいだ 室田さんと 二人きりで』

登場人物ほぼ2人だけなので、話にスジも何もあったもんじゃないが、野外採集でくり出す奥山での2人の交流は、やはり街中とは違う何ものかの雰囲気を感じさせる。それは少し怖ろしく、そして妖しい、あるいは人を過たせるような何かなのかもしれない。



『きっとこの下にも 菌床の巨大なレースが蔓延っていて
 時折思い出すように地上に現れては
 雨に溶けるように消えていく
 ……俺はそれを あと何度くり返せば』

この作品の真骨頂は、地下に菌糸を蔓延させながら、ポツリポツリとしか表に姿を現わせないキノコを、道ならぬ恋心に重ねあわせているところにあるだろう。心の中に深く食いこんだ想いは、もはや取り去ることなどできるはずもなく、かといって、心のままに告白してしまえば、望まない結果が待ち受けていることなど、容易に想像がつく。

『待ってくれ……そうじゃないんだ』

引くも進むもままならない。菌糸にとらわれた者は、自らの想いにがんじがらめにされ、そのまま暗い地下へ沈みゆくしかないのか。それとも……



―――章の扉などにあしらわれているキノコの絵は写実的で、暗さ、深さをうまく表現した森の情景なども含め、とても丁寧に描かれているのが印象的。

ただし、作者の初単行本ということもあってか、菌類知識は付け焼刃のようで、エノキタケが夏に生えてるなど、ツッコミどころがちらほら。まあこのくらいは大目に見ましょー。


ナギナタタケが倒木から生えてるっぽい(こまかいツッコミ)


表題作「爪先に光路図」の他に、ちょっとファンタジックな色合いの短編が2編。いずれも生き物を題材にしている。短さゆえにストーリーに奥行きがないものの、背徳的な恋に対する後ろめたさと重なるのか、ほの暗いイメージが静かに染み込んでいるのが心地よく感じられて、悪くない。

『……君が居ないと だめなんだ』

これを読んでるそこのアナタ。これを機に新しい愛の世界の扉を開くなんてのは、いかがですか?(ウン、言ってみただけ)


※BL(ボーイズラブ)
おもに女性が愛好する漫画や小説などの1ジャンルで、男性の同性愛を描いたものを指す。俗に言う「やおい」とは細かい意味で使い分けされているが、根本的にほぼ同じもの。
ぶっちゃけ「エロ」なため、あまり表には出てこないが、「やおい」は日本のサブカルチャー文化ではすさまじい広がりを持っていて、世界最大規模の同人誌即売会「コミックマーケット(通称コミケ)」でも一大勢力をなしている。やおい好きの女性を指す「腐女子(ふじょし)」なる言葉も一般に定着しているほどだ。

正直なところ、男性としては共感しがたいけど……『爪先に光路図』くらいのライトなものなら、まー許容範囲か。そういえば少女漫画とかでも同性愛って人気あるよねー。背徳的なフンイキがいいのかなー?

いやいや、男にして男にあらず、女にして女にあらず……この性倒錯は、中間的、境界線上のモノを象徴する「キノコ的なるもの」と、まさしく重なるのではなかろうか!

すなわち日本のサブカル界は、きわめて根深く菌糸に侵されていると言えよう!(超曲解)

あー、でも潜伏してる腐女子って、菌糸みたいだよな……んでコミケだけで大っぴらにできるってのがキノコ状態で。そう考えると「腐」女子ってのも意味深だよね……白色腐朽とか褐色腐朽とかしてるんだろうな、きっと。

でも何を腐らせてるんだろ……


『北陸のきのこ図鑑』

2013-03-01 22:07:10 | キノコ本
キノコの自由開放をめざす「キノコ連合」は現在、体制側にある最大勢力「真菌帝国」との交戦状態にあった。連合側、前線の部隊をまかされている名将、ボレトゥス・ファンガー大佐は、劣勢にある戦況を盛りかえすべく、考えうるあらゆる方策を検討していた。

