恋するプリテンダー/ウィル・グラック監督
ちょっとした出会いでいい恋仲に陥りそうになった二人だったが、勘違いがもとで逆に険悪な記憶を残して別れてしまう。数年後、友人の結婚式でオーストラリアに行くことになって二人は再会する。気分は険悪なままだが、女は元カレの復縁から逃げることと、男は元カノの気を惹くという二人の思惑が一致して、いい雰囲気のカップルを演じることにするのだったが……。
いわゆるコテコテのラブコメなのだが、いくら何でもそれは無いだろっていう突っ込みどころが満載ながら、ものすごく楽しい出来栄えになっている。どうせやるならここまで吹っ切れてないと、という潔さも感じられる。出会いのきっかけもトイレ問題だし、時折服も脱いでしまうし、面白いけど、下品さもある。救助のヘリコプターも自分の都合で使うし、公的な支援を何だと思っているのか、というけしからんところもある。愛ゆえに許していいものかは、なかなかに悩ましいのである。
アメリカ的なのかはよく分からないが、分かりやすい美男美女のカップルで、男はムキムキで、女は健康的なセクシーさである。こういう漫画的なキャラクターが、ちゃんと実写的に存在する世界があって、結婚式は同性婚だし、黒人などの人種的なキャラクターが、ちゃんと物語に絡む配置にそろっている。恋のライバルも機知に富んで魅力的だし、馬鹿なマッチョなども、ギャクをかましてくれる。いわゆる八方美人的に、あらゆる方向に配慮がなされているうえに、ハチャメチャな爽快感があるのだ。いきなりのダンスだって、いくら何でも練習してるだろ、って感じである。
しかしながら娯楽作品を見るんだからとはいえ、そういう要求にちゃんと応えてくれる作品を作るてらいの無さこそが、今はかえって敬遠されている時代かもしれない。意識高い系に気取って気難しくなっている方がエライ、という風潮だってあるかもしれない。この映画はまじめに見ると、不届き千万のくだらなさなのだが、しかし楽しいんだからそれを突き抜けるくらいの力を持っているのである。ちょっと勘弁してくれよな、と思うようなところがあっても、恋の行方にヒヤヒヤしたり、でもそうなってくれて嬉しかったりするのである。よくもまあ、そんなことをするもんだと思うけれど。
日頃馬鹿映画は批判している身だが、こんな作りものめいた恋愛娯楽も、その楽しさに脱帽してしまうこともある。実際、いい映画なのではなかろうか。