仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

星が見えるまで5

2009年10月28日 15時58分00秒 | Weblog
 警護に当っていた武闘派の報告をツカサは聞いた。「流魂」の執行部は想像される女性との性的関係を問題にすることはなかった。ただ、ヒロムの変化の原因が女性にあるのではないかと疑った。それは偶然が支配する男女の関係だったのだが、執行部は女性について調査した。

桜井薫子 37歳 東京都港区広尾の株式会社 六興商事 社長 桜井耕造の一人娘、上智大卒。 

夫 直和は六興商事の専務 立教大卒、卒業後、何社かの転職を経て、六興商事に入社、土地取引、マンション一棟買い付け等、大胆な営業で成績を上げ、桜井に気に入られた。桜井の勧めで薫子と結婚。世田谷の家は耕造が結婚時に購入、二人の新居とした。が、そのころ、直和は広尾の会社の近くにマンションを借り、そこに住んでいた。直和の経営手腕、営業力から耕造は別居について意見することはなかった。むしろ、一人娘をわがままに育てたことを恥じた。

そして。

その日、火事があった。ヒロムが鍵を確認しに戻ったその夜、書斎近くと思われる場所から出火し、家は半焼した。焼け跡から、女性の遺体が発見され、鑑定の結果、薫子と断定された。出火原因については火元のないところからということもあり、不審火の疑いも含めて捜査が続けられていた。

 ケビンは何度も主人を起そうとした。が、薫子は起きなかった。ケビンは動物の本性から、火を恐れ、逃げ出した。近くの少女が焼け跡近くにたたずむケビンを拾った。が、けして慣れることがなかった。仕方なく出火後、五日目に整地が終わったその場所に戻した。直和も、耕造もケビンの存在すら、知らなかった。

執行部はその事実をヒロムに伝えることはなかった。