小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

炎上は、批判精神の衰弱か

2016年09月24日 | エッセイ・コラム

 

朝刊の記事を読んで考えたこと。

日本人の批判精神が脆弱になってる。気弱になって、我慢強さも減衰したか。他者を批判しないことを美徳とするあまりに、批判そのものができなくなってしまったのか・・。

 

ネット上での炎上がときに話題となる。東京新聞の週一連載記事「ネットで何が」で、ニュースサイトの記事が炎上したことを話題にしている。

「BLOGOS」というサイト(※)に寄稿した長谷川豊氏の、「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ! 今のシステムは日本を亡ばすだけだ!!」という、なんとも煽情的なタイトルの記事が発端だ。批判が殺到し、編集部は掲載を詫びてこの記事を削除した。また、「繰り返す! 日本の保険システムと年金システムは官僚から取り上げ民間に落とせ!」という、続編となる同氏の記事も掲載を見合わせたという。もちろん炎上を回避するためのものだ。

さて、私はこの記事の内容云々を論うのではなく、「炎上」という現象がなぜ起きるのか考えた。

最初は単なる嫌悪、拒否だ。支持する声も出始める。その反対者も増幅する。価値観、思想、心情が揺さぶられるような発言や行為に、人はときに居たたまれない感情を抱く。売り言葉に買い言葉はやがて、憎悪、怨嗟の感情が剝き出され、やがて誹謗中傷、罵詈雑言の応酬となる。

ネットにおける「炎上」の場面に、私は残念ながら共時的に遭遇したことはない。しかし、炎上したサイト、その事後のコメント欄を覗いたことはあるが悲惨なものだ。日頃の鬱屈した憤懣、やり場のない感情のはけ口として「炎上」が起きるとすれば、ネットは今という時代の手軽な「ガス抜き」として機能しているのか・・。まあ、ガスはとことん吹きだしたら、炎上はいつか終息するけど・・。

長谷川氏は意図的に煽情的な言葉を使ったことで、書き手としての落ち度があり、資質を問われてもやむを得ない。批判したい事があれば、極力感情的な要素をそぎ落として、なるべく冷静に論理的な議論を展開せねばならなかった。氏名を明らかにしているのだったら、それは最低限のノルマであろう。

一方、炎上する側に立った方々は、長谷川氏の明らかにけしかける論法にまんまと乗せられたわけで、氏の批判・論点を冷静に受け止めることができなかった。

結果的に記事は削除され、筆者にとってお気の毒な結果となった。今後は自重し、冷静な筆致をめざすのか。いや、狙い通りになったとして、さらに挑発的・過激な議論をネット上で展開するのか・・。

そろそろまとめたい。このような「炎上」沙汰は、正統なる批判精神が衰弱しているせいではないか、と私は考えたのである。匿名で自由に好きなことが言えるのがネットだ。だからといって、差別用語や下卑た言葉などを用いるのはルール違反。法律・条令に記載されてはいなくとも、規範や倫理は存在する。物事を批判するとしたら、しかるべき手続きを踏まえよ、ということである。わたし自身もたまに家人から「批判的に過ぎる」とか、「感情が先走っている」と指摘される。何かを批判することにおいて、感情を全く排除するのは難しい。といって、世の中から批判精神がなくなったら、思考停止にひとしい怠惰な社会となるだろう。

さて、人工透析の医療費については詳らかにしないが、医療費(高額・高度)の問題、年金・保険などの社会保障については、多くの世代間にわたる議論がなされるべきものだ。こういう大事なテーマを細かく丁寧に論議することは、いま社会がもっとも求められていることだ。身障者殺戮事件の犯人は「このままだと日本が亡びる」という最終イメージを持っていたようだが、件の長谷川氏も、この「亡びる日本」のイメージに落とし込みたかったのだろうか、「国が亡びる」という茫漠としたイメージでは感情論に陥りやすい。

もっと個別的な、現実的な問題に焦点を絞って、議論を展開する方法を選択するべきだった。

この問題はこの辺で筆をおこう。


あと一つ、新聞ネタから。

年金運用法人GPIFのトップ理事長の年間報酬が発表された。15年度は3131万円だという。14年度は2148万円だった。人事異動があったというが、1年間に同一ポストで一千万近い上昇だ。日銀総裁の年収を参考にしたということだが、その根拠はどこから来るのだろうか。この一年ほどで10兆円あまりの運用損を出している法人。株式にも手を出し、海外の信頼薄の債権にも手を出している。にしては、GPIFの報酬システムに対して忌憚ない批判の目が注がれる筈ではないか?

このままでは、日本が・・・。おあとがよろしいようで。



▲いただいたバラの花。とても小さくて、1センチにも満たない。だが1か月以上もこの状態のまま、可愛さをみせてくれている。


(※)BULOGOS=ブロゴス 井上達夫が寄稿している記事を読んだことがある。偏りのないリベラルなニュースサイトだという印象をもった。



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