月刊 きのこ人

【ゲッカン・キノコビト】キノコ栽培しながらキノコ撮影を趣味とする、きのこ人のキノコな日常

『ハルシオン・ランチ』

2012-05-31 21:02:36 | キノコ本
ついでだから沙村さん続きで。

『ハルシオン・ランチ』全2巻

部下の持ち逃げにより会社が倒産、絶賛ホームレス中のアラフォー、元(げん)のもとに少女が姿を現す。ヒヨスと名乗るその娘は、食事に関してちょっとばかり常識が欠如していた。ヒヨスの予測不能な行動に振り回される元。しかし彼女には、地球の運命をも左右するほどの重大な秘密が隠されていた……

社会の底辺を生きる男たちに明日はあるのか?っていうか人間食うな!クソ真面目にバカやりまくる、シュールで投げやりなSFギャグ漫画。


まあこれも全然キノコ本じゃないんだけど、きのこネタが少しあるし、欠落を埋める物語、異質なものを媒介する人々の物語、っていう大枠では、キノコ的だと思うんよ。ああ、自分でも何言ってるかよくわからん……

それにしても、よくぞここまで趣味全開な作りにしてくれたもんだ。そこらじゅうにパロディとオマージュの嵐。小ネタも満載、しかもネタが古い!おそらく30代半ばから40代前半くらいの、多少なりともオタっ気のある人ならバカ受けするだろう。なんて狭いターゲット層なんだ……絵、うまいんだから普通にマンガ描いたらいいのに……普通に描いたらオレは読まないけどね!



きのこネタ。ドクヤマドリとは通なセレクションだけど、それヒダがイグチじゃないじゃん。

ぐほあ!腹が……腹があァ!!

『無限の住人』

2012-05-28 20:47:53 | キノコ本
ネタが尽きてきたので、ひさしぶりにキノコ本紹介。といっても今回はぜんぜんキノコ本じゃないけど。

沙村広明『無限の住人』。時代劇漫画なのだが、時代考証とか完全無視のめちゃくちゃなキャラクター造形と過激なアクションがウリ。第一話がいきなり教会ではじまったり、サングラスかけた奴が出てきたりと、かなりのはじけっぷりを見せ、まっとうな時代劇ファンならキレて当然なのだが、「主人公が不死身」っていう時点で、そんなことはもうどうでもよくなるのだよ。

主人公は両親の仇討ちを果たそうとする少女・凛と、彼女に用心棒として雇われた不死身のゴロツキ、万次。凛の父親が持つ道場を滅ぼした屈強な無頼剣士の集団・逸刀流に対し、たった二人で闘いを挑む。

まあストーリーはさておくとして、この万次さんというのがかなりおもしろい役回りで。

①葬式の垂れ幕のような白黒の服
②どう見ても縁起の悪い顔なのに背中には吉祥を意味する卍マーク
③百人を斬った極悪人でありながら心根は真っ直ぐで善良
④異形のゴロツキだが元は同心
⑤生死の境目の住人(殺されても死なない)

などなど、二律背反の性質をたくさん持っているのだ。それがなにかって?動物でもなければ植物でもない、生と死を媒介する、毒であり薬でもある、これら二律背反は我らがキノコの旗頭!つまり大いにキノコ的だということを暗示するのだ、ガハハハハハハ(テンションおかしい)

そもそもパンキッシュな時代劇って時点で十分キノコ的だと思うんだよね。エログロもちょっと入ってるし。



かろうじて一場面だけキノコが出てくる。逸刀流の幹部が宴会中に謀殺される場面で、動きを鈍らせるために食事に盛られていたという毒キノコ・ツキヨタケ。

調理後のツキヨタケを同定できるとは、すげーキノコ鑑定士になれるぞ!凶(まがつ)クン。

現在アフタヌーンで連載中。単行本は29巻まで刊行中。かなり読者を選ぶ漫画だが、画がうまいのは万人の認めるところ。




『きのこの話』

2012-04-14 18:26:33 | キノコ本
『きのこの話』  新井文彦

人気ウェブサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』(通称“ほぼ日”)において連載されているコンテンツ「きのこの話。」を元に誕生した、ちくまプリマー新書の一冊。

著者の新井さんは、きのこ写真家で、ライターかつコピーライターかつネイチャーガイド(どれが本業じゃ?)をしておられる方。北海道の阿寒をフィールドにして、美しいきのこ写真をたくさん撮っている、今いちばんホットなきのこ写真家だと思う。阿寒の森は、同じ日本とはとても思えないくらいに雄大だ。人里から遠く離れた奥深い森だからこその美しく豊かな自然は、もちろんキノコも豊富にもたらしてくれる。撮影をするには最高の環境だ、うらやましー!(寒くて不便なので住みたくはないが)

