月刊 きのこ人

【ゲッカン・キノコビト】キノコ栽培しながらキノコ撮影を趣味とする、きのこ人のキノコな日常

キノコ界に衝撃!「バカマツタケの完全人工栽培に成功」を検証する

2018-10-11 07:01:07 | キノコ栽培
先日、多木化学株式会社が企業広報で衝撃的な発表をした。

『バカマツタケの完全人工栽培に成功 』

バカマツタケはマツタケに近縁のキノコである。松茸とは発生時期がずれていること、松じゃなくて広葉樹の下に生えることから「おかしなマツタケ」「ちょっと狂ったマツタケ」とされて、いつしか『バカマツタケ』などという残念な名前をつけられてしまったが、香りは本家マツタケをしのぐとも言われている。最近はマツタケの姿を見つけるのが難しくなったが、バカマツタケも珍しいキノコであり、私もまだ見たことがない。

そのバカマツタケの完全人工栽培に成功したというのである。

ここで注目すべきポイントをいくつかあげよう。
①バカマツタケは菌根菌である
バカマツタケは菌根菌、生きた木の根にとりついて樹木を助けつつ栄養をもらうキノコである。菌根菌はデリケートで栽培が非常に難しい。まずキノコを作るどころか、シャーレで菌糸を培養する段階からうまくいかないことも多く、かつて菌根菌の完全人工栽培は不可能とすら言われていた。
実際これまでも、無菌で育てた樹木の苗木に菌根菌を植えつけて植樹するタイプの不完全な人工栽培にはたくさんの前例があるものの、今回のように完全に人工的環境で育てたという例は非常に少ない。特にマツタケ近縁種としては初めてで、これは定説をくつがえす画期的な発見だ。

②バカマツタケの子実体(キノコ)を発生させるシグナルを発見した
マツタケは過去数十年にわたり栽培が試みられてきたが、ほとんどうまくいかなかった。栽培がうまくいかない最も大きな原因は「菌糸が培養できたのにキノコを作れない」ことにある。

ふつうの栽培キノコ(腐朽菌)は、ある程度の湿度や光の条件を満たしたえうえで〇〇℃を下回るとキノコが発生する、などといった簡単な条件でキノコを作るのに対し、マツタケはそんな簡単にはキノコを作ってくれない。
おそらく、温度・湿度などの条件にくわえて微量な化学物質が発生の引き金であったりするんだろうが、まだよくわかっていない。

しかし、今回のバカマツタケ報告ではそのシグナルを見つけたらしいことが書かれている。これまでに発生した数が14本ということで、まだ不完全かもしれないが、大きな壁を突破できたのは間違いない。

③菌糸の培養スピードが早い
マツタケ栽培の大きな障壁となっていたのがもうひとつある。菌糸の培養スピードが非常に遅いことである。
培養のスピードが遅いと研究がちっとも進まないのはまあ我慢するとしても、培養管理中の維持費(特に光熱費)が余分にかさんでしまうのは痛い。仮に栽培に成功したとしても、生産コストが高くついてしまうからだ。さらに、培養期間が長い分、培養施設もより広いものが必要になる。せっかく作った人工栽培マツタケが天然モノと同じ値段だったら、ちゃんと売れるだろうか?

これまでの研究で、マツタケでもさまざまな添加物をくわえることである程度のスピードアップをはかれることがわかったようだが、今回のバカマツタケは培養期間が3カ月とのこと。なんとシイタケと同じ速さである。このスピードで回転できたらかなりの効率生産が可能だ。

④東証一部上場の企業広報における発表である
今回の発表は企業の広報による。新聞や雑誌などでの発表ではない。話をふくらませたり、ねじ曲げたりすることもあるマスコミを抜きにした一次情報なので信頼がおける。
ましてや年商300憶円の、しかも上場企業である。投資家に対して責任を持たなければならない以上、そうそう出来もしない大風呂敷を広げるわけにはいかない。

ちなみに多木化学の株式は今回の発表後に買いが殺到、3日連続で値がつかなかった。株価は発表前の5150円から10月11日時点で9230円、たった4営業日で1.8倍にまで急騰した。



◎気になる今後の展開
「キノコの発生シグナル」と「培養スピード」という大きな壁をすでに突破している時点で、この研究はかなり有望と言っていい。少なくともこれまでの研究とは段違いの成果だ。数年後の食卓に栽培マツタケが上がることは充分にありうる。

さて、今後気になるのは

多木化学がどのように事業化するつもりなのか?

