雨の音が消えていた。夕暮れになる前の空に太陽がのぞいた。南向きの窓から窓枠の長い影が格子模様を映しだした。女性は二人がけのソファーに腰をかけていた。ヒロムの気配を感じて振り向き、立ち上がった。すでに細くて長いビールのタンブラーに口をつけていた。
「ごめんなさい。」
「いいえ、そのままで。」
「こちらに座って。」
「はい。」
女性が指差したのは女性の隣ではなく向かいの席だった。ヒロムは不思議な気持ちになった。が、言われるままに座った。
「ごめんなさいね。私、勘違いをしていたのかしら。」
「何をですか。」
「あなたがおなじくらいだと思ったの。」
沈黙。
「わたしね。あまり、人と話をしたことがないの。いえ、日常的なことではなくて・・・・。そう、子供がいないのよ。ずっと、主人と二人でだけで・・・お手伝いさんはいるけど・・・。あなたに声をかけたのは、私としてはすごい冒険だった。あなたがおなじ顔をしているように見えた。同じくらいの年齢のように見えた。だから・・・・。」
「いいですか。」
「はい。」
「あの、名前を、」
「おっしゃらないで。お名前を聞いたら、現実に戻ってしまいそうで・・・。」
「はい。」
「すみません。勝手なことばかり言って。」
「いいですよ。」
「あッ。ごめんなさい。お注ぎもしないで。」
女性はビールの小瓶を持って、ヒロムの前のタンブラーを満たした。
「どうぞ、召し上がれ。」
「ありがとう。」
沈黙。ヒロムはビールを口に運んだ。
「私より、ずっと、お若いんでしょうね。」
「そんなには・・・。」
「おばさんよね。」
「そんなことないですよ。」
沈黙が続いた。夜の臭いがしてきた。明りをつけない部屋の中で二人は静かに時が過ぎるのを感じていた。女性は言った。
「また、いらして。」
「いいですよ。」
「約束はしませんわ。あなたがあのベンチに腰をかけていらしたら・・・・。」
「はい。」
「お嫌だったら、いいのよ。私を無視してください・・・・。もしそうでなかったら・・・・。ケビンを撫でてください。」
「はい。ご馳走様でした。」
「あッ、いけないお衣装が・・・・。」
そういうと女性は脱衣所に走った。ヒロムの服を持ってきた。ガウンをバスローブを脱がせ、衣装を着せた。一度でその構造を把握したようでヒロムは手を出さなかった。別れの挨拶をして玄関のドアを出ようとした時、女性はヒロムの手を取った。
「きっと、きっとよ。」
その手から、あの電流がヒロムに流れた。
「はい。きっと。」
ヒロムはその手をギュッと握り返した。手を離すと、女性の顔が遠のくように見えた。ヒロムは新居に向かって歩き出した。
「ごめんなさい。」
「いいえ、そのままで。」
「こちらに座って。」
「はい。」
女性が指差したのは女性の隣ではなく向かいの席だった。ヒロムは不思議な気持ちになった。が、言われるままに座った。
「ごめんなさいね。私、勘違いをしていたのかしら。」
「何をですか。」
「あなたがおなじくらいだと思ったの。」
沈黙。
「わたしね。あまり、人と話をしたことがないの。いえ、日常的なことではなくて・・・・。そう、子供がいないのよ。ずっと、主人と二人でだけで・・・お手伝いさんはいるけど・・・。あなたに声をかけたのは、私としてはすごい冒険だった。あなたがおなじ顔をしているように見えた。同じくらいの年齢のように見えた。だから・・・・。」
「いいですか。」
「はい。」
「あの、名前を、」
「おっしゃらないで。お名前を聞いたら、現実に戻ってしまいそうで・・・。」
「はい。」
「すみません。勝手なことばかり言って。」
「いいですよ。」
「あッ。ごめんなさい。お注ぎもしないで。」
女性はビールの小瓶を持って、ヒロムの前のタンブラーを満たした。
「どうぞ、召し上がれ。」
「ありがとう。」
沈黙。ヒロムはビールを口に運んだ。
「私より、ずっと、お若いんでしょうね。」
「そんなには・・・。」
「おばさんよね。」
「そんなことないですよ。」
沈黙が続いた。夜の臭いがしてきた。明りをつけない部屋の中で二人は静かに時が過ぎるのを感じていた。女性は言った。
「また、いらして。」
「いいですよ。」
「約束はしませんわ。あなたがあのベンチに腰をかけていらしたら・・・・。」
「はい。」
「お嫌だったら、いいのよ。私を無視してください・・・・。もしそうでなかったら・・・・。ケビンを撫でてください。」
「はい。ご馳走様でした。」
「あッ、いけないお衣装が・・・・。」
そういうと女性は脱衣所に走った。ヒロムの服を持ってきた。ガウンをバスローブを脱がせ、衣装を着せた。一度でその構造を把握したようでヒロムは手を出さなかった。別れの挨拶をして玄関のドアを出ようとした時、女性はヒロムの手を取った。
「きっと、きっとよ。」
その手から、あの電流がヒロムに流れた。
「はい。きっと。」
ヒロムはその手をギュッと握り返した。手を離すと、女性の顔が遠のくように見えた。ヒロムは新居に向かって歩き出した。