『きのこの語源・方言事典』 奥沢康正 奥沢正紀 著
≪よえもん(与右衛門) 人名。「昔時与右衛門なる者 是を食べて死、故に名づく、今に土人 是を恐れて採り食わず」栗本丹州著『仙台蕈譜』より。よえもんたけ(ツキヨタケの古語)≫
だいたいがキノコを扱ってること自体マイナーであるのに、その方言や語源を一冊の事典にまとめてしまおうなどと考えるのは、どこの酔狂か。労多くしてなんとやら、ほとんど奇書の部類に入ると思うが、なんのなんの、新書サイズながらも全607ページ、堂々の大作である。
キノコには方言がとても多い。もともとが山間地のものである上、生活必需品というほどのものではなかったために、統一名称が浸透しにくかったという面があるのかもしれない。そもそも、利用されているキノコの種類自体に地域差が大きかったようだ。「ある地域ではキノコは二種類にしか分類されていなかった……マツタケと、それ以外全部(クソタケ)だ」という笑い話もある。
なんにせよ、そんな多様な方言は、逆に言えば、ごく狭い地域でしか知られないのをそのままに、今すぐにでも消えてしまおうという、こころもとない存在でもある。現に今ではまったく使われなくなった呼び名は数知れず、せめて跡形なく消える前に記録にだけはとどめておこう、というのも、先祖の生活の断片を拾っていく貴重な作業のひとつになるのではないかと思う。
本書はキノコの標準和名や方言に使われている言葉の由来をあいうえお順に解説する「語源編」と、標準和名から方言を、方言から標準和名を調べられる「方言編」に、キノコの形態に関する専門用語を調べるための「きのこ用語図譜」と、キノコの名前に関する雑学集「きのこ和名のアラカルト」(これが特におもしろい)を加えた構成。
たとえば「方言編」で、「ナラタケ」をひいてみると、『あしなが、あまだれ、あまだれごけ:新潟……』と続き、なんと177種類もの呼び名が並んでいる。
三重で「スドーシ」と呼んでいるキノコが何だろうかとページを繰ってみると、愛知県をはじめとした各地で「アミタケ」のことを指しているとわかる。
「オニフスベ」の方言を調べて「ぼーさんのあたま」「きつねのへだま」「ちんぷくりん」に思わず笑ってしまう。
実用性はともかくとして、読み物としても意外に楽しいという価値ある一冊だ。
≪よえもん(与右衛門) 人名。「昔時与右衛門なる者 是を食べて死、故に名づく、今に土人 是を恐れて採り食わず」栗本丹州著『仙台蕈譜』より。よえもんたけ(ツキヨタケの古語)≫
だいたいがキノコを扱ってること自体マイナーであるのに、その方言や語源を一冊の事典にまとめてしまおうなどと考えるのは、どこの酔狂か。労多くしてなんとやら、ほとんど奇書の部類に入ると思うが、なんのなんの、新書サイズながらも全607ページ、堂々の大作である。
キノコには方言がとても多い。もともとが山間地のものである上、生活必需品というほどのものではなかったために、統一名称が浸透しにくかったという面があるのかもしれない。そもそも、利用されているキノコの種類自体に地域差が大きかったようだ。「ある地域ではキノコは二種類にしか分類されていなかった……マツタケと、それ以外全部(クソタケ)だ」という笑い話もある。
なんにせよ、そんな多様な方言は、逆に言えば、ごく狭い地域でしか知られないのをそのままに、今すぐにでも消えてしまおうという、こころもとない存在でもある。現に今ではまったく使われなくなった呼び名は数知れず、せめて跡形なく消える前に記録にだけはとどめておこう、というのも、先祖の生活の断片を拾っていく貴重な作業のひとつになるのではないかと思う。
本書はキノコの標準和名や方言に使われている言葉の由来をあいうえお順に解説する「語源編」と、標準和名から方言を、方言から標準和名を調べられる「方言編」に、キノコの形態に関する専門用語を調べるための「きのこ用語図譜」と、キノコの名前に関する雑学集「きのこ和名のアラカルト」(これが特におもしろい)を加えた構成。
たとえば「方言編」で、「ナラタケ」をひいてみると、『あしなが、あまだれ、あまだれごけ:新潟……』と続き、なんと177種類もの呼び名が並んでいる。
三重で「スドーシ」と呼んでいるキノコが何だろうかとページを繰ってみると、愛知県をはじめとした各地で「アミタケ」のことを指しているとわかる。
「オニフスベ」の方言を調べて「ぼーさんのあたま」「きつねのへだま」「ちんぷくりん」に思わず笑ってしまう。
実用性はともかくとして、読み物としても意外に楽しいという価値ある一冊だ。