そんなある日、大佐はルッスラ中尉の急報を受ける。

「たっ、大佐!たいへんです!」
「中尉か。どうした、そんなにとり乱して。」
「ハァ、ハァ、それがっ。高い評価をうけながら長らく絶版になっていたあの『石川のきのこ図鑑』がっ、再版されるそうなんです!」
「なに!数あるローカルきのこ図鑑の中でも最高の評価を受けていたあの図鑑がか!」
「はいッ。しかもそれだけじゃないんです!前作で扱っていなかった未登録種や未知の新種を大幅にくわえて、掲載種は倍以上、1403種!」
「!!」
「もちろん全種に精緻な手描きキノコ図版と胞子などの検鏡図がもれなくついて!その威力は、わが軍の主戦力『原色日本新菌類図鑑』(保育社)にならぶか、へたをすれば上回るのではないかと……!」
「なっ、バカな!最強クラス?まったく別物ではないか!」
「はい、タイトルも変わって、その名も『北陸のきのこ図鑑』……。」
「北陸の…!まさかそこまで強くなるとは……。よく報告してくれた、中尉。敵に気取られぬうちに今すぐ全部数をおさえるのだ!」
「それが……。こんな恐ろしく手の込んだものがなぜか自費出版らしく、高価な上に数が少なくて入手困難……しかも大多数がすでに資金潤沢な敵の手におちたかと……」
「くっ!またしても後手か!中尉!資金のことは私が上層部に掛けあう!ただちにっ、一部でも多く手に入れろ!行け!」
「ハッ!」

中尉があわただしく出るのを見届けると、大佐はソファーに腰かけた。白髪まじりの短髪をかき上げながら、大きくひとつため息をつくと、そのまま左手で両目を覆うようにして、背もたれに身をゆだねた。

彼のデスクには、読みかけの報告書が数枚と、それに昨晩のコーヒーがまだそのままになっていた。戦火の近づいた司令官室を静寂が覆う……。

「原色日本新菌類図鑑」(保育社)、「日本のきのこ」(山と渓谷社)の2大巨頭の発刊以来、十五年以上きのこフリークを待たせ続けてきた‘次の図鑑’がついに出た!大部「北陸のきのこ図鑑」。中身のないゴミ本が版を重ねて文庫まで出す一方で、これほど質の高いものが出版社に門前ばらいをくらうとは……物の値打ちが見ぬけんのか。たとえ自分が北陸に住んでいなくとも、この内容で15000円は安い。

現在熱心なキノコ仲間に口コミで広がっており、売り切れるのも時間の問題だろう。フリークの力あなどるなかれ!連合軍の反撃の日は近い。



『北陸のきのこ図鑑』  本郷次雄 監修  池田良幸 著

数あるきのこ図鑑の中でも最大最強を誇る化け物クラスのローカルきのこ図鑑。

「石川きのこ会」の設立メンバーであり、アマチュアながら地道に菌類の調査を続けてきた池田氏が、石川・富山・福井の北陸三県を中心とした地域で確認したキノコをまとめあげた労作である。

特に亜高山帯などで見つかった未知種、あるいは未登録種が「仮名称」の状態で多数掲載されているが、情報の量、さらに質の点でも申し分がなく、国内でも屈指の偉大なキノコ図鑑だと断言していい。むろん、全国的に分布する普通種も網羅していて、北陸在住でなくとも十分に利用価値がある。


イラスト図版150ページ弱とキノコ解説の300ページ強は本の前後で分けられていて、ちょうど「原色日本新菌類図鑑」と同じような形式。イラストは彩色こそ控えめだけれど、緻密で実用本位。解説も項目立てがなされており、硬派ながら使いやすい。

ふー。今、冷静に考えてみても、これで15000円は安いわ。


ちなみに本記事冒頭のレビューは8年ほど前の購入当時に書いたもの。図鑑が予想以上の出来だった上に、価格が当時の自分には法外な大金だったせいもあり、異常にハイテンションになっておりました。ははは……^_^;

『よくわかるきのこ大図鑑』

2013-02-22 22:35:14 | キノコ本
『よくわかるきのこ大図鑑』 小宮山勝司 著

キノコ大図鑑!

いや、ま、たしかに大図鑑にはちがいねえ。サイズがデカいからな。……ってゆーかそんだけじゃねーか!よくもその程度で大図鑑ヅラできたもんだなァ、ッああぁァ?

