投資を騙る詐欺まがいの勧誘が、若者の社会で被害を広げているという。「闇の錬金術」と言われているらしい。僕は知らなかったが、そういう命名はそれなりに有名になっているようで、「闇の錬金術」という単語を聞くと、若者の多くは「ああ、その事か」という顔をする。「オレオレ詐欺」みたいなものなのに、それでも騙される人がいる、ということなのだろうか。
投資詐欺というのは、もちろん比較的お金を持っている人の資金をだまし取るのが一般的で、おもなターゲットはこれまで家族の為であるとか老後資金などで貯めてあるお金を狙ったものが多かった。それはそれとして今でもあると思うのだが、特に若者がターゲットになっているというのは、どういうことだろうか。
要するに若者の多くは、そのような投資に対するリスクのことをよく分からないままに、言葉巧みに言いくるめられるためであるようだ。若いうちにはそれほどため込んだ資金が無いので、借金を強要されてまで投資資金を工面するために、問題が大きくなるのだという。社会背景としては、将来に向けての投資は若いうちから、というセミナーだとか、給与などこれからの社会構造として簡単に上がらないだろう、という不安に付け込んでいるもののようだ。またそれらで集められた資金の多くは、暗号資産として行方そのものが分からなくなる方法があるようで、警察の捜査でも、実際に投資に使われている資金であるのならば違法性を問いにくいという面が、どうもあるようだ。実際に暗号資産として海外等で運営されているのであれば、リスクを伴った投資の一形態だ、という認識も可能になるということなのだろうか。そこのあたりは僕にはよく分からないところだったが、お金を集めた首謀者は逮捕されるものがいるものの、集めた金額の割には軽微な罰金刑であったり(それより多額の資金を集めて儲かっている犯人たちには、十分支払い可能だろう)するだけで、肝心の預けられた被害のお金が、被害者の元へ戻ることは難しいのだという。元本は戻らないまま、借りた先の返済は何年にもわたって被害者の若者の肩にのしかかってくるわけだ。既にその被害者の中には、失意のまま自殺した者まで居るのだという。
一般的にこのような詐欺まがいの投資というのは、騙されたものにも落ち度があるように言われることがある。そんな儲け話に欲がくらんだツケのように思う人もあるかもしれない。しかしながら僕が若いころのことを考えてみても、そのような勧誘というのは、それなりにあったものである。投資詐欺というよりも、基本的にはねずみ講で商品を買わせるものがほとんどだったが。いわゆるネットワークビジネスと言われ始めた時代が僕らの若い頃で、いまだにそれで逃げ切った企業もそれなりに存在する。
当然僕も何度となく勧誘を受けた。まずあるのは、久しぶりに会う友人からのものだ。会う約束をすると、そこにはもう一人知らない人が来ている。そうしてネットワークビジネスで一儲けしようという話を聞かされる。怪しいとはわかっているが、すでに友人はそのビジネスを始めており、実際に小金を手にしているともいう。今加わると、実に美味しいことになるという。しかしいくらから始めるのかという話になると、数十万ということらしくて、そもそもそんな金は工面できるはずもない。そう言うと、親に頼めとか、借金しても、すぐに取り戻せる、とか言うのである。そもそも僕はねずみ講のことはうっすらとは知っていたので、基本的にはこれは詐欺ではないか、と何度も確認するのだが、お前の古い知識では知らないだけのことで、まったく新しいビジネスなので、違法性はみじんもないのだという。
さらに頭に来るのは、そういう勇気もない男なのか、とか、頭が悪いから理解できないだけ、だとか、みんなやっていることなんだよ、とか、まあまあいろいろ言われることである。おそらくそれなりに訓練を受けているらしいとは後で気づいたが、何を言っても言葉巧みに反論してきて、実際には納得いっていないのだが、いつまで話しても逃がそうとしないで食いついてくるのである。ああこれはまいったな、もう金でも払うから開放して欲しい、と思ったくらいだったが、実際に金など無いので助かっただけである。
その後も別の友人から、集会のようなものに呼ばれたり、遊びに行ったグループに、勧誘員が混ざっていたりしたこともあった。これも後で考えてみると、サクラが混ざって集団で参加者を落とし込む手法が使われていたり、そもそもシナリオがあって、それに沿ってターゲットを落とし込もうとしたりするものであるようだった。当時はまだネット環境なども無く、自分でそれらの詐欺的手法を調べる手立ても無かった。しかしながら僕は、算数でねずみ講のことは面白く勉強したクチだったので、結局は必ず破綻するねずみ講に過ぎないことは、頭の片隅に知っていた。もっとも結局は貯金も無かったし、お金を貸してくれるような信用のある若者では無かったし、借金するのも怖かったので、結果的に騙されなかっただけのことであるように思う。
そういう数々の経験を積んだおかげで、僕なりに考えるところがあって、このような勧誘のほぼすべてが詐欺的であることを学んだ訳だ。そもそも儲かる話を人に話してしまう時点で、基本的には詐欺である。考えてみると、単に資金を出させようとしているだけのことだからである。少ない資金で儲かるのなら、自分自身が隠れてでもやっているはずで、そんな美味しい話を人にしても儲けを減らすだけのことである。儲かる話を独占しない人間は、詐欺なのである。
話を戻すと、若者がそのようなことを知らずに詐欺にかかりやすいことは、至極当然のことである。問題はそうして罠にはめる方にあることは明確なのである。法整備がどうだということもあるのかもしれないが、少なくとも資金集めのために借金を強要するなどの行為は、厳しく処罰する方策がとられるべきであろう。