②バカマツタケの生態について

③他の菌根菌への応用が可能か?



については、肥料・化学品メーカーである多木化学が、キノコ生産・販売のノウハウを持っていないのが懸念される。
まず生産ラインを確立できるか、それができたとしてどれだけ生産するのか、どんな価格で売るのか。どんな形態で売るのか。
いくらマツタケが日本のキノコ界の横綱だといっても、これを収益に結びつけるまでには多くの難題がある。
それをどのようにクリアしていくのか?とても興味深い。

今回の発表から、バカマツタケが腐生性(木材などの有機物を分解して栄養にする性質)を持っていた、と考えていいように思うのだが、実際はどうなんだろうか。

マツタケ研究の権威・小川眞は、バカマツタケに多糖類を分解する力はなく、扱いも難しい、栽培はあまり有望ではない、としていた。
ただ、系統によって性質が違うともあり、個体差が大きいのかもしれない。
このあたりのバカマツ生態の解明は、キノコフリークとしてとても気になっている。今後の研究に期待したい。

これも気になるところだ。たとえば菌根菌であるホンシメジは、㈱タカラバイオにより腐生性の強い系統が発見されていて、すでに商品化している。他にも栽培可能な菌根菌があるんじゃなかろうか。
ただ、研究する価値のあるほど儲かるキノコの種類はそうそうない。ヨーロッパでスター的存在のポルチーニ(ヤマドリタケ)・トリュフ・モレル(アミガサタケ)、あとは個性の強いコウタケあたりか。


まだまだクリアしなきゃいけないことは山積みかもしれない。それでも、できたら500円くらいでバカマツタケが買える日が来たらいいなぁ、と切に願っている。







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5 コメント

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Unknown (Miwa)
2018-10-13 01:43:23
季節を問わず松茸が味わえる・・・(・_・;)
松茸を海外から輸入してる業者は戦々恐々としてるだろうなあ。
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【ガジェット通信】記事寄稿のお願い(キノコ界に衝撃!「バカマツタケの完全人工栽培に成功」を検証する) (ガジェット通信編集部 寄稿チーム)
2018-10-17 09:50:12
月刊 きのこ人 鳥居様

はじめまして。
ウェブニュース媒体 ガジェット通信
編集部の寄稿チームと申します。

弊社では寄稿という形でさまざまな方のブログ記事やウェブサイトから
編集部が気になったものを許諾を得て転載させていただいております。

「キノコ界に衝撃!「バカマツタケの完全人工栽培に成功」を検証する」
https://blog.goo.ne.jp/kinokobito/e/2170349982b9a9e863d87cf8c91d3a81

鳥居様執筆のこちらの記事を大変興味深く拝読し、弊社媒体に寄稿記事として掲載させていただきたくご連絡申し上げました。

お手数かとは存じますが、ガジェット通信編集部までご連絡いただければ幸いに存じます。
何卒ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。

------------------------------
東京産業新聞社
ガジェット通信編集部 寄稿チーム
kiko2@razil.jp
http://getnews.jp
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Unknown (鳥居)
2018-10-18 01:03:43
Miwaさん
いやいや、マツタケを長年研究してきた人たちこそ歯噛みしてるだろうよ。もうほぼ灰燼に帰したってレベルだもん。

そこそこの生産量に乗せるには最低でも5年はかかると思うし、天然マツタケはまだまだイケる・・・はず??
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どうしてきのこ関係者はこうも妄言をかますのか (el)
2018-11-09 23:26:10
全然違うぞ?妄言もいいところだな。事実確認がしっかりと取れないのなら記事にするべきではないだろう。
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Unknown (鳥居)
2018-11-11 02:27:34
elさん
違うところを具体的にどーぞ。

批判はせめて材料をそろえてから言いな。人の揚げ足をとりたいだけの人と思われたくなければね(多分そうだろうけど)
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