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40年ぶりに「ラジカセ」を買った話 【その①】

 

 初めて、ラジカセなるものを買ってもらったのは、たぶん中学生の時だと思う。母親からお金をもらい、街の繁華街の電気屋さんに一人で買いに行った。その当時は、家電量販店などはなく、ラジカセを買えるのは、個人経営の電気屋さんだった。

 

 店のおじさんがすすめるままに、結構大型のラジカセに、携帯のためのキャリングケース、外付けのタイマーまで、あらゆる付属品もまとめて買った。と言うか買わされた。当時の金額で5万円だった。金額だけは今も鮮明に覚えている。たぶん、店のおじさんは「いいカモが来た」ということで、在庫一掃セールをしたんだと思う。

 

 家に帰って、母親に「ラジカセ買って来たよ」と喜び勇んで言うと、母は「ほほう、いいものを買うてきたのう」と素直に喜んでくれた(と、子どもの目にはそう映った)。値段を言うと「母ちゃんのひと月の給料、全部使ってしもうたのお~」と笑っていた(と、子どもの目にはそう映った)。中卒の、学歴も資格も何もない母親は、牛乳工場でパートで働いていた。その給料は、朝から晩まで身を粉にして働いて、5万円だったんだと、後から気が付いた。

 

 あれから半世紀が過ぎた。そのラジカセは今はもうない。たぶん遠い遠い昔に壊れて処分したんだと思う。でも、今の金沢の寓居の段ボール箱に、カセットテープだけは山の様に残っている。どのテープも金沢に来てから買いなおしたラジカセで録音したものばかりで、子ども時代のものではないと思う。思うが、ラジカセを今持っていないので、中味を確かめようがない。

 

 さてどうするか??。そろそろゆるやかに「終活」を始めようと思っている初老の男。カセットの中身を確かめないで逝くわけにはいかんよねえ。よし、ラジカセを買おう、今年は令和6年だけど、今だって売ってるに違いないよね。きっと。  

                        (つづく)

 

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