象が転んだ

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「マーフィーの法則」と”アルアル”の不思議〜バタートーストの物理学

2023年06月01日 04時08分02秒 | 数学のお話

 「IH調理器とガスコンロ」でも書いたが、先日、2010年製の古いIH調理器が壊れたので、ヤフオクで中古のIHを落札した。
 その間、1998年製の古いカセットコンロを復活させたら、火を消し忘れるという大チョンボを犯し、火事になる寸前だった。
 そこで、ガスコンロをしまい、壊れた筈のIH調理器の電源をダメ元で押してみると復活したではないか。
 これと同じような事が、タブレットでも起きたのだ。

 昨年の6月に格安(送料込1500円)で落とした10インチの中華タブレット(CLIDE-A10)のバッテリーが僅か数カ月程で逝ってしまったので、一周り小さな8インチのウィンドウズタブレット(IconiaW4-820)でアマプラを見ていた。
 この台湾製の(優秀な筈の)タブレットだが、Win8.1という中途なバージョンでWin10へのアップデートができない。が故か、訳わからない不具合に度々遭遇するようになる。新しくタブレットを買おうとも思うが、安くていいのが見当たらない。
 そこで、縁担ぎでもないが(お釈迦になり)半年程放置してたタブレットの電源を(これまたダメ元で)入れると、何事もなく起動するではないか。


バタートーストの物理学

 「マーフィーの法則」には色んなバージョンがあるらしい。
 一番有名なのは、”失敗する可能性があるものは必ず失敗する”というのだが、それ以外にも”壊れた機械は修理人が来た時には直っている””トーストはバターを塗った面から着地する”というものもある。
 これらはユーモアに富んだ冗談半分の経験則にも思えるが、実際にそういう事が起き易い事が物理学的に証明されてはいる。
 一方で、精神科医の中には(先入観による非合理理的な心理現象である)”認知バイアスの例として捉える事ができる”との声もある。
 ”高価なものほどよく壊れる”という自虐的悲観論を具現化したものと捉える事もでき、その一方で”常に最悪のケースを想定すべき”という観念は現実問題としても重要視される考えでもある。
 勿論、(主観に基づく)経験則や(特殊な事例から一般則を見出そうとする)帰納的推論が陥りやすい実例でもあり、”壊れるものの大半が高価なもの”である筈もないし、”雨を振らせたいから洗車をする”人はいない。ましてや”失敗する為に行動を起こす”人なんてどこにもいない。

 因みに、労災における経験則の1つである「ハインリヒの法則」では、1つの重大事故に背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常(ヒヤリ)が存在する。
 これも危険予知の重要性をデータ化した法則だが、”危険な行為こそが労災の第一の原因である”というハインリヒの前提は裏付けも証拠もなく、疑問が残るとされる。
 但し、”落としたトーストがバターを塗った面を下にして着地する確率は比較的に高い”という研究論文には、1995年のイグノーベル物理学賞が授与されている。

 そこで「バタートーストの法則」を説明する。以下、DragonFlareTrailのコラムから簡潔に抜粋です。 
 トーストは、その重心よりはみ出して置かれた場合に床に落下する。つまり、トーストの回転角θが90≦θ≦270の時、バターが塗ってある面が下になる。これは、剛体の回転運動方程式を解く事で導ける。
 まず、机から床までの高さをh、トーストの形を直方体としその長さを2a、トーストの横方向の初期速度をV、更にトーストがテーブルの端からはみ出した長さをa+aδ=a(1+δ)とする(上図参照)。
 この時、運動方程式はδ>{1−√(1−12α²)}/6α、α=π²/12(h/a−2)で与えられ、この式に一般的な値であるh≒75cm、2a≒10cmを代入すると、aδ≦3cmの時、バター面が下になる事が導ける。
 つまり、トーストを中心から少しはみ出しておくと(ココ肝心です)、悲劇は必ず起きるのだ。

 因みに、V≠0の時はVが十分速いとトーストは回転せずに落ちる為、バター面は下にならない。ただ、それに必要な速度Vは約1.6m/s以上とされるが、日常的にはありえない。
 故に、横方向の速度Vに依存せず、上の議論が結論される。
 しかし実際には、トーストのはみ出し距離によっては必ずしもバター面が下にならない。つまり、はみ出し距離が少し大きくなるとバター面が上になり、更にはみ出すとバター面が下になる。
 これら挙動の正当性は実験的に確認されている。但し、トーストの挙動は力学的な方程式から予測可能で、現実の挙動もその理論に従うと。

