仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

王様の新居10

2009年10月14日 17時36分04秒 | Weblog
 次の日、ヒロムはおなじベンチに座っていた。
夕暮れが訪れ、街灯に明りが灯った。ヒロムは腰を上げて、新居に戻った。

 また、次の日、おなじベンチに座った。
その日は本を一冊、持ってきた。コリン ウイルソンの「アウトサイダー」だった。もう何度も読み返した本だった。その行間さえも想像できた。本が読めないほど暗くなるまで、ヒロムはじっと座っていた。

 三日目は、雨だった。
ヒロムは傘を差して、ベンチの近くの東屋で立っていた。女性の家を訪ねるわけでもなかった。
「ふー。」
溜息が漏れた。ヒロムは新居に戻った。

 四日目。
ヒロムはおなじベンチに腰を下ろした。今日、女性が現れなかったら、明日はやめようと思っていた。犬が足元に絡まった。
「ケビン。」
そう、呼んで頭を撫でた。
「ごめんなさい。」
女性の声がした。