……などとキレやすいチンピラを演じているわけにもいかないので、ここは『よくわかるきのこ大図鑑』を「ヨクワカルキノコオオズカン」と読むことでひとまず納得することにしよう。

端的に言って、標準的なコンパクトカラーきのこ図鑑の内容はそのままに、サイズだけ大きくした感じ。サイズだけ大図鑑。
もっとも、サイズがでかいだけで役立たずかと言えば決してそうではない。写真は枚数が多い上に一枚一枚が大きく、レイアウトにも余裕があるので全体を通して読みやすいし、掲載種数300種は並のコンパクト図鑑の約200種の5割増し。著者の小宮山氏は写真撮影に定評があるが、ソフトな文章もなかなかのもので、キノコ初心者が最初に手にする一冊としては、かなり上位に入る出来栄えだと思う。

惜しむらくはその記述量の少なさか。読みやすいということは情報量が少ないことの裏返しでもある。特徴のはっきりしたキノコならばそれでもかまわないが、地味で似かよった種をこの図鑑で区別するのは厳しい。あと、キノコのサイズが記されていないのも手落ちと言えよう。

しかし、それらの弱点を帳消しにしてしまうほどの強みがこの図鑑にはある。そう、それは、コストパフォーマンスだ。

以下に、代表的な大型きのこ図鑑の重量と税込価格、さらに100gあたりの価格を計算して列挙してみた。

日本のきのこ(改訂版・山と渓谷社) 1510g・8400円……100gあたり556円
北陸のきのこ図鑑(橋本確文堂)   1450g・15000円……100gあたり1034円
世界きのこ大図鑑(東洋書林)   2470g・18900円……100gあたり765円
よくわかるきのこ大図鑑(永岡書店) 1100g・1575円……100gあたり143円

見ろ!ブッチギリだ!アメリカ牛より安い!

ちなみにポケット図鑑が200g弱で1000円ほど、コンパクト図鑑が300~500gで1200円前後、一般的な写真図鑑が500~800gで1500円~3000円といったところか。いずれも「よくわかる大図鑑」には遠く及ばない。

図鑑の価値が目方に比例するわけがないし、収納や携帯性の問題もあるから、もちろんこれはジョークなんだけど、それにしてもこのサイズにこの内容で1500円は安いなー。



「ペンションきのこ」のオーナーとして名の通っている小宮山氏。写真の腕はさすが。ただ、この本に関して言えば、たまに画質がすごく厳しい写真が混ざってる。古い機種で撮った写真かな?ま、コスパ最高ですから。
一種類のキノコに、白バック写真を含めたたくさんの写真がついているのはありがたい。

キノコは発生場所別に掲載。著者が長野在住なので、きのこのセレクションは高冷地に発生するものに偏っている。

テキストは文字が大きく読みやすい。専門用語も可能な限り使わない方針で、初心者でも安心して読める。


巻末には写真目次とレシピ集がある。特に写真目次は使いやすいと思う。

あと読んでて気になったのは、毒キノコに関してかなりうるさいこと。ナラタケなんかは「5本以上食べないようにしましょう」なんて書いてある。「軽い下痢くらいだったらいいじゃん」ってのが食いしん坊としてのホンネだよね。

中島みゆき

2013-02-07 23:26:53 | キノコ本
中島みゆき。歌手歴30年オーバー、ユーミンや竹内まりあと並ぶ、最古参の女性シンガーソングライター。すでに普遍的名曲の地位を確かにした「時代」をはじめ、これまでたくさんの曲を送り出し、いまなお現役。かつては「暗い歌ばかりつくる」と評されていたが、最近はそんなでもない。TOKIOに提供してヒットした「宙船(そらふね)」が記憶に新しい。

さて、この人、基本的にマスコミ露出が低い(歌番組に出ない)ので、あまり知られていないけど、たとえばラジオの深夜番組でパーソナリティをやらせたりすると、こんな感じに。

……なにこのテンション。

どうやらこれが素(ス)の彼女らしく、このあっけらかんなトークで幻滅するファンも多いとか少ないとか。
ところが、このネジのはじけ飛んだオバチャンがいざステージに立つと、多感で繊細な詞に、悲喜の混沌ともいえる情感を乗せ、その圧倒的な存在感で聴衆を魅了する。その豹変ぶりは「魔女」「きつね憑き」などとファンの間でささやかれるほどだ。

