象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

中途に心が重くなるドラマ「絶叫」(2019)〜過ぎたフィクションは現実を超えるのか?

2024年07月28日 04時35分45秒 | 映画&ドラマ

 何気なくタイトルに惹かれて見たドラマだが、中途に心が重くなった。
 多分、現実にはありえそうにもない典型の社会派サスペンスだが、作られ感の度が過ぎて、逆に底知れぬ怖さすら覚えた。まさに、”フィクションが現実を超える”とはこの事だろうか。


孤独死か?それとも・・・

 小さい頃、理不尽な交通事故で弟を失い、父親は失踪し、家庭は崩壊する。更に、長男(弟)を溺愛していた母親は頭が狂ってしまい、出来の悪い娘に”アンタは弟と違い、いつも影が薄い”と、愚痴る毎日だ。
 母親からの愛情を何1つ受けずに育った陽子(尾野真千子)だったが、何とかして母を見返そうとするも、歪んだ心を持つ少女には、人生は重く、そして暗く、運命はあまりにも過酷すぎた。
 上京し、派遣オペレーターから保険の外交員へ転職するも、上司(要潤)と不倫関係に陥り、追い詰められた彼女は枕営業や自爆営業をして成績を水増しする。だが、若いセールスレディーを食い物にしていた上司は左遷(実質上の解雇)され、本人もクビになる。

 借金だけが残った彼女は闇金に縋るも、紹介された仕事はデリヘル嬢。一方で、母親は生活保護の申請を受けるも、市は”(東京で仕事を持つ)娘に扶養能力がある”として受け付けない。
 仕方なく、デリヘルの仕事を続け、母親に仕送りする生活が続く。そんな中で出会ったのが、元ホストで住所不定無職のDV男だった・・・
 と、ここまで書けば、現代社会の闇へと知らず内に足を踏み入れていく、それまでごく平凡だった女の、急降下して転げ落ちる悲惨な人生が容易に想像できよう。だが、これからの展開がシリアスでかつユニークに映る。

 その後、追い打ちをかける様に、”デリヘル狩り”に遭い、売上金を奪い取られそうになるが、そこで(運悪く)出会ったのが、”貧困ビジネス”で不正に稼いでいたNPO法人代表の神代(安田顕)である。
 闇社会に生き、善悪を超越した得体の知れない思考を持つが、薄気味悪い奇怪な優しさも兼ね備えていた男は、彼女の不遇に同情し、一旦は女を逃すも、陽子は逆に、同棲男の保険金殺人を持ちかける。
 彼女は神代の愛人になり、連続保険金殺人に手を染めていく訳だが、フィクションと割り切ってみれば、そう悪い展開でもない。

 一方で、都内の一室で発見された女性の遺体は、半年以上も放置されたせいか、原形を留めてない程に腐れ果て、多数の猫に食い荒らされていた。更に、その遺体は鈴木陽子のものと思われ、地元の女性刑事(小西真奈美)が彼女の死の謎を追いかける内に、陽子が辿った壮絶な人間模様が次々と明らかになる。
 ドラマはこのシーンで幕を開けるが、警察が推測した様に、私も不幸な女の孤独死だと思った。が、たとえ孤独死ではないとしても誰かに殺害されたと最初は予想した。
 一方、神代が何者かに惨殺され、事件は泥沼化するかに思われたのだが・・・
 やがて捜査が進む内に、彼女が神代と組み、3件の(全く似た手口の)連続保険金殺人に手を染めたであろう事が判明すると、ドラマは急展開を迎える。


最後に

 ただ、ここら辺の展開は”ありえない感”が強すぎて少し興ざめにも映ったが、彼女の連続殺人へと傾倒する心理がどの様に働いたのか?に集中すれば、そこまで気になる程の事でもない。つまり、彼女は彼女なりに自分の人生を謳歌し、自らを人生と運命の地獄絵から開放していたのだ。

 4話完結であるが故に、中だるみもなく、重々しい緊迫感の連続で、見てて疲れる事はなかったが、フィクションもここまで来ると、妙に心が重くなる。
 欲を言えば、結末を不透明にしたまま幕を下ろしてもよかった。つまり、鈴木陽子を暗い運命と重たい人生から開放したまま、ドラマを終えてもよかったのではないか。
 予想してた事だが、最後は無理にフラグを拾いすぎて、策に溺れた感が残り、少し残念にも思えた。

 一方で、”毒親・ブラック企業・孤独死・デリヘル狩り・DV男・貧困ビジネス・監禁殺人・枕営業”など、現代の闇で検索すれば次々と出てきそうな言葉を凝縮させて作った様なインスタントなドラマだが、逆にリアルを超えた怖さが漂ってくる。
 それに、神代がポツリと漏らす(監禁や奇人に喩えた)”換金””棄人”という言葉もよく考えられている。更に、その神谷を演じた安田顕の怪男ぶりにも頭が下がるが、実に幅の広い役をこなす俳優さんだと感心する。
 一方、際どい風俗嬢役を微妙に演じた尾野真千子も迫真に迫っていた。

 フィクションに特化して作られたドラマだが、逆に現実を超えた重々しさを提供してくれた。日本映画が復活するとすれば、アニメや漫画ではなく、こうした現代社会の闇と日常の暗部を描くフィクションもので勝負するのも面白いと思う。
 という事で、心が中途に重くなるサスペンスでした。



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