これさえ知っておけば、小説は簡単に書けます。/中村航著(祥伝社新書)
題名通り、小説の書き方のハウツー本。まあ、そういう本は数多くて、僕も興味本位に数多く読んできたのだけど、これはなかなか薄い本の割には、そのあたりの具体的な内容として、実に分かりやすいのである。他の本では、精神論というか、結局は自分の自慢話だったりすることの方が多いのだが、この著者は、実に王道的に書き方だけを具体的に著述していることに努めているようだ。そういう小説講座の経験もあるようで、実際にその生徒でプロの書き手になっている人もいるという。そうして書き続けている人もいるという。それだけでも凄いという感じがするし、もともとそういう人が受講するものであろうこともあるが、そういう気にさせる文章術を持っている、という感じもした。
アイディアの出し方とか、その考え方とか構成の組み方とか文章術まで多岐にわたる。当然だが、書き出しや、書き進め方や、終わらせ方まで書いてある。なるほど、そういう事に対して惜しいプロの書き手も実際にいるということが、それによってわかる。そう考えているプロの書き手としての著者の姿勢も分かる。そうして、実際の小説の面白さというのは、そうやって書いているからこそ生み出されていくものだ、ということも分かるのである。
こういうのは、おそらくなのだが、この著者が実践もしているだろうことだけれども、実際に小説講座をしてみて、その書き方を具体的に考え直してから、また編み出されて体系化されたものでは無いか、とも思われた。ひとに物事を伝えるというのは、その具体性において、もう一度再構築する必要があるのではないか。これですべてうまく行く、とは限らない問題ではあるが、少なくとも何かを書こうと思う人であれば、自分流があってもなお、それを見つめ直すことができるのではなかろうか。目から鱗、というような突飛なことでは無くて、それはあんがいに当たり前の事ではあるのだが、だからこそそれなりに地道に、ぜい肉をそぎ落として、シンプルにそのやり方に徹して教えてくれる。僕は小説は書かないのだが、小説以外のものを書いていることについても、改めてなるほどと思うことが多かった。ちょっと試してやってみると、簡単そうでもあるが、なかなか当てはまらないところもある。要するに試行錯誤は必要だけれど、それはやはりうまくのみ込めるまでの余地であって、しかしそれなりのヒントであったことも間違いなかった。人々が受けるであろう面白さの謎のようなものも、かなりしっかりわかるのである。まあ、僕は自分本位の書き手なので、反省することしきり、という事でもあるのだが。
何しろ読みやすいので、新しい書き手がまた、これで生まれてくれるといいな、とも思う。もちろん僕も含めてそうなると、いいですね。