見つけたら踊りたくなる(程嬉しい)ことからその名がついたともいわれる「マイタケ」であるが、実際天然もののマイタケというのは、見つけるのがかなり難しい希少なものなのだそうだ。九州にもあったのかもしれないが、僕が子供のころには、マイタケが食卓に並ぶようなことは、まったくなかった。小学生のころに何かの本を読んでいて、マイタケの入った味噌汁が何より好物だという文章があって、母にマイタケを食べたいと言ったら「それは何?」と聞き返された記憶がある。それとなく八百屋などで探してみたが見つけることは出来なくて、かなり残念な気持ちになったものである。そうしてしばらくは忘れていたのだが、高校生くらいの時に忽然と奇妙な塊のこのキノコが現れて、「ああっ」と思い出した。栽培技術が向上して人工栽培のものが九州でも出回るようになったためだった。さっそく買ってもらって食べたのだが、期待が大きすぎたのか、そんなにまでうまいものだとは感じなかった。俺はシイタケの方が好きだな、と思ったことだった。
しかしながらおそらくだが、調理によっても違うのではなかっただろうか。さらに何年も経過して、何かの料理と共に、バターか何かでソテーしたマイタケを食べる機会があって、なかなかの旨さにちょっと興味を抱いたことがある。なるほど、みそ汁などで食べるよりよっぽどうまいじゃないか。いったいあの文章を書いた人は誰だったのだろう? まあ、好みの問題であるから書くのは自由であるが、幻のマイタケを食べたという単なる自慢の文章だったのかもしれない。だいたい小説やエッセイなどで書かれたものの味なんてものはわかり得るはずが無いので、少年の心をつかんでおきながら長い間期待を抱かせた書き方に、問題があるのである。
しかしながらこのマイタケというのは、実は縄文時代から食べられていたということが、分かっているそうだ。いったい誰が調べたのだろう? わりあい日本独自のものらしく、他の国ではあまり知られていない。そもそも諸外国で食べるキノコというのは、あんがいに限られた品種のみのようで、マッシュルームのようなものは食べるが、多様なキノコをいろいろと食べる国は、そんなに無いのかもしれない。僕が中国に留学していた短い期間のことを思い起こしても、あちらでもキノコのたぐいはそれなりに食べていたけれど、キクラゲのようなものはあちこちで見かけるが、マイタケは確かになかった。今は日本食も食べるようになっているというから、ひょっとすると事情は変わっているかもしれないが。
そういう訳で外国人が日本に来て、マイタケが料理に出てくると、それなりに驚く人がいるという。なんとなく気持ち悪い形でもあるし、あちらの人はひどく毒キノコを怖がる傾向があって(日本人だって怖いとは思っているが)、なかなか口にしないのだという。しかしながらある程度日本になれてきた人たちがこれを食べて、そのおいしさに、やはり驚くのだという。そうして、なんとなく日本風だとも感じるのだという。そんなところに日本風というものがあるなんて、思ってもみなかった。