象が転んだ

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ウェディングケーキを68等分するには?〜正17角形の作図可能性”その2”

2023年07月07日 13時15分55秒 | 数学のお話

 TVドラマ「やまとなでしこ」 (2000年、フジTV系)でウエディングケーキを68人で分けるというシーンがあったそうだ。
 が、私は全く覚えていない。というのも女優として全盛期を迎えていた松嶋菜々子さんがあまりにも美しすぎて、数学なんてどうでもよかったのだろう。
 流石の数学の美しさも、若い女の可憐さには遠く及ばなかったのである。
 事実(ウィキによれば)、全11話で平均視聴率26.4%、最高視聴率は34.2%。この(数字系)コメディドラマとしては、1977年9月26日以降では史上2番目の記録であり、2000年以降のフジTVの恋愛ドラマとしては歴代1位の世帯視聴率という快挙であった。


68人分のウエディングケーキ

 因みに、2020年7月に特別編が何と20年ぶりに放送されたが、これには”ウェディングケーキを68等分するシーン”が出てくる。
 数学者になる夢を諦め、魚屋の跡継ぎとなった中原欧介(堤真一)は、数学研究の仲間の結婚披露宴に出席する。
 新郎の岡本が”おーい!そこの誰か!このケーキを人数分、均等に分けてくれ”と叫ぶ。
 参列者の1人が勝手にケーキを切ろうとすると・・・
 ”それじゃ、クリームとスポンジの比率が均等になんないだろ”と、仲間の1人。
 ”欧介、お前の意見は?”と、もう1人の仲間が尋ねる。
 欧介は、”68人分か・・・17の倍数だから、ガウスが証明した正17角形の作図の応用をすればいいんじゃないかな?”と呟く。
 ”おぉ〜<数学の王>ガウスの法則か”と誰がが叫んだ。
 新郎は”おぉ!やっぱ欧介だ♪”と妙に納得するのである。

 つまり、丸いケーキの上に正17角形を書き、その中の1切れを半分にすれば34等分になるり、更に半分にすれば68等分になる。
 故に、正17角形が描ければ問題は解決である。が、わざわざガウスの発見を使う必要があるのだろうか?
 それに、ウエディングケーキに載せられたイチゴの数は68個よりも多い。
 現実問題として、68等分した扇型のケーキってのは細すぎて切りにくい。それにスポンジやクリームが均一に切れる保証もないし、そもそも見栄えが良くない。
 但し、丸いケーキではなく四角いのであれば、最初に17対4の長方形型のケーキを作り、68等分すれば簡単だろう。が、17:4の比率のケーキも見栄えは良くないし、やはり無理がある。

 結局、ドラマではその後、均等にそれも見事なまでに直方体に切り分けられたケーキが登場するが、写真(下)で見る限り、約2:1の比率みたいだ。
 という事は、68等分=17×4=(8.5×2)×4=8.5×8と考えれば、8.5:8の比率は17:16に等しいから、正方形に近いウェディングケーキの縦aを17分割、横bを16分割し、分割されたケーキを4個くっつければいい。
 数式で言えば、((a/17)×(b/16))×4個=ab/68等分となる。
 因みに、縦横のそれぞれ分割は”三角形の相似”を使えば簡単に出来る。「1ポイント数学」を参照すれば、数学嫌いでも理解できますね。

 新郎の要求は、ウェディングケーキを68個分均等に分ける事だから、分割し過ぎても何ら問題はない。
 つまり、結婚披露宴の場で数学ネタを披露するんであれば、こっちの方がずっと簡単で、ガウスの17等分で頭を悩ます事もない。それに、現実的でもあるし、(初歩的だが)数学的でもある。

 しかし結果的には、欧介もガウスも数学も殆ど関係なしという、少し拍子抜けの披露宴になったが、恋愛コメディにありがちな平凡なオチではある。が、数学コメディとしてみれば、空疎すぎる。 
 ドラマだから、ここでミーシャの歌声が流れ、歓声が沸く。更に、めでたく桜子(松嶋菜々子)と結婚した欧介だが、数学者になる夢を追いかけ、NYヘ留学するというエンディングも、今に思うとやはり、アホ臭である。

 ハッキリ言うが、数学はそんなに甘くはないし、美女を横に置いて集中出来る様なヤワな学問じゃない。数学を極めたかったら、何の娯楽も刺激もないド田舎へ行け、いや自然のど真ん中に籠もり独りで修行しろ。
 定規とコンパス、いやアイデアと紙と鉛筆だけで出来るのが数学というシビアな学問だ。
 どうせNYへ行っても、すぐに行き詰まり、シャブ中になり、場末の娼婦と遊びまくるだけだ。


正17角形を描いてみよう

 話をウェディングケーキから正17角形の作図に戻します。
 幾何学的に言えば、cos(2π/17)の長さを正確に作図できれば、正17角形の作図は可能である。
 「正17角形の作図と・・・」に寄せられたコメントにあるように、まずは、半径1の単位円の中心Oからx軸上に沿ってcos(2π/17)の長さを取り(取れればの話だが、ココ重要です)、その点を通りx軸に垂直な線と円との交点を円弧で結ぶと円を17等分する円弧となる。
 後はコンパスを使い、円弧の長さをとり、次々と正17角形の頂点を求める事が出来る。
 一方で、関数電卓を使い、cos(2π/17)の値(=0.9324722294)を得ても、座標軸上にcos(2π/17)の点を正確に取る事は不可能ですよね。勿論、ケーキを正確に2つに切り分ける事も、ある意味で不可能ですが・・・

