アメリカでは、MLBの優勝決定戦に”ワールド”という冠を被せる。
だが、我ら日本人がアメリカと呼ぶのは通常は”北米”の事であり、中南米とは区別する。
同じ様に、ワールドシリーズも”北米シリーズ”とかMLB優勝決定戦と名前を変えるべきだし、メジャーも”北米プロ野球”とすべきだろう。実際に試合を見てると、そんなレヴェルですらある。
事実、今回のワールドシリーズは明らかに”ワールド”と呼べるものではなかったし、少なくとも、それを実証する様な次元のプレーとゲーム内容だった。でも、大谷と山本が出場したお陰で、日本では大きく盛り上がったらしい。
私は、最初から今回のWシリーズには多くは期待してはいなかったが、全くその通りになってしまった。
事実、ファンの質やマナーを見ると、「アメリカで野球は人気がない」でも書いたが、メジャーとは名ばかりで、堕ちる所まで堕ちたもので、日本シリーズと比べると、つくづくそう思う。
だがそれでは、高揚も緊迫も何も感じられないので、シリーズの”MVPは誰か?”という観点に絞って試合を見た。仕事があるので、朝に録画予約したものを夜に見る訳だが、高質で充実した日本シリーズと重なり、結局はダイジェスト版で確認する事の方が多かった事は言うまでもない。
MVPは誰の手に・・
米大手スポーツブックはWシリーズのMVPオッズを発表。25日の時点での1番人気は大谷で3~3.2倍、2位はNYYのジャッジ(5~6倍)、3位もNYYのソト(6~6.5倍)と続く。
4位以下は、ベッツ(LA、8~10倍)、スタントン(NYY、9~10倍)、マンシー(LA、11~17)、フリーマン(LA、26~28)、Tヘルナンデス(LA、26~29)、エドマン(LA、26~34)、コール(NY、26~36倍)と続き、故障上がりの山本由伸は201倍のオッズにまで下降する。
大谷一番人気の裏付けとして、”現在は常軌を逸するほど絶好調だ”とし、特に9/19以降は得点圏では、打率.783、OPS1.783、7HR、28打点とのデータを紹介していた。
結果論だが、今になって振り返ると、半分は当ってる様に思う。ここでも、データ(数字)は嘘をつくが、オッズ計算のアルゴリズムを提供する数学は嘘をつかない事が証明された。
日本の高校野球の如くまで成り下がったMLBだが、オッズを絡めて見ると、まんざら悪いものでもない。
因みに、私はスタントン(NYY)をMVPの一番手に推した。彼が第1戦でまぐれ当りすれば、そのままヤンキース自慢の殺人打線が火を吹き、一気にドジャースを焼き尽くすだろうと予想した。だが、ジャッジの絶不調と大谷の左肩脱臼だけは、全くの予想外であった。
但し、ジャッジのWシリーズでの脆さは想定内でもあり、大谷の不調も脱臼だけが原因でもない様に思える。つまり2人とも、パフォーマンスのサイクルが下降曲線にあっただけの事だろうか・・
予想通り、第1試合のスタントンは逆転2ランを放ち、出だしとしては順調だ。ただ、エドマン(LA)の鉄壁な守備と自軍の拙い守備に勝利を阻まれてしまう。続く第2試合も、自慢の打線は山本にほぼ完璧に封じこまれ、チームは連敗したものの、スタントンはラッキーなタイムリーを放ち、ツキが残ってる事を予感させた。
舞台をNYに移した第3試合でも2安打を放つが、チームは先制点を許し、そのまま敗れる悪いパターンが続き、3連敗。一方でLAは、フリーマンのWシリーズ4試合連発と絶好調で、敵地でも投打共にNYYを圧倒する。
後がない第4試合、LAはブルペンデーという事もあり、ジャッジの豪打も復活してNYYが圧倒するが、スタントンは無安打で独り失速気味なのが心配だ。
ここで、波に乗ったと思われたNYYだが、続く第5戦では、ジャッジの落球を機に3連続失策と、唯でさえ脆い守備陣が一気に崩壊。お陰で、4回まで無安打に抑えてたコールの好投も報われず、5回にまさかの同点を許す。
その後、終盤にはひっくり返され、意気消沈した打線も(第3戦に先発し勝利した)中1日で登板したビューラーにあっさりと息の根を止められた。
一方でスタントンは、1本塁打2打点と盛り返したが、8回1死1,2塁の打席では、初球のややボール球をあっさりと打ち上げ、反撃の芽を完全に潰してしまう。
あの場面は最低でもランナーを進めるか、繋ぐ必要があったのに・・・全く彼は何を考えて野球を仕事にしてるのか?私には理解に苦しむ。
ヤッパリ野球は守備が全て
今から思うと、第1戦が全てだった。
NYY伝統の殺人打線はLAの必死の継投で分断され、爆発する事もなかった。それと同時に、LAの自慢の守備陣を際立たせ、一方でNYYの守備陣の脆さを露呈しただけである。
結果は、LAがNYYを4勝1敗で圧倒した訳だが、両チームの守備力の差と、投打を含めたチームとしての完成度の高さがそのまま結果となった。
肝心のMVPは、4本塁打12打点とチームの総得点の約半分を叩き出したフリーマンが選ばれたが、(個人的には)堅実な守備でチームを窮地から度々救い、NYYに流れを与えなかったエドマンに影のMVPを挙げたい。
それだけ第1戦で魅せた彼のパフォーマンスは、私が一番人気に推したスタントンへの期待を押し潰すに十分過ぎるものであった。
タラレバだが、この試合をNYYが圧倒してたら、シリーズの流れと勢いは完全にNYに乗り移り、残り2試合はフラハティと山本の2枚看板が地元で待機するLAとても、非常にタフな闘いになったろう。