無邪気な子供の相が、喜びも悲しみも受け入れる大人の相と同居している。典型的なトリックスター

そういう目で見れば、彼女の作った曲にも、相反するものを仲介する、という普遍的なテーマに基づくものがとても多いことに気づく。男と女、希望と諦め、愛と別れ、生と死。

たとえば、悲しいばかりの失恋の歌……しばしば歌の中で失恋が死のイメージと重ねあわされるが……これも彼女の魔法にかかると、それも人間の世界で繰り返される輪廻の一環なのだ、なんともしょうがない、しょうがないよね……と暗に諭され、励まされてるような気がしてくる。暗い歌が多くても、世代・性別を問わず、彼女が広い層に支持される理由は、そういうところにあるのかもしれない。

曲中に色濃くあらわれる水のイメージもまた象徴的だ。生命のゆりかごたる海、赤ん坊を包む羊水、あるいは死者を隔てる三途の川、そして最終的にすべてが還るところでもある海。生死をつなぐ仲介者がはたらく場所としてふさわしい。

話がずいぶん観念的になってしまたけど、中島みゆきがトリックスター(≒キノコ的)歌手だということ、ご理解いただけましたでしょうか?私ファンなので、文章が偏重かつ暴走気味なのはご容赦を。

写真は2002年発売のアルバム『おとぎなばし』(英題・FairyRing)から。キノコ入りの歌詞は探してもなかったんで、こじつけで。

※参考
『宙船』 ロック調。破壊的な相
『ファイト!』 代表作のひとつ。抒情的。水のイメージ。明暗ごちゃまぜの混沌。
『とろ』 子供の相。「とろ」は子供時代の彼女のあだ名。何をやっても「とろ」かったらしい。

『世界きのこ大図鑑』

2013-02-01 20:27:56 | キノコ本
ジョン:やあ、みなさん。リビングに居ながらお買い物が楽しめる「KIN・ショッピングTV」へようこそ!今日紹介するのはコレ!『世界きのこ大図鑑』だ!

マイク:ワオゥ!なんだいこのデカさ!自由の女神が小脇にかかえてそうだよ!

J:ビックリしたかい?縦が28センチ、横19センチ、厚みも5センチ近くあるんだ。数あるきのこ図鑑の中でもトップクラス。見てよこの貫禄。なんたって『大図鑑』だからね!

M:フー、こりゃすごいや。これなら家に泥棒が入ってきても一発で退治できるね。

J:おいおいマイク、せっかくの図鑑なのにそんな使い方をしちゃいけないよ。まあ武器として使うにしても、君の場合はこの図鑑を誰にも見つからない場所に隠しておいた方がいいかもしれないね。

M:?? そりゃどういう意味だい?

J:じゃないと浮気性のマイクはすぐにでも奥さんに退治されちゃうからね。

(マイク、肩をすくめる。観衆、笑う)

J:そんなことはいいとして、見てよ。この綺麗な表紙のキノコたちを。

M:ああ、とってもカラフルだ。まるでお花畑のようだよ。こんなにきれいなキノコがあるなんて!早く中も見せてほしいな。

J:マイク、そんなにせかさないで。この図鑑の売りはスケールの大きさだけじゃない。すぐれているのはそのビジュアル性だってことが一目でわかるよね。ちなみにこの図鑑、シカゴ大学出版から出版された『THE BOOK OF FUNGI』を日本語訳したものなんだ。約650ページはもちろんフルカラー。ヨーロッパやアメリカだけじゃない、世界中のキノコを載せているよ。

まあ前置きはこのくらいにしておこうか。さあ見てごらん、この中身を。

M:ウオゥ、これは……とても綺麗だ。写真が、すごく上手に撮れてて……なんかとてもリアルだよ。

J:その通り。収められているキノコは全部で600種。1ページにつき1種類ずつ、丁寧に撮られた白バック写真はそのキノコの特徴を的確にとらえていて、しかも原寸大で掲載されている。巨大サイズの図鑑にしかできない芸当だね。

M:あと……ページの余白がすっきりと映えてキノコをひき立てているね。なんていうのかな、とても上品で……図鑑を観ている僕をエレガントな気持ちにさせてくれるよ。

J:いいところに目をつけるね、マイク。レイアウトには細心の注意を払っているんだ。特に調べものじゃなくても、こうしてペラペラめくるだけでも楽しいよね。

さあ、写真やレイアウトもいいんだけど、見逃しちゃいいけないのが、キノコを解説するテキスト。そのキノコの分布や発生環境、発生頻度、胞子の色、食毒なんかが一目でわかるようになっているのとまた別に、名前の由来や生態、食味、分類学の知見など、豆知識がたっぷり詰まった解説がついているんだ。もちろん、日本語訳はていねいでとても読みやすいよ。