「ほぼ日」の連載では、キノコを毎回一種類ずつ、かんたんなエピソードやウンチクを添えながら、軽妙な語り口で紹介していく形式だったけど、本書ではその形を放棄して、まったく新しく文章を書き起こしている。ターゲットは、おそらく「ほぼ日」ではじめてキノコというものに興味を持った人たちなのだろう。キノコって何だろう?キノコの森はどんなふう?キノコにはどんなものがあるのか?など、そういったキノコ学序論みたいなものを、やさしい口調で語っていく。

連載をそのまままとめ上げただけでも、それなりの読み物になるところを、あえて新しく一冊の本に仕立て上げたところに、著者のキノコに対する意気込みと、読者に対する誠意が感じられる。

美しい写真ももちろん健在。望遠を生かして小さなキノコを可憐にとらえたもの、大きくひいて阿寒の幽玄な景色をバックに写しこんだもの、その他、キノコ以外の動植物も含め、さまざまな写真を文章の合い間合い間にたっぷりと楽しむことができる。構図は、観察に観察を重ねて、それぞれ最適なアングルを吟味したものだとの話。なるほど、キノコを含め、自然を愛していないとできないワザですなー、これは。

ただ、ちょっと残念なのは、多すぎる写真のために、読み物としての流れが途切れがちになってしまったことと、写真の美しさがフルに生かされていないこと。どちらも本の作り上、しかたない制約だ。

ここはもう新書なんてケチくさいことは言わずに、ハードカバーでデカくてガチッとしたものを上げてくださいよー。多少高くても買いますから。お願いしまーす。

アンコール!アンコール!

『マルコの夢』

2012-04-07 21:57:17 | キノコ本
『マルコの夢』 栗田有起

大学を出たものの、就職活動がちっともうまくいかない一馬のもとに、一本の電話がかかってくる。パリで食品の輸入代行をする姉からであった。彼は「誘いを断る理由がないから」という安易な流れでパリの姉のもとに行くことになり、これまた安易な流れで三ツ星レストランのキノコ担当という仕事に就かされてしまう。
レストランで働くこと二ヶ月。慣れない環境にまさに音をあげようとしていた一馬は、突然にも日本への出向命令を受けるのだった。
「レストランの目玉商品に使う幻の乾燥キノコ『マルコ』の在庫がない!いますぐ日本に行って買ってこい!」と。一馬は正式な名前すらわからないキノコを手に入れるため、日本へ飛ぶ……


第133回芥川賞候補にもなった、キノコ濃度がむやみに高い小説。

芥川賞に対しては個人的な偏見があって、妙に気取ってて嫌味とか、技巧に凝りすぎてて読みづらいとか、そういうイメージしかないんだけど、この作品に関してはそんなことはなくて、かなり読みやすい。その反面、賞をもらうには重厚さに欠けるなぁ、って感じもするけど。

三ツ星レストラン「ル・コント・ブルー」の、いちげんさんお断りメニュー「マルコ・ポーロの山隠れ」に使う、日本にしか産しない幻のキノコ・通称「マルコ」を求め、一馬君は西へ東へと振り回される……と思ったら、あれ?あんまり振り回されてないんでないの?という安直さで、真相へ。

≪以下、ネタばれ上等!≫
マルコはなんとお父さんが飼っていました。マルコはでかくて目立ちすぎるのでアパートの屋内で一階の天井ぶち抜いて飼われてました。お父さんや一馬君はなんとキノコ村の名誉ある称号「茸人(たけんど)」を頂いた名誉ある家系で、マルコのお守りをするよう運命づけられていたのでした……

とまあこんな感じ。話の要約が唐突すぎてワケわかんないって?そう思うなら自分で買って読みたまえー。


≪キノコなんですよ。すべてはキノコの計らいなのです。これまで何が起きたのか、今何をすべきか、これからどうなっていくのか、キノコは全部心得ています。われわれは皆、ひとつキノコの傘の下で生きています。あなたの家はどこですか。名古屋ですか。パリですか。東京ですか。いいえそれらのどこでもない、あるいはそれらすべてでもある。あなたの家はキノコです。あなたはそこから出かけ、そこへ帰ってゆくのです。一生をその傘に守られ、そして、逃げることはできません。≫


まあ一馬君はこのキノコの守り人にしかるべくしてなった、ということなんだな。これもキノコの導きというやつなのだな。……あれー、なんかこれどっかで聞いた話だよなー。それともデジャビュってやつかなー。




イラスト図鑑・考

2012-04-02 21:00:27 | キノコ本
図鑑には写真図鑑とイラスト図鑑がある。現在は撮影機材や印刷技術の進歩もあって、写真図鑑が主流だ。写真は実物そのものを写すだけに、客観的で間違いがない。しかも撮影は素早いので、それが動物なら活動している場面を撮ることができる。手描きだとそうはいかない。まず絵が下手だと描けないし、正確に描ける保証もない。時間もかかるし、動き回ってる動物を描くなどは至難のワザだ。

正確じゃない、手間がかかる、難しい……それでも私は、イラスト図鑑のほうをお勧めしたい。

私は子供のころ、図鑑ばかり眺めていた。『昆虫』『鳥』『貝と水の生物』『大むかしの動物』……生き物が大好きだった。絵本は読まなかった。漫画も読まなかった。ただ図鑑だけを見ていた。