だが、LAの鉄壁な守備力を計算に入れ、数理解析で弾き出せば、どっち転んでもNYYに勝利のオッズは傾く筈もない。期待と予想は裏切られる為にあるが、ここでも数学は裏切らなかった。
”スターウォーズ”と称された東西の名門対決に敗れたブーン監督は”優れたチームはミスを的確に突いてくる。この終り方はとても残酷だ”と嘆いたが、敗れ去るチームは決まってその脆さを露呈し、その弱点を言い訳にする。そして、その終り方は残酷と言うより哀れでもある。
一方、”残酷”という点で言えば、守備の脆さこそが哀れであり、致命的な欠陥とも言える。少なくとも私が知る黄金期のNYYは、こんな哀れな負け方をしなかったし、地方予選の高校野球を見てる様な負け方にも思えた。
確かに、こうした大事な試合には悪夢が存在する。だが、そんな悪夢を打ち消すのも誘い込むのも、僅か1つのプレーに依る。
つまり、悪夢は最初にエドマンの堅実な守備を見て、NYYの脆い守備と拙い走塁に終始まとわりつき、最後まで棲みついてしまった。ウイルスが脆弱な宿主に棲みつく様に・・
つまり、”メジャーがメジャーでなくなる”日とは、こうした哀れな終り方の積み重ねにより到来するのだろう。
勿論、MLBが死滅する事はファンにとっては残酷かもしれないが、それ以上に、こんな哀れなワールド?シリーズを見せつけられる、我ら日本の野球ファンも実に酷である。言い換えれば、炭酸の抜けたシャンパン同様、拍子抜けもいいとこである。
ミスは大事な所で噴出する。
ミスのない人間が存在しない様に、ミスのない野球も試合も投球も存在しない。完全試合だって相手打線が打ち損じをしてくれるからこそ達成されるのであり、相手のミスが自身の成功に繋がる事もある。
ミスをミスのままで終わらせるか、ミスの本質を探り、ミスを手懐けるか、それともミスを笑って誤魔化すか、ミスを嘆くのか・・・
少なくとも、人類にミスをなくす事は不可能だし、ミスが有限個あろうが無限個あろうが、確実に存在する。それがどんな分布でどの様に存在するのか・・
そう考えると、ミスとは人類を進化させる為の1つの未解決問題なのかもしれない。
最後に
しばしミスは、勝敗を決する大きな要因となるが、数には(有理数と無理数の様に)割り切れる数と割り切れない数がある。
同じ様に、ミスにも許されるミスと許されないミスがある。
メディアは”ジャッジのミスから始まった”と騒ぎ立てるが、私に言わせれば許されるミスであり、2度目のボルピーの悪送球こそが許されないミスだ。
その後、コールは大谷を三振に、続くベッツも平凡な一塁ゴロに仕留め、嫌な流れを食い止めたかに思えた。が、ホッとしたのか、コールは一塁カバーを怠り、タイムリー内野安打に・・その後、2本の連続タイムリーを浴びて同点にされ、NYは全てを失った。
しかし、これを”コールのミス”と責めるのは酷すぎるし,一塁手リゾの怠慢と私は見る。リゾが一塁めがけ全力で走り込んでたら、コールのカバーは必要なかったかもだ。つまり、目に見えないギリギリのエラーとも言える。
因みに彼は、普段の走塁でも緩慢な所があるし、シリーズでもその傾向は目立ってはいたが、まさに肝心な所で露呈した。
改めて、野球の本質が(走塁を含めた)守備にある事を教えられた気がするし、勝負の分かれ目もその多くは守備に集中する。もっと言えば、野球の全ては守備から始まる。そうした基本中の基本がスーパーなパフォーマンスを生み、観客を魅了する。
かつて長嶋さんが国民的ヒーローになり得たのも、その守備力にある。王さんが積み重ねた867本の本塁打も霞む程のポテンシャルが、長島の守備には秘められていた。
その一方で、野球にはDHという不可解なポジションが存在する。もし野球が死滅するとすれば、”守らない”DHの存在が最後には決め手となる様に思える。
勿論、それだけエドマンの守備には華があったとも言えるが、昨今の衰弱したMLBを救うには、こうした堅実で華麗な守備のパフォーマンスとポテンシャルが必要なのではないか。
そう思わせてくれた、ワールドシリーズであった。
好調のソトには無理して勝負せず、ジャッジには徹底した外角の変化球。
そしてスタントンにはボール球を振らせる。
こうして強力ヤンキース打線を分断させた事もドジャース圧勝の大きな要因になったと思います。
ご指摘の通り
サード以外の内野陣の守備はまずかったし
右翼のソトもあの守備ではベンチの信用はないですよね。
野球は典型のチームスポーツです。
どんなに選手の力が優れてても
秩序を破ればチームはボロボロになります。
特に短期決戦ではその傾向は強くなる。
ドジャースの場合
伝統的にチームプレーが徹底してますから監督からすればヤンキースは対峙しやすかったと思います。
その秩序というのが
走塁を含めた守備なんですよね。
そして、守備の意識がチームプレーに繋がり、打撃にも影響する。
今回、NYYとLAを比較した時、先発のコマ数が多いNYYが有利と見ました。
つまり、先発のコマ数が足りないLAのブルペンはNYYの殺人打線の餌食になると
でも蓋を開けると、ブルペンを含めたLAの守備陣がNYYを圧倒した結果となりました。
NYYが勝つとの前提で、スタントンを1番人気に推したんですが、最初の段階で間違ってましたね。
全ては結果論ですが、改めて守備と走塁を含めたチームプレーが大切な事を思い知らされました。
原点回帰という点でみれば、悪くないシリーズでしたね。
いつもコメント有り難うです。