崖上のスパイ/チャン・イーモウ監督
満州国時代。中国共産党の同志を、日本軍から国外に逃がすための作戦が展開される。選ばれた精鋭たちは、秘密裏に作戦遂行まで身を偽りながら行動しているが、内密者がいて、リーダーが捕らわれの身となり、激しい拷問を受けることになってしまうのだった。しかしながら共産党にも、日本軍の中にスパイがいて、敵も味方も欺きながら、過酷な任務を支えているのである。お互いに身元がバレると、激しい拷問の上に、なぶり殺しにされることは分かっている。ピリピリした緊張感が終始続き、胃が痛くなる思いがする。
舞台が旧満州で、ハルピンなどの東北の寒いところが中心となっている。雪深く、コートをまとっている体にも、溶けずに雪が溜まっていくようなところだ。そういう場所で銃撃戦があり、カーチェイスがある。迷路のような古い洋館の街並みにあって、激しい殺し合いが展開される。日本軍が圧倒的に優位なのだが、精鋭たちも簡単には囚われない。鍛え抜かれているし、どう生き抜くか、各自よく分かっているのだ。
最初からスパイ同士の情報戦があるので、誰を信用していいのか、よく分からない。観ている方も騙されているのかもしれない。スパイにも事情があって、当然過去の恨みとなるような、重要な秘密がある。その為に失敗するものもいるし、それを忘れずに果たそうとする者もいる。何度も拷問の場面が出てくるので、戦う相手の恐ろしさは重々伝わってくる。それでもやらねばならない任務があって、個人の戦いもあるのだ。
チャン・イーモウの作品なのに、あんまり知らなかったな、と思ったら、抗日映画なのである。スパイサスペンスとしてそれなりの水準にある作品だが、日本の広報も、そのあたりの事情があるので難しい取り扱いになったのだろう。日本人が観るにはつらいものがある、という考えもよぎる。別段厳しい検閲があるとかは分からないが、こういう映画を通じて、中国共産党を賛美しているところがある。このような困難な時代を戦い続けてきた同志がいるからこそ、現代の共産党は偉大なのである。
そういうところが最後にシラケるわけだが、アイドルのようなかわいい工作員もいるし、非情に拷問を受ける人間は気の毒だが、それでもその状況から抜け出すスリルなどもある。結局、真の主人公は心理戦に長けた人間だったのだが、今から考えると、中国で人気のある役者さんに違いない。自国のために映画を作ったとしても、それはそれで別段かまわないことだ。そういうあたりを理解して、サスペンス娯楽と思って観るべき作品なのではなかろうか。それにこういう事を繰り返し国民に思い出してもらわないと、中国の共産党は成り立たないのである。そういうお国事情も知っておくことも大切だろう。