なんでそんなに図鑑ばっかり見ていられたのか、理由は私にもわからない。でも、間違いなく言えるのは、子どもの私にとって、図鑑はただの道具じゃなくて、大事な読み物だったということだ。それは図鑑であるのはもちろんのこと、ストーリーを自由に作れる絵本でもあり、脳内対戦シミュレーションのできるゲーム盤でもあり、未知や不思議を空想で埋め合わせる、おもちゃ箱でもあった。実は書いてあることの意味がぜんぜん分かっていなかったのだけど、それでも全然かまわなかった。生き物の絵と名前さえあれば充分、あとはどう読んだって自由。もうそれだけで楽しかった。

図鑑を道具として使うのであれば、それは正確なほどよい。でも私は図鑑を読み物として扱ってあげたい。読み物は、正確な情報なんかよりもっと大事なものを教えてくれるから。

いい読み物ってなんだろうかというと、それは想像力をたくさんはたらかせてくれる本だと思う。図鑑にそんな本あるだろうか。ここで出てくるのがイラスト図鑑だ。

手描きの図版は実物そのものではない。それを描いた人というフィルターを通した、悪く言えば劣化コピーだ。でも、この劣化コピーと実物を見たとき、人はこれを見比べることで、二つの視点を得ることができる。この時、見たことのない別の生き物を、図版から想像することができるようになる。図鑑が読み物になる瞬間だ。

本当に「客観的にものを見る」っていうのは、こういうところから始まるんじゃなかろうか。正確で客観的な図鑑からは正確な情報しか得られない。でも、不正確で主観的な図鑑からは、多面的なものの見方、想像力のはたらかせ方、それに、もっとたくさんのことを学ぶことができる。私がイラスト図鑑をお勧めする理由、わかっていただけましたでしょーか?

なーんてね。まあとにかく生き物の絵が好きなんです。そんだけ。



せっかくだから手持ちのイラストきのこ図鑑の絵を比べてみた。ひび割れがチャームポイントの大型きのこ・アカヤマドリをピックアップ。最初は北隆館『原色きのこ図鑑』。図版によっては海洋生物か宇宙生物にしか見えないものがあるけど(想像力超アップ)、アカヤマドリに関しちゃ普通。



きのこ図鑑の王様、保育社の『原色日本新菌類図鑑』。本郷次雄氏のキノコ図版は逸品ぞろいだけど、アカヤマドリに関してはスペースの折り合いがつかなかったのか、若い菌しか載せていないのが残念。



池田良幸『北陸のきのこ図鑑』から。色彩は控え目、美しく描こうという下心を見せないストイックな姿勢にはむしろ好感が持てる。



高山栄『おいしいキノコと毒キノコ』より。見ようによっては工業製品のようにも見えるカチコチとした筆致が魅力的。几帳面、かつ一徹な人なんだろうか、とか(想像力フル回転)



松川仁『キノコの本』。この人の絵、ちょっと素人っぽいんだけど、個人的に好き。手抜きで描いたように見えるキノコもあるけど、それでもそのキノコの特徴をきっちり押さえている。



図鑑じゃないけど渡辺隆次『花づくし実づくし』から。武田神社の天井画に使われているデザインなので丸いけど、さすがプロの画家さん。和風テイストがたまらん。



小林路子『森のきのこ』。プロの絵描きさんの絵本図鑑とあって、そこいらの図版とはレベルが違う。



アカヤマドリの写真。この写真のように柄や傘の裏がうまく写ってないものがあり、調べるのに困る。実用的な面でも写真図鑑が勝るとは限らない。


『コンパクト版6 原色きのこ図鑑』

2012-03-30 00:10:13 | キノコ本
『コンパクト版6 原色きのこ図鑑』 印東弘玄 成田傳蔵 監修

お、旦那さん、その図鑑が気になるってんですかい?こりゃまたお目が高い。ええ、じっくりとご覧になってくだせぇ。

掲載種数800以上はキノコ図鑑の中でもトップクラス、しかもコンパクトで持ち運び可能、と、こう来りゃメインにすえて使っても良さそうな図鑑なんでやすが、少々難点がございやして……。

1986年発行のこの本の内容はちょいと古い。いまだによくわかっちゃいない菌類のこと、年々新事実が発見されるような状態でありやして……へぇ。まあそこんとこ、勘弁してくだせぇ。

もう一つ、キノコの並び方が普通と違うんでさ。ほら、ページめくるといきなりテングタケ科。普通はヒラタケ科ヌメリガサ科キシメジ科と来て、次にテングタケ科が来るんでやすが……え? 大して違わないじゃないかって? いやいや旦那さん、あっしらのようにキノコ図鑑をくびっぴきで眺めるようになると、なんですかね、英和辞典をA・B・C…と調べるのと同じように、キノコ図鑑を調べられるようになるんでさ。マツタケはシメジの次のこのあたり……ってな具合にね。それが、C・A・B・D…なんて具合になってたら、旦那は辞書引く時に困るでしょ。それと同じなんでさ。ま、普通の人が使うんなら、どうってことはないんですがね。

