寒いのが好きだと思っている自分と、寒いとつらいと思っている自分は同一だ。それは散歩をしている時、暑いときは論外だけど、肌寒いときに歩いているのはあんがいに気持ちがいい。もう少しぶらぶらしてみようかなっていう気分にもなる。ああ、僕は寒いのが好きなんだな、と思っているのだ。ところが実際に寒すぎる日があって、そうして風が冷たくて、手袋しても手がかじかんでくるようなときに歩いていると、いったい俺は何をやってるんだろう? と疑問に感じる。こんな日に頑張って歩いているなんて、まるでバカみたいじゃないか。確かに馬鹿だとは自認するところはあるにせよ、やめたらいいのにやめない自分が嫌になるほど寒いのだ。やっぱり僕は南の人間で、本当の寒さなんて知らない。そんな甘ちゃんだから寒いのが好きだと言えるのだ。そんなことを思い知る。でも、そういう甘い考えの耐えられる寒い日になると、うきうきするくらい気持ちがいい。だから寒いのが好きだというのは本当なのだ。そうしてつらいというのも当たり前なのだ。
そういう訳で、冬の散歩は基本的にはありがたい。断然夏より歩数が伸びるし、いつ外に出てもいいという開放感がある。雨降りは困るけれど(それは夏だって同じだ)、雨が降ってなくてついでにあんまり風が強く無いようだと、もっといい。いや三十分以上歩いて、なんだか体が暑く感じる時に、上着を脱いで冷たい風が吹くのも気持ちがいい。だから少しくらいは風があってもいいくらいだ。十度前後で、それより少し低くてもいい。本当に寒すぎて困るのは、おそらく4度以下くらいからで、急ぎ足でもなかなか体は暖かくならない。それは本格的に寒いからで、走ればそれは別だけど、やわに散歩くらいではどうにもならない。本格的に坂道などを取り交ぜて、気合を入れないと凍えそうになる。実際に凍えたことは無いんだけど、ともかくいつまでもやっているわけにはいかない。
そうやって寒さを楽しんでいられるのも、実際にはそんなに長い間ではない。この地域の冬は短すぎる。すぐに春の気配が漂いだし、暖かい日の方が多くなる。春は嫌いではないし、確かに華やいだ気分にはなるのだけれど、なにか本当に辛抱して、やっとやってくる感動のものでは無いかもしれない。もう来てしまったかもしれない春に、そうして去って行ってしまう冬の季節に、切なさを覚えるのかもしれない。上着を脱いで身軽にはなれるが、軽くなった分、汗をかいてしまう。けっきょくのところ、汗をかきたくないだけの話なのだろうか。