M:ふむふむ。たしかに読みやすそうだよ。これを読めば僕も賢くなるかな。

J:どうかなぁ。君は食味のところしか読まなさそうだからね。そうだ、頭の良くなるキノコがあったら探してみるといいよ。

М:ああ、こりゃまいったね。その口の悪さが治るキノコも探してみるよ。

(観衆、笑う)

J:さあ、これでこの本がどんなスゴイ図鑑なのかわかったかな?本来、こんなすごい内容の本を日本語訳なんかで出しちゃうと、専門書扱いで大変なお値段になっちゃうんだけど、今回は大まけにまけてのびっくり価格!

なんと!18900円!

さらに今回は、南米原産のキノコ・ガルガルから抽出した成分を元にしたサプリメント、女性の骨の健康を守る「ガルガルガール」のお試しセットもお付けして……

М:(ひじでジョンを小突きながら小声で)ジョン!ちょっと。

J:なに?なんだよ?

М:(二人、後ろを向いて、ひそひそ声で)18900円?むしろ高すぎてビックリだよ。こんなの買ったら女房にお小言もらった上に図鑑を口に突っ込まれて、返品させられちゃうよ。

J:(同じくひそひそ声で)いいんだって、持ち運べばダイエットできるんだから健康にもいいし。それに日本の最大クラス『北陸のきのこ図鑑』は400ページで15000円だったから、650ページでこの値段だったら格安じゃないか。

М:英語の原書が5000円で買えても?

J:シッ!それは内緒!いいね、ビッグマックのタダ券あげるから、今は黙ってて!

(マイク、渋々引き下がる。ふたり正面に向き直る)

さあみなさん。『世界きのこ大図鑑』いかがでしたか?注文をご希望の方はこちらの番号へファックスか電話でお申し込みください。番号にくれぐれもお間違えのないよう。なお、数に限りがございますので、できるかぎり早めの注文をおすすめいたします。

М:さあ、お時間です。今回の「KIN・ショッピングTV」いかがでしたか?

J:ショッピングを通じて、人々に金と奉仕の祝福がありますように!

M&J:それではみなさん、ごきげんよう、さようなら!

(観衆、満場の拍手)


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『世界のきのこ大図鑑』 ピーター・ロバーツ シェリー・エヴァンズ著 斉藤隆央 訳





イラストや縮小写真などで全体像をしめした上で、原寸大キノコを部分的に取り上げるなど、ページレイアウトに工夫がなされている。分布を表わす世界地図がわかりやすい。

ちなみに掲載キノコは分類順に並ぶ。新分類に対応。ただし、ベニタケ目がハラタケ目といっしょになっちゃってるなど、多少の違いはある。あと、たとえばハラタケ類の中での掲載順は、学名のアルファベット順になるので、日本のものとは順番が異なる。

テキストは、一番上に科・分布・発生地・発生環境・生え方・発生度・胞子の色・食毒の一覧表
次にキノコの大きさと、キノコの学名・英語名・あれば和名も(日本語名称のついていないキノコがたくさんある)。さらにメインの解説、類似種との見分け方、小さな文字での形態の解説、と続く。

形態の記述はあまり細かくないので、この図鑑だけでキノコを同定しようと思うとちょっと厳しい。大判のビジュアル系きのこカタログってのが、いちばん近い評価だと思う。



珍菌・キッタリアがある!

冬虫夏草のほか、地衣類まで載ってるのが珍しい。



カンゾウタケ:BEEFSTEAK FUNGUS(ビフテキ茸)
テングタケ:PANTHERCAP(豹の帽子)

などなど、英語名と、その命名理由を読むのがことに楽しい。その解説分はそこはかとないウィットとユーモアを感じさせるもので、このあたりはなにか、欧米に対する言い表せない劣等感を感じてしまったりする。

ニオイオオタマシメジ:FRAGRANT STRANGLER(かぐわしい絞殺者)はすごい名前だ。

あっ!誤植みっけ!  「発生度:まれによく発生する」(どっちやねん)

誤植探し楽しいかも(←まちがった楽しみ方)

和訳はこなれいるし、原文のテイストをうまく表現している(気がする)。ちなみに訳者の斉藤隆央氏は、あのゴルゴ13で有名な漫画家……とはなんの関係もない。