月刊 きのこ人

【ゲッカン・キノコビト】キノコ栽培しながらキノコ撮影を趣味とする、きのこ人のキノコな日常

『きのこの語源・方言事典』

2011-01-20 21:45:53 | キノコ本
『きのこの語源・方言事典』  奥沢康正 奥沢正紀 著

≪よえもん(与右衛門)  人名。「昔時与右衛門なる者 是を食べて死、故に名づく、今に土人 是を恐れて採り食わず」栗本丹州著『仙台蕈譜』より。よえもんたけ(ツキヨタケの古語)≫

だいたいがキノコを扱ってること自体マイナーであるのに、その方言や語源を一冊の事典にまとめてしまおうなどと考えるのは、どこの酔狂か。労多くしてなんとやら、ほとんど奇書の部類に入ると思うが、なんのなんの、新書サイズながらも全607ページ、堂々の大作である。

キノコには方言がとても多い。もともとが山間地のものである上、生活必需品というほどのものではなかったために、統一名称が浸透しにくかったという面があるのかもしれない。そもそも、利用されているキノコの種類自体に地域差が大きかったようだ。「ある地域ではキノコは二種類にしか分類されていなかった……マツタケと、それ以外全部(クソタケ)だ」という笑い話もある。

なんにせよ、そんな多様な方言は、逆に言えば、ごく狭い地域でしか知られないのをそのままに、今すぐにでも消えてしまおうという、こころもとない存在でもある。現に今ではまったく使われなくなった呼び名は数知れず、せめて跡形なく消える前に記録にだけはとどめておこう、というのも、先祖の生活の断片を拾っていく貴重な作業のひとつになるのではないかと思う。


本書はキノコの標準和名や方言に使われている言葉の由来をあいうえお順に解説する「語源編」と、標準和名から方言を、方言から標準和名を調べられる「方言編」に、キノコの形態に関する専門用語を調べるための「きのこ用語図譜」と、キノコの名前に関する雑学集「きのこ和名のアラカルト」(これが特におもしろい)を加えた構成。

たとえば「方言編」で、「ナラタケ」をひいてみると、『あしなが、あまだれ、あまだれごけ:新潟……』と続き、なんと177種類もの呼び名が並んでいる。
三重で「スドーシ」と呼んでいるキノコが何だろうかとページを繰ってみると、愛知県をはじめとした各地で「アミタケ」のことを指しているとわかる。
「オニフスベ」の方言を調べて「ぼーさんのあたま」「きつねのへだま」「ちんぷくりん」に思わず笑ってしまう。

実用性はともかくとして、読み物としても意外に楽しいという価値ある一冊だ。



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2 コメント

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Unknown (Viridian Forest)
2011-01-20 23:02:36
新潟の魚沼地方では、ナラタケの事を「あまんだれ」と呼んでますね。
ナラタケモドキも全部「あまんだれ」です。

アミタケの事は、こちらでは、「すどーし」とか「いくち」とか呼んでます。

ハツタケの事は、「あおはつ」とか「あおはち」とか呼んでます。

図鑑で覚えた私は、最初は何の事だかさっぱり分かりませんでした。

ところで、ナラタケの事は愛知県の方言は何となってますか?
この辺では、ナラタケを採る人が殆ど居ません。
もしかしたら、こちらではナラタケはあまり人気が無く、方言は無いのかも…
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Unknown (鳥居)
2011-01-21 22:33:14
ナラタケには177もの方言が記載されていますが、その8割は東北地方に集中していて、愛知は、というか、東海地方全域をあわせてもほぼゼロ。ナラタケモドキの項目にかろうじて「とちたけ」(岡崎)の記述がありました。

人気がないのもそうだと思いますが、そもそも発生が少なかった可能性もあります。尾張の周辺は古くから栄えた地域ですから、里山の搾取が続き、かなり広い範囲で乾き気味の松林になっていたかもしれません。そうなればナラタケも出番はなし、ということになります。

そういう想像を働かせながら読めるのが、この本のおもしろいところだと思います。
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