え? キノコの図版が全部イラストじゃないかって? さすが旦那さん、鋭いとこを突く。なに、写真図鑑は値が張る上にかさばっていけねえ。手描きのイラストだって逆に写真より調べやすいことがあるって言うし、気にするこたァありませんや。この図鑑のイラストはそっちの「原色日本新菌類図鑑」のに比べると少々見劣りがするんで、それをどうこう言うお客さんもいらっしゃるんですが、ありゃあ、あっちが良すぎるんです、他の図鑑と比べるのは気の毒ってもんで。旦那さんも分かってくだせぇ、いつどこで生えるかもわからない800のキノコのスケッチをするその苦労を。

いかがですか。こっちにゃ他で載ってないキノコだってたくさんあるし、巻末にくっついている「きのこ概説」は力作、ついでのおまけに読みやすい。えぇ、あっしの名にかけてもいい、旦那に損はさせませんよ……。


……図鑑出版の老舗、北隆館から1986年に刊行されたイラストきのこ図鑑。きのこ写真家・井沢正名を中心とした後発のカラー写真図鑑の質があまりに良かったために陰に隠れてしまったけど、掲載種数800で携帯可能というのはかなりの労作、もっと評価していいように思う。各キノコの記述がちょっと物足りないのと、イラストの出来不出来に多少バラつきがあるのが難点だけど、定価5000円弱を払うだけの価値はある。



これ裏表紙。どっちが表かちょっと考えてしまう。キノコの彩色がちょっと派手すぎるのは気のせい……じゃないよな。モエギタケそんな真緑じゃないって。もしかして「原色図鑑」ってそういう意味なわけ?



図版はおそらく複数人数で描いていて、テイストにかなりバラつきがみられる。そんでもイラスト図鑑ってのが個人的に大好きなので、評価甘めになっちゃうんだけどね。見るの楽しー。



このへんのキノコ図版……子供のころの愛読書だった旺文社の『貝と水の生物』を思い出す。キノコの形もそうなんだけど、画が大味なあたりとか特に。



巻末の『きのこ概説』をはじめとした文が50ページほどあって、これがかなりリキが入っている。簡単なキノコ料理レシピまで。食べ方まで指導してくれる図鑑ってすごいよな。っていうかやり過ぎじゃ?


コレクター的には◎だが、実用性はかなりあやしい、というのはここだけの秘密。「これどう見ても違うだろ」ってのがかなり混じってる。ミダレアミイグチが緑色なのには笑った。

『街で見つける山の幸図鑑』

2012-03-24 12:54:12 | キノコ本
『街で見つける山の幸図鑑』  井口潔

都会でも天然の食材が手に入る!なんて心踊ったりするのは私だけだろうか。山菜だとどこ探しに行ったらいいかわからない上に、遠くまで出かけても採れる保証がなかったりする。でもこの本で扱っているものは、街中でも探せばけっこう手に入るものばかり。しかもライバル不在で採り放題。もちろんタダで手に入るだけに、味は万人向けとは言い難いけれども、間違いなく新鮮でしかも旬、目新しさにくわえ、自分で採ってきたという実感がいいスパイスになって、意外とあなどれない味なのだな、これが。

『街で見つける山の幸図鑑』、著者はきのこ人として名が通っていて、いくつかのキノコ著作もある井口潔氏。

ボリュームたっぷりの本で、A5サイズに300ページもあってずっしりと重い。この本でとり上げるのはキノコ・野草・樹木からそれぞれ約30種類ずつ。その特徴から採取時期、場所、利用方法まで、ちょっとしたエピソードもくわえてたっぷりと紹介してくれるのがありがたいところ。しかもそのほとんどが身近でありふれた種類であるうえ、特徴が多くて判別しやすい種類を優先しているあたりもgood。さらにその利用法は、食べるばかりでなく果実酒やジャム、薬草、草木染めにまでおよんでいる。

巻頭にカラー写真ページがあるなど、情報がたっぷり詰まっているので定価2400円は妥当価格。装丁デザインは見て見ぬフリをするとして、内容の本気度は並大抵のものではない。


≪飼育しているダンゴムシにケヤキの落ち葉を与えてみると、餓死ぎりぎりになって、やっとしぶしぶかじり始めるというありさまである。葉は細かいガラス状の結晶を含んでおり、これが口に合わないということらしい。ちなみに、飢え死にしても食べなかったのはクスノキとイチョウの葉であった。≫

井口さん。あなたすごーくヒマ人でしょ。



えー、カレエダタケ食うのー?

