小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

「満月の夕(ゆうべ)」をきいてくれ

2015年01月25日 | 音楽

2015年は阪神・淡路大震災の二十周年。この歳になると、月日が流れるのも夢幻のごとくはやい。
一月十七日には、NHKが様々な特別番組を放送した。
なかでも高齢者を特集したドキュメントは本当に身につまされた。家を失って自治体が借り上げたアパートに住んだはいいが、20年契約の満期ということで追立てられる独居老人たちは悲惨だ。
街は復興したが、いまだ人間の生活、精神は途上にある。
(東日本大震災で被災した方々のこれからのことに思い馳せると、復興への尽力はあまりにも緩い。国は10年後のビジョンさえもないのではないか。)

さて、ビデオに録って最近みたのが「満月の夕 震災で紡がれた歌の20年」という特集番組。
ソウルフラワーユニオンというロックバンドの長きにわたるボランティア活動を特集したものだ。
このバンドは震災の二年前に結成された。前身は「ニューエストモデル」で、当時わたしの大贔屓で、伊丹英子ひきいる女子ロックバンド「メスカリンドライブ」と合体したもの。関西が本拠地なので彼らがこちらに来たときは、なるべくライブに出向いた。懐かしき日清パワーステーションをメインに、独特でパワフルな演奏を楽しんだ。中川敬氏と伊丹英子さんの二人と直接会ったことがある。
「パワーだけが取り柄なんです」と彼は照れていた。
「文脈がしっかりしていて歌詞がいいこと。しかも原日本を感じさせるような、縄文的なパワーや豊かな詩情がある」と、そんなようなことを青っぽく力説したことを思い出す。なぜならデビューアルバムが「カムイ・イピリマ」といってアイヌ民謡にインスパイアされたものだった。多くの作詞が伊丹英子さんによるものだと知っていたが、彼女は静かに笑っているだけで、話しかけるタイミングを失ったのが残念。
ともあれ深夜番組であっても、彼らの二十年間のボランティア活動の一端が多くの人に知られたことは快挙だ。

「満月の夕(ゆうべ)」の歌詞を記す。{中川敬(たかし)が作詞・作曲(山口洋との共作)}
1 風が吹く 港の方から 焼けあとを包むようにおどす風
  悲しくてすべてを笑う 乾く冬の夕
2 時を越え国境線から 幾千里のがれきの町に立つ
  この胸の振り子は鳴らす ”今”を刻むため
3 飼い主をなくした柴が 同朋とじゃれながら車道を往く
  解き放たれすべてを笑う 乾く冬の夕
 ヤサホーヤ うたがきこえる 眠らずに朝まで踊る
 ヤサホーヤ 焚火を囲む 吐く息の白さが踊る
 解き放て いのちで笑え 満月の夕
(4番は省略)

 Soul Flower Union - Mangetsu no Yuube 
 
「満月の夕」は神戸大震災の一か月後にできたとのこと。被災地には電気もないことを考え「ちんどん屋」スタイルを想定し、アコースティック楽器で編成。
実際、最初のころ避難所や仮設広場ではメガホンや拡声器などを使って歌ったという。
瓦解した風景と悲しみ耐える人々の心情をみごとにすくい取るような曲である。
この曲が神戸の被災者たちの心の復興のシンボル曲になった。さらに様々なミュージシャンに歌い継がれ、3・11以降の東北各地の被災した人々を励まし勇気をとどけている。
番組の中では、ナレータである大竹しのぶさんの歌う姿や、共作者であるヒートウェーブの山口洋と一緒にチャボも唄いギターを鳴らしていた。

被災地では「満月の夕」だけではなく、戦前戦後の流行り唄や壮士演歌、ヤマト民謡・沖縄民謡・朝鮮民謡・アイヌ民謡などをレパートリーにして多くの高齢者たちから親しまれた。
お年寄りの笑顔は幅広い世代にもつたわっていく。これらの曲をまとめたアルバムが「アジール・チンドン」「レヴェラーズ・チンドン」などにまとめられいる。


特筆したいのは、関東大震災の頃の流行り歌をよみがえらせたことだ。添田唖蝉坊の『ラッパ節』『むらさき節』『ああわからない』、唖蝉坊の息子である添田さつきの『東京節』『復興節』『ストトン節』などをレパートリーに加え、多少アレンジしているが当時の人々の心情が違和感なく共感できるのが素晴らしい。私としては添田さつきの「平和節」をぜひとも演ってもらいたいと思っている。


最近、わたしが贔屓にしているブックカフェのご主人から「添田唖蝉坊・添田知道著作集・全5巻別館1巻」(1982/3/・刀水書房)があると知らされた。きわめてレアな全集で、収集を諦めたとのこと。
大島渚の「日本春歌考」が懐かしい。



※二人にお会いしたとき、中川氏からいただいたステッカー(結構あったが配布した)。今から22年前のこと。記念になると思うと捨てられない高齢者の性を実践している。


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