仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

王様の新居4

2009年10月05日 15時46分37秒 | Weblog
居心地のいい沈黙がしばらく続いた。犬がヒロムの手を舐めた。犬の口元を見てから、フッと顔をあげると女性は遠くを見ていた視線をヒロムに向けた。
「あら、ケビン。」
犬を静止するわけでもなく微笑んだ。
「ねえ、面白いお衣装ね。なにか。お坊さんかと思ったわ。」
「はは、そんな感じかもしれません。」
「でも・・・。どうして・・・ふふ。」
「どうかしました。」
「いえ、なにか不思議な感じがして・・・・。私、この公園で人に話しかけたことはないのに・・・・。」
微笑みながら、視線が一度はなれた。
「あの。いいかしら。どうしてそんなに寂しそうなお顔をしてらっしゃるの。」
今度はしっかりとヒロムの目を見た。
「ふふ、そんな顔をしていますか。」
「ええ、ケビンが・・・。あなたのことを・・・・。わたしはいつもこの時間にここに来るのよ。あなたのことが・・・・。」
立ち上がった。
「今日は主人がめずらしく早く帰るの。だから、これから、お買い物に行かなくてはいけないわ。ねえ、明日はいらっしゃるの。」
「決めていません。」
「もしよかったら、明日、ここで・・・・。」
そういうと振り向いた。
「ご迷惑だったかしら。」
視線を合わせずに振り向き、軽く会釈をするとヒロムの来た方向とは反対の方向に歩き出した。ヒロムは女性の後姿を見た。柔らかい線。からだの線が綺麗だった。
「明日、ここにいます。」
女性は振り向くと、ヒロムの目を見た。
「ええ。」
視線をそらすことはなかった。頭を下げ、嬉しそうに微笑んで振り向いた。少しはやめのテンポで歩き出した。そして、何度も確かめるように振り向いた。見えなくなるまでヒロムはじっと女性の姿を見ていた。

「異常はありませんでした。はい。宰に気付かれることはなかったと思います。ええ、三十代くらいの女性と接触していました。いえ、ベンチで話をするだけでした。」
「はい、同行はお許しにならないと思いますが、お近くでお守りいたします。」