『キノコ・ワールド最前線』

2012-03-16 12:36:08 | キノコ本
『キノコ・ワールド最前線』 山中勝次


キノコは動物でも植物でもないとか、キノコの含有成分は有用であるとか、そういう細かいことはさておき、フツーの人々にとってのキノコとは、圧倒的に食べ物である。

マツタケ!(8年間食ってない)

トリュフ!(見たことすらない)

ポルチーニ!(なんだそりゃ)

見せましょうじゃありませんか高級キノコの裏舞台。なかにはニセモノ騒動やら産地詐称なんてスキャンダラスな話題もありまして、なにやら楽しみじゃありませんか。

そして、本書のもう一つの目玉が、名づけて「キノコビジネス『仁義なき闘い』」。栽培キノコ大手二社のエリンギマイタケブナシメジをかけた闘いだ。のんきなシーエムソング流しといて、裏ではライバルとビンタの応酬! ああ楽しい。本当はこのまきぞえを食って討ち死にするのは日本各地の小規模キノコ農家なんだろうけど、もうおかまいなしだね。

純真無垢に見えるキノコたちも人間サマの手にかかりゃ一転、金のなる木。アガリクスだかメシマコブだかマジック・キノコだか知らねぇが、今日もキノコ鍋と行こうじゃありませんか、ねえ、奥さん。

あ、シイタケは国産ね。


……以上、昔書いた一般向けレビューの流用。妙にテンション高いが、これはこれで簡潔に完結してるので形を崩せない。ってことで、そんまま載せてみた。

『キノコ・ワールド最前線』……商業的食用キノコの裏話を中心とした異色のキノコ本。キノコスキーな人はともかく、きのこの生産・販売に関わる人ならば是非とも読んでおきたい内容だ。

○「刷り込み」によって決まる好き嫌い
……地域によってキノコの好みが違う
○世界三大キノコ・ブランドの威力とからくり
……マツタケ・トリュフ・ポルチーニの国境を超えた産地秘話
○繰り返される、「贋マツタケ」騒動
……人工栽培マツタケ詐称事件
○マツ林にはない中国西部のマツタケ
……常緑広葉樹林に生えるという中国マツタケの産地ルポ
○キノコとはなにか、意外にむずかしいその答え
……キノコってどんな生き物?
○摩訶不思議な知られざる生態
……奇妙な生態のキノコたち、冬虫夏草など
○味・旨みを確かめられるおいしい、おいしい食べ方
……キノコのおいしさを引き出すためには
○キノコ好きの調理法
……各キノコの具体的調理法
○美容と健康におよぼす多くの機能
……健康食品としてのキノコとその実際
○ついに「仁義なき戦い」に突入した巨大生産ビジネス
……大企業のキノコビジネス闘争

以上、概要ナリ。キノコ読物トシテ価値高シ。




『きのこ組の本』

2012-03-10 12:41:28 | キノコ本
『きのこ組の本』 すずきさちこ

きのこっのっこ~のこげんきのこ えりん~ぎまいたけぶなしめじ♪のCMソングできのこメーカー「ホクト」の名を全国に知らしめることになったマスコットキャラ「きのこ組」が、とうとう漫画になっちゃった!という、変形メディアミックス、もとい便乗商売的な本。

漫画は若年層、特に女性向けで、四コマ、ないし五コマ。ときおりイラストや写真などを挿入させつつ、キャラクターの個性を重視した……

ああもう面倒くさい。ウン、この際だからはっきり言おう。

この本、中身スッカスカ

そこそこかわいきゃそれでいいと思ってる!キノコへの愛情がまったく感じられん!個人的にそーいうのは許せん!

そもそもがキノコ的になっちゃおらんのよ。ご当地キャラとかイメージガールとか、性質上、あたりさわりないよーにするのが定石だっていうのはわかるんだけど。キノコは植物でもあり動物でもある存在。ときに薬として、ときに毒として「生」も「死」も招く存在。さらに言えば「正邪」「聖俗」ごたまぜな存在であるわけなのよ。

そいつらが全員仲良し一色でどーするよ!ぜんぜん混ざんないじゃん!卵の入ってない卵かけご飯じゃん!いくら混ぜてもただのご飯じゃん!

……はあはあ。ゴメン、ちょっと取り乱してしまった。今のは聞かなかったことにしてくれ。ああでもマイタケ・エリンギ組とホクト・ブナピ組が対立して、中立のブナシメジがあいだをかきまわす的な愛憎ドロドロストーリーだったら良かったのになって(そりゃムリだろ)。

それにしてもこの本、やけに高いなー(1300円)と思ってたら、届いて納得、製本が良すぎる。なにやら余裕らしきものが感じられてちょっと嫌味だ。あとブナシメジちゃんはどう見ても男の子にしか見えん。無理やり女性比率上げようとしてないか?それとホクト君は黄緑色をしているが、カビでも生えたのか。


