マイ・ディア・ミスター~私のおじさん/①
雑誌のコラムで角田光代が紹介していた。好きなドラマということだった。それがきっかけで見だしたのは確かだが、最初のちょっとした謎めいた展開ときょうだいのグダグダのバランスがよく分からず、戸惑った。それに11話くらいなら、と思って観始めたにもかかわらず(しかしそれ以上あると後に分かるのだが)、一話が90分あるのである。ドラマを見だすと、一日に数話続けて観る醍醐味があると思うが、とてもそんな芸当は出来そうにないのだった。何度か断念しそうだったが、今も途中であるが、なんとか見続けている感じかもしれない。
韓国のドラマがどのようなものなのか、というのは、実はいまだによく知らない。僕が知っているのは「冬のソナタ」であり、何話か宮廷もののようなのは見た覚えがあるが、それが何だったのかはよく分かっていない。要するに知識が古い。韓国の映画はあんがいよく見ているのに、ドラマを観ないのはどういう訳だろう。もっとも日本のドラマも、そこまでよく見ていると言われるほどではない。大河さえ見ないし、朝ドラもほぼ見ない。そういう事とも関係あるのかどうかは自分でもわからないが、最近「エルピス」は見たので、そういう一連の趣向の流れというものがあるのかもしれない。
さて、マイディアであるが、やはり派遣社員の謎の感じ悪い女こそが、お話の基本のようだ。だんだんと明かされるが、過去に人を刺して殺したことがあるようだ。もっともそれは、自分の祖母をひどく殴る借金取りを刺したのであるが、その借金取りの息子に恨まれ、自分も執拗に取り立てを受けているという構図である。暴力も受けている。この女は借金返済のために、派遣以外にも皿洗いなどの仕事を掛け持ちし、祖母の介護もし、ゲームオタクのような弟もいるが、自分が主に苦労して、座ったまま眠るような極限生活をしている。そうして会社の人事のゴタゴタの裏工作も派遣会社の依頼を通じてやっているわけだ。その裏工作の罠にはまるのが、直属の上司である「おじさん」である。
「おじさん」は明らかにいい人であるが、社長の先輩で出世し遅れている。美しい弁護士の妻がいるが、妻は後輩である社長と不倫をしている。兄弟仲が非常にいいが、兄は会社を辞めてうだつが上がらず見栄っ張りで、弟は才能はあったのかもしれないが、映像監督として何か失敗して干されている。「おじさん」は、そのような家族の援助もしているが、要するに妻とは冷たい関係になっていて、毎晩きょうだいとひたすら飲み歩いている。
まあ、前半はこういうところでそれぞれの事情においての人間関係が描かれていく。
韓国社会というのは、何か常識的に縦社会の縛りが非常に強いもののようで、ちょっとでも上のものになると、威張り散らして下に迷惑をかける。それで平然としていて、比較的いい人である「おじさん」も仕事関係では例外ではない。観ていてなんだか情けない人ばかりなのだが、そういうことを改めようと努力する人は皆無だ。妙なものを見ているな、とは思うが、そういう厳しい社会の中にあって、さまざまな罠にはまりながら、自分の強さも活かしていくトリックが時折みられる。やはり少しくらいは賢く勝負度胸もあるものが、勝者となっていく社会なのかもしれない。まあ、そんなのあたりまえのことだけれど。