残念ながら、受賞しませんでした。六花亭エッセイ公募「私の北海道」
ここに記録しておきます。
「私が雪を好きな理由」
東京に移り住むため飛行機に乗った私は、もうこの北の大地に帰ることはないのだと、心に決めていた。
私は札幌で生まれ育った。なのに私は思春期を迎えると、おおらかな北海道の風土に反発していた。この大地を出る時から、私の人生が始まるのだ。ただ漠然とそう信じて、大学入学と同時に勇んで上京した。
しかし失意の中で、私が札幌駅に再び降り立ったのは、それからたった四年後だった。その後札幌で暮らす私には相変わらず北の風土は苛立たしかったが、冬の訪れと共にやってくる雪には心和んだ。寒風が連れてくる初雪は、ふわふわ温かで希望が詰まっているように思えた。冬は実は暖かい季節だった。人々は吹雪の中コートに身をすくめて凍え、太陽は光を弱めるが、その時の私には、そんな冬の方が、かえって居心地良かった。暗い空から舞い降りてくる初雪は煌めいていて、私の心に灯火をともした。
毎年必ず冬は巡りきて、必ず初雪を連れてきた。初めは白い雪の訪れに長く暗い冬を思い安堵していたが、段々と冬の先の春の暖かさを少しずつ楽しみに思えるようになっていった。深く抉れていた私の心の傷を、繰り返し降る初雪が少しずつ埋めていってくれた。
やがて七年が経ち、私の心の傷は癒えた。すると私はまた、白い雪で覆われることのない土地へと向かっていった。私を癒してくれた白い雪を再び捨てて。案の定二度目の東京も私を痛めつけたが、七年間をかけて私の心に積もった初雪は根雪になり、もう二度と溶けることなく私の心を守ってくれた。
今でも私が空に求めると、盛夏でも春爛漫でも、初雪はふわりと舞い降りてきてくれる。どうしても許せなかった北の大地に、毎年必ず降るあの初雪が。
ここに記録しておきます。
「私が雪を好きな理由」
東京に移り住むため飛行機に乗った私は、もうこの北の大地に帰ることはないのだと、心に決めていた。
私は札幌で生まれ育った。なのに私は思春期を迎えると、おおらかな北海道の風土に反発していた。この大地を出る時から、私の人生が始まるのだ。ただ漠然とそう信じて、大学入学と同時に勇んで上京した。
しかし失意の中で、私が札幌駅に再び降り立ったのは、それからたった四年後だった。その後札幌で暮らす私には相変わらず北の風土は苛立たしかったが、冬の訪れと共にやってくる雪には心和んだ。寒風が連れてくる初雪は、ふわふわ温かで希望が詰まっているように思えた。冬は実は暖かい季節だった。人々は吹雪の中コートに身をすくめて凍え、太陽は光を弱めるが、その時の私には、そんな冬の方が、かえって居心地良かった。暗い空から舞い降りてくる初雪は煌めいていて、私の心に灯火をともした。
毎年必ず冬は巡りきて、必ず初雪を連れてきた。初めは白い雪の訪れに長く暗い冬を思い安堵していたが、段々と冬の先の春の暖かさを少しずつ楽しみに思えるようになっていった。深く抉れていた私の心の傷を、繰り返し降る初雪が少しずつ埋めていってくれた。
やがて七年が経ち、私の心の傷は癒えた。すると私はまた、白い雪で覆われることのない土地へと向かっていった。私を癒してくれた白い雪を再び捨てて。案の定二度目の東京も私を痛めつけたが、七年間をかけて私の心に積もった初雪は根雪になり、もう二度と溶けることなく私の心を守ってくれた。
今でも私が空に求めると、盛夏でも春爛漫でも、初雪はふわりと舞い降りてきてくれる。どうしても許せなかった北の大地に、毎年必ず降るあの初雪が。