注:この書評は客観的かつ公平な見地にもとづいており、ライバル企業を誹謗・中傷および嫉妬・羨望するものでは多分ありません。


『東京きのこ!』

2012-03-07 22:08:51 | キノコ本
『東京きのこ!』 西野剛

『都会のキノコ図鑑』の前に東京ローカルのキノコ図鑑が存在していた!知らんかったぞな。

1993年発行、タイトルは『東京きのこ!』。お尻にくっついてる「!」マークは、愛嬌ってやつかな?ウン。

職業カメラマン歴を持つ著者なので、写真の腕はいい。当時はまだフィルムカメラの時代だったから、特にキノコのような撮りづらい被写体を狙うには、装備と技術が必要だったはずだ。今じゃ性能のいいデジカメが安価でゴロゴロしてるので、数撃ちゃ当たる式でいって、あとは画像処理でも使えば、私みたいなシロートでもそこそこやれるようになったけど。

ただ、自費出版の本らしく、装丁を含めて、本そのものの作りが安っぽく見えるのは致し方ないところか。定価1900円も100ページちょいの本としては高め。
掲載種数は170種、これもまた制約上、物足りないのは仕方がないが、一番惜しいのは記述の量が少なすぎる点だ。一種のキノコに対して多くて100字程度。図鑑としての実用性は多くをのぞめない。なにゆえ東京なのか、という著者のこだわりがうかがえるような文章がまったくないのも残念。せめてあとがきは欲しかった。



図鑑という道を捨てて、もっと写真点数をしぼってキノコ鑑賞専用にするという道もあったと思う。自費出版のわりには頑張って作ってあるので、見て楽しむ分にはOK。ちなみに、キノコの形ごとに分類してあるのが我流って感じがしておもしろい。ついでに言っとくと種類の同定がちょっとあやしい。

『gdgd妖精s』

2012-03-01 01:13:51 | キノコ本
『gdgd妖精s(ぐだぐだフェアリーズ)』 アニメーション

今、巷で話題沸騰中のキノコアニメ……ではない。ぜんぜんない。

宣伝なし、スポンサーなし、こんなもんよくテレビ放映できたなっていうレベルのセコい作りをした低予算CGアニメ。

ストーリーなんてものはナシ。三頭身がかわいい三匹の妖精「ピクピク」「シルシル」「コロコロ」が喋ったり遊んだりするっていうそんだけ。どっかのデザイン学校の学生が夏休みの課題で作ってきたような安っぽいCGでつくってあるんだけど、そのへんに無料でころがってそうなCG素材をあえて多用してるあたり、ほとんど確信犯的。声優たった3人!スタッフロールが1画面に収まる!いわく「業界もびっくりの低予算」。それを反映してDVDが一枚1600円というのは偉い。

このアニメのすごいところは本当に「ぐだぐだ」に作ってあるとこ。マジメに作ってたけど最終的に息切れしてぐだぐだになっちゃうことはよくあるけど、第一話のしょっぱなから妖精たちが全力で「ぐだぐだ」な会話を始めるので、こちらはもう脱力・お手上げ・再起不能になるしかない。そこへもってシュールかつ意味不明なネタをねじ込んでくるので、観ているとけっこうダメージがデカい。ごめんなさい、実はけっこオモシロいっす。

一話は15分で、基本的に三部構成。
3匹がただひたすらくだらない会話をする「gdgdティータイム」
3匹が魔法を使ってくだらない遊びをする「メンタルとタイムのルーム」
3匹が音声なしのくだらないCG映像に無理やりセリフをつける「アフレ湖」

どれもまあヒドいが、「メンタルとタイムのルーム」では「飼いたくない動物しりとり」「バンジー・パン食い競争」などでマトリックスも登校拒否になりそうな投げやりなCGが楽しめるし、「アフレ湖」では、声優が本当に脚本なしのアドリブでやっている(おいおい)その微妙な空気感が楽しめる。

キノコ的には妖精「コロコロ」がキノコ帽子にキノコワンピで登場。彼女は無口なのだが、たまに喋ったと思ったら、とんでもなくブラックな話や意味不明な妄想を口走る。まあこんだけならなんともないんだけど、彼女の魔法のステッキがなんとエノキタケ(5本)!

これがかなりカワイイ。



ちなみにブルーレイディスクの初週売上げで最新ガンダム(不人気)に勝利したそうだ。メジャー昇格の日は近い?

公式サイト

『キノコ おいしい50選』

2012-02-27 12:34:32 | キノコ本
『キノコ おいしい50選』 戸門秀雄

秋の風物詩、キノコ狩り。そのすそ野の広さを考えれば、もうちょっとたくさんガイドブックのようなものが出ていそうなものだが、これが意外と少ない。それもそのはず、キノコ採りにとって仲間を増やすことはすなわちライバルを増やすことに他ならないからだ。

ただ、そんな中でいきいきとした文章でキノコ狩りの雰囲気を伝える本がある。戸門秀雄 著『キノコ おいしい50選』。

著者は山菜や渓流魚の料理店を経営する、いわば職業的キノコ採り。長年の経験や多くのキノコ採りたちとのエピソードを題材に、野生キノコの中でも特においしい50種をカラー写真で紹介する。