 では、私が偶然にも同じ時期に二度とも経験した”壊れた機械(IHとタブレット)は修理人が来た時には直っている”の法則はどう説明できるのか?
 この法則の裏を返せば、”直った筈の機械は修理人が帰った時には壊れている”となる。
 つまり、直ったり壊れたりの繰り返しである。一度壊れた機械は、その後直ったり壊れたりの繰り返しで、やがては完全に逝かれてしまうとなるのだろう。
 事実、壊れた筈の調理器は過去(5年ほど前)にも一度壊れ、再び(偶然にも)復活していたのだ。
 流石にこれは、数学でも物理学でもエドワード・マーフィーJrでも証明は無理だろうが、近い例として、”急いでる時に限って赤信号に引っかかる””間違って電話をかけた時に限ってすぐに相手が電話に出る””こぼしたお茶は必ず大事な書類の方に流れる”など、印象に強く残ってる苦い経験が認識に強いバイアスを掛けてるのだろう。
 他には、”バカほど目の前の取説を読まない””車高と知能は比例する””乗ってる車のタイヤの扁平率はオーナーのIQに比例する”などは経験からしても、面白いように当てはまる。


最後に〜ポニーテールと禿げ?の法則

 2012年のイグノーベル物理賞は、”ポニーテールと髪の繊維束の統計物理”というタイトルの論文であった。
 ”ポニーテールは禿げる”というのは有名は話だが、これはポニーテールを髪の毛の束と捉える事で説明できそうだ(多分)。
 つまり、ポニーテールの繊維束に働く力を考察する事でポニーテールの形状を説明できるという、この研究論文から証明できる。
 この理論モデルでは、ポニーテールの形状は①繊維束に対する曲げ弾性の抗力②繊維束に働く重力③繊維束の張力④繊維束間に働く圧力、の4種の力のバランスで決まると仮定する。
 これらの力のうち、4つ目の圧力項(髪の毛の繊維間に働く反発力)の寄与が最も大きく、これを正しく評価できるようになった事がポニーテールの形状を予測出来るようになった最大のポイントだとされる。
 実際、論文で導出された微分方程式を解く事でポニーテールの形状を求める事ができる。こうした解析結果から、ポニーテールの付け根では①抗力と④圧力のバランスが重要で、またそれ以外の場所では②重力と④圧力のバランスが重要な事が解っている。

 言い換えれば、抗力+重力+張力+圧力の4つの力が毛根に悪影響を与え、ハゲを加速する。
 可愛く思われようとポニーテールにした結果、額が禿げ上がり、ハゲを隠す為にポニーテールにし、更に禿げるという矛盾。化粧を重ねる度に、肌が荒れ、玄武岩みたいな肌になる矛盾と同じである。
 故に、「マーフィーの法則」で言えば、”女性は化粧をした所から劣化する”という事になろうか
 つまり、美しくある為には”何もしない”事が自然法則における最適解なのかもしれない。
 事実、”小さな親切=大きなお世話”じゃないが、人によく思われようとしてした行為が誤解を招くとはよくある事で、これも「マーフィーの法則」と言えるかもしれない。
 そういう事が解っていながら、人は余計な事をやりたがる。オモテナシもお節介もオリンピックも冠婚葬祭も、やればやる程にトラブルを招く。

 全く、私たちの日常には”よせばいいのに”で溢れかえっている。
 ただ有り難い事に、数学と力学の法則は我々の日常で起こりうる事の大半を証明してくれる。そういう視点でマーフィーの法則を見つめると、偶然では説明できない何かを伺い知る事ができそうだ。
 偶然だと思ってた事が実は必然のなす技であったり、必然だと信じてた事が単なる偶然であったり・・・
 数学は不完全である。
 それはゲーデルによって証明された。
 故に、不完全であるからこそ完全を導き出せる。一方で完全を求めると不完全に行き着く。
 そう考えると、”よせばいいのに”も数学で証明できるのだろうか。



2 コメント

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tomasさん (象が転んだ)
2023-06-01 15:33:34
”少しはみ出して"
というのが、裏面で着地するバタートーストの条件で、それ以上だと、表と裏を交互に繰り返す。
それすらも物理学で説明できる。

数学単体では不可能に見える事も物理学と融合すれば説明できる。
勿論、その逆も真なりですが、
言われる通り、ジョークすらも証明してみせようとする知の好奇心に限界は無い様に思えてきますね。

因みに、イグノーベル賞には色んな研究論文ありますが、ユニークなのをできる限り紹介しようと思います。
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トーストの中心 (tomas)
2023-06-01 11:12:45
より3センチ以内であれば
バタートーストの物理学が成り立つし
それ以上であれば、トーストの裏と表を交互に繰り返す。
つまり
表→裏→表→裏→・・・を延々と繰り返すんでしょうか。
更にそうした挙動も方程式で説明できる。
力学と数学が融合した結果
身の回りの偶然が物理学で説明できる。
うーん恐るべし
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