ただの情報の寄せ集めに過ぎない並の図鑑と違って、すべて実体験にもとづくこの本のつくりは、なにやら血がかよっているように感じられ心地よい。両手にマイタケを抱えて得意げなおじさんの顔、孫を連れてナラタケを採るおばあさんの笑顔の写真などは、見ているこちらまで頬が緩む。地下たびと背負いかごのキノコ狩りルックでポーズをキメるおねーさんは、さすがに不自然すぎて私も吹きだしてしまったが、やっぱり人のぬくもりがあるというのは、いい。

文章もなかなかどうして、名文である。著者はよほどキノコ採りが好きなのだろう。ライバルを増やすという自殺行為をしてでもその楽しさを伝えたいと思うほどなのだから、文章を通してこちらにまでその喜びが伝わってくる。特に「ナメコ」や「チチタケ」「マツタケ」の項などは楽しさばかりでなく、哀愁までただよわせるみごとな出来だ。

まあ私などはキノコ狩り好適地から遠く離れたところに住んでいるうえに、撮る方がメインで採る技術がないのだから、ただもう指をくわえてうらやましがる他ない。「採る」「食べる」という、伝統あるキノコ本来の喜びを、文章を読むことでおすそ分けしてもらうってことで満足しておこう。

写真は2004年発行の新装版。2007年にこの本の増補版が発行されているらしい。同一著者による姉妹品、山菜・木の実の本もあるようだ。

『きのこ文学大全』

2012-02-24 05:00:37 | キノコ本
『きのこ文学大全』 飯沢耕太郎

きのこの好事家・飯沢氏が『世界のキノコ切手』に続き送り出した一冊。見た目は地味だけど中身がえらいことになっている。
 
小説やエッセイはもちろん、俳句、演劇、漫画から映画、音楽に至るまで古今東西いたる所からかき集めてきたキノコをあつかった作品の目録。著者の本業は写真家のはずなのだが、この入れ込みようは道楽と言うレベルをはるかに超えていて、副業でもお釣りが来そう。きのこ文学研究家の肩書きはダテではないようだ。新書なのに300ページもあるし。
 
ペラペラとページをめくっていると、最初は「あっ、こんなものが」「これ知ってる」などと目を止めながら楽しめるのだが、もう少し眺めていると、そのあまりのごちゃ混ぜ具合にクラクラしてくる。なんといってもこの本、100を超える作品(あるいは人、モノ)が、あいうえお順に並んでいるのだ。「ヒョウタンツギ」(手塚治虫)の次にファーブルが来たり、チャイコフスキーの次につげ義春が来たりでは、頭がおかしくなるのも無理はない。

以下引用

≪うまかったのか、うまくなかったのか。彼の心は、奇妙になげやりだった。もうひとかけら食べてみようと思った。じつのところ、まずくはなかった――うまいくらいだった。彼はさしあたりの興味にひかれて自分のなやみも忘れてしまった。これはまさに、死とたわむれることだった。もうひとかけら食べてから、ゆっくり口いっぱいたいらげた。手足の先が、奇妙にうずくような感じになってきた。脈がそれまでより速く打ちはじめた。耳の中で、血が水車溝のようなひびきをたてた。「もうひと口やってみろ」とクームズ氏はいった。≫……ウェルズの『赤むらさきのキノコ』より
  
あいうえお順で紹介される作品や作家たちには、小説や漫画といった分野の違いはもちろん、古い物新しい物、洋の東西、有名無名、老若男女、すべてのカベがとっぱらわれてしまっている。そんな本をデタラメにめくりながら読んでいると、まるでキノコの森に迷い込んだ挙げ句、毒きのこに当てられて、右も左もわからずフラフラ歩きまわってるような錯覚にとらわれる。飯沢氏のいう『キノコの中間性』とは、多分こういうもののことを指すんだろう。

人生に絶望して赤むらさきのキノコをほうばってしまったクームズ氏のように、足をもつらせながら、きのこ文学の森にさ迷いこむのも、まんざら悪くない。 


……キノコ本の書評を書くなど、屁の役にも立たないのになんでするんだろう、などと思いながら続けていた私は、この本の出現に勇気づけられた。でもそれと同時にショッキングでもあった。「こんなんアリなんか?」
でもよくよく考えてみれば、「書評」って他人の作品をけなしたり褒めたり、そういうところが寄生的な形態だ。キノコっぽい。そして、一本の倒木からいろんな種類のキノコが生えるように、自分というフィルターを通して表現されるそれは、たとえ同じ本の書評でも他の人が書いたものとはまったく別物、唯一無二のものだ。創作であって、創作でない。私はそういう「書評」という形を気に入っている。

それにしても、飯沢さんの境地には死ぬまで達しそうにない。「本屋でキノコ狩り」か……そういう発想なかったな。今度やってみよう。

『持ち歩き図鑑 おいしいきのこ 毒きのこ』

2012-02-21 19:59:48 | キノコ本
『持ち歩き図鑑 おいしいきのこ 毒きのこ』 写真 大作晃一 文 吹春俊光 吹春公子 

2007年発行の『持ち歩き図鑑 きのこ・毒きのこ』の後継にあたり、2010年発行の『主婦の友ベストBOOKS おいしいきのこ 毒きのこ』(以降、ベスト版と呼ぶ)の姉妹品でもあるポケットサイズの小型ハンディ図鑑。

『ベスト版』のような原寸大はどうしたって無理だけど、この図鑑も白バック写真を軸に生態写真を組み合わせての美しい仕上がり。このサイズに収めきるの結構つらいんでないの?というのが、表紙を見た時の第一印象だったけど、ポケットに入るよう縦に細長い仕様になっている図鑑のかたちと、概して縦に長いキノコとがうまくマッチングして、そんなにきゅうきゅうとした感じはしない。

もうひとつのポイントは掲載種数。驚くことに、本書の275種というのは、倍以上の大きさの『ベスト版』の200種を大きく上回っている。前任の『持ち歩き図鑑 きのこ・毒きのこ』でも300種オーバーと、掲載種数へのこだわりが感じられたが、今回はキノコ狩りの対象となりやすい柔らかいキノコに的を絞っての275種なので、価値が高い。



この図鑑の最大の売りはやはり写真の美しさなのだけれども、白バック写真を活かすためには、やっぱり余白がきれいじゃないといけない。そのためには文字(テキスト)がジャマになる。でも文字がなきゃ情報が得られない。
ということで、この図鑑では、写真ページで簡単な特徴を記したうえで、巻末にまとめて各キノコの詳しい情報が調べられるようになっている。その量はトータルで50ページほど。かなり字が細かく、ちょっと読むのがつらいけど、可能な限り簡潔にまとめられた文章はよく要点を押さえている。

ちなみに『ベスト版』では「おいしいきのこ」と「注意したい毒きのこ」の2部構成になっていたけど、どちらだかわからないキノコを調べるには不便なので、今回はそれはナシにしたようだ。

写真は基本的に『ベスト版』の使いまわしプラスαなので、『ベスト版ちっちゃいバージョン』程度の認識だったけど、実用度見たら全然別モンぢゃないか……どちらか買えと言われたらかなり悩む。ということで

両方買っちまったぜ!(←キノコ図鑑中毒)

追伸。著者の大作さんのフィールドは富士山から東北までの関東一円なので、東日本の人に特におススメです。

『グリーンブックス33 キノコ』

2012-02-18 12:46:09 | キノコ本
『グリーンブックス33 キノコ』 矢萩信夫

『魚の剥製の作り方』『オオムラサキの繁殖法』『土壌動物の観察と調査』などなど、100を超える豊富なバリエーションと、そのあまりに渋すぎるラインナップで、自然科学好きで多少マニアな青少年たちの心をわしづかみ、その燃えさかる向学心を40年も前からバックアップし続けてきたであろう、ニューサイエンス社グリーンブックスシリーズ。そのエントリーナンバー33番、『キノコ』。

初版発行は1977年。美しいイラストやカラー写真がたっぷり入った読みやすい本がいくらでも手に入る現在とは違い、写真はモノクロ、イラストは垢ぬけない手描き、文章も先生然とした飾り気のないもの、そういうのが当たり前の時代だ。そしてこの本もその例にもれない。

それでも、ああそれでも。

こんな見栄えのしない本に心くすぐられてしまうのは私だけだろうか。
昆虫少年が学校から帰ってくるなりカバンを放り投げてタモ網と虫カゴを持って出かけるみたいに、キノコ少年はもう理由なんかを考えるヒマもなくキノコを探しに出かける。そんなときに必要なのは、分厚くて豪華な図鑑でもない、正確でスマートな教科書でもない、ただ、でっかな「好奇心」だけなんじゃなかろうか。

本は、そんな子供たちの背中をちょっと押すだけのものでいい、不十分でもいいから、不正確でもいいから。

なんか、漠然とそう思うんだよね。そうすると、このグリーンブックスほど似つかわしいものは他にないんじゃないかと思えてしまう。もし私がもう少し早く生まれていたならば、少ない小遣いから750円をやりくりしてこの本を買い、胸を高鳴らせながら最初のページを開いていたかもしれない。今はなんでもあるから、そういう気持ちって忘れがちだけど、とても大事だと思う。




さて、この本の内容だけど、やはり現在の水準から見れば、作りが粗末で情報も古く、使えるものではない。きのこのイラストなんかは著者自身が描いたのだろう、その手作り感があふれすぎる中身は、情報源という点でかなり心もとない。それでも標本の作り方が記してあるあたりは、面目躍如かな。巻頭にカラー写真が2枚だけ入ってる。

ページ数は100ちょいだけど、その半分以上をキノコ60種の紹介に当てている。もっと総論が多くても良かったと思うけど、すごく一生懸命書いてるのが分かるから、これでいいことにしとこう。

当時としては貴重なキノコ本だ。

ちなみにグリーンブックス51に『冬虫夏草』がある。やっぱ渋い……。