 では、cos(2π/17)の値を知らなくても円を17等分する方法はないのだろうか?
 19歳のガウスは、その値を知らなくても17等分出来る事を発見した。ハテハテ、どんな凄ワザを使ったのか?
 実は(作図だけなら)角の4等分(45度)ができれば、中学生レベルでも可能なのだ。つまり、線の2等分や4等分はコンパスだけで出来るし、角の2等分も4等分も同様である。
 以下、作図法を簡単にまとめます。

 まず、XY座標にOを中心とする半径1の単位円を描き、X軸とY軸との交点をそれぞれA,Bとする。ここで、OB/4の点をCとし、更に∠OCAの4等分線を引き、OAとの交点をDとする。つまり、∠OCA=αとすると∠OCD=α/3となる(図1)。
 次に、∠ECD=45度になる様に、ADの延長線上にEをおく。点Cから線分CDの垂線を引き、2等分すれば出来ますね。更に、線分AEを直径とする円を書き、OBDとの交点をFとする。この円は、AEを2等分し、その2等分点を中心にAまでを半径とした円を描けばいい(図2)。
 最後に、Dを中心にDFを半径とする円を書き、OAとの交点をGとし、Gを通り、OAに垂直な直線を引き、元の単位円との交点をHとする(図3)。
 すると、∠AOH=∠GOH=3×(360°/17)となる(らしい)。つまり、点Hは単位円を17等分した3番目の点より、コンパスで弧AHをとり、5度繰り返した時の単位円上の点をMとすると、∠AOM=6×{3×(360°/17)}−360°=360°/17となり、コンパスで弧AMをとって16回繰り返せば、全17個の頂点を得る(図4)。 


正n角形の作図可能性

 実は、この作図法はガウスではなく、ヨハネス・エルチンゲルにより、1800年頃に見つけられたそうだ。ガウスが(目盛のない)定規とコンパスのみで正17角形が作図可能である事を発見(証明)したのは、1796年3月30日の朝だから、作図したというより、cos(2π/17)をルートと四則だけで表記した事で、”一般論”の下で、作図可能性を証明したと言える。
 一方で、cos(2π/n)を正確に作図する為には、その長さをコンパスと定規だけで記す必要がある。これは、cos(2π/n)の値がルートと四則だけで表記される事と同義であり、もっと言えば、2次方程式を解くだけで算出できる。
 つまり、19歳の青年は既に、x¹⁷−1=0が平方根のみで解き得る事に気付いてた。
 更にガウスは、正n角形の作図可能の必要十分条件として、n=2ᵐF₁⋯Fₖとなる非負整数mと互いに異なるフェルマー数F₁,⋯,Fₖが存在する事も証明します。
 因みに、作図可能なnは、小さい順から3,4,5,6,8,10,12,15,16,17,20,24,30,32,34,40,48,・・・
 更に、nが素数という条件を加えると、作図可能な素数nはフェルマー素数(2^(2ⁿ)+1の形をした素数)に限られ、フェルマー素数は3,5,17,257,65537の5つしかない事が知られている。
 当時、フェルマー素数は無数にあると思われてたが、ガウスは17等分を発見した3年後の1732年に、2^(2⁵)+1=4294967297=641×6700417と分解し、n≧5の時はフェルマー素数が存在しない事をも証明します。
 こうなるとおバカな私には、お手上げですね。

 しかし、この様なnは、(xⁿ=1の解である)1の原始n乗根ζₙのガロア群の構造が、2次拡大の繰り返しによって得られる事が知られている。つまり、”作図可能な線分の長さの集合が1つの体をなす”とも言えますね。
 一方で、「正17角形の作図と・・・」に寄せられたUNICORNさんのコメントを借りれば、正n角形の作図可能性は、”有理数体Qを2次拡大する有限回の繰返しで作る拡大体Kn(Q=K₀⊂…⊂Kn)の中にある数でのみ作図可能である”事から、有理数体Qを基礎体とし、ζₙ=cos(2π/n)+isin(2π/n)を追加した体Q(ζ)の拡大次数が2ⁿとなる必要があります。
 これは、作図可能な点を元に描いた円や直線の交点から新しい点(や線分)を繰返し求めるという幾何学的な行為が、2次の方程式を次々と連立させ、その解を求めるという代数学的行為に他ならない。
 つまり、作図という(昔ながらの)幾何学的な問題は代数方程式の解法に、そして、代数学の体の理論(ガロア理論)に置き換える事が出来る。
 まさに、19歳のガウスの発見は数学史上に残る壮大なるロマンだったとも言えます。


最後に

 話は少し逸れましたが・・・
 では、どうやってガウスは、cos(2π/17)を算出したのだろうか?
 この計算は長くなるので、次回に持ち越しです。
 因みにガウスは、この複雑なる計算をも”簡単明瞭で即座に出来た”と語っとる(「近世数学史談」より)。
 そのガウスすら不可能だった円の7分割だが、実はケーキで7分割した作品がある。これも後で記事にする予定です。



2 コメント

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スチュワーデス物語 (tomas)
2023-07-08 10:32:16
このドラマは
数学コメディや恋愛コメディというよりも
スチュワーデス物語って感じでした。
数学ネタなんてほとんど蚊帳の外で
松嶋菜々子がいてこそのドラマでした。

結局
ごく普通のケーキが配られたんですよね。
せめて17等分したケーキが配られても良かったのに(--)
その1つのケーキを4人一組で食えば、何も問題なしって答えはどーでしょー 
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tomasさん (象が転んだ)
2023-07-08 13:59:20
ケーキの等分割についてですが
これに関しては、現実が数学を凌駕しますね。
結局、68人の参列者の数が予め判ってれば、ロールケーキ型にして68分割すればよく
そうでなくとも現実的に考えれば、数学を無視した奇抜な分割法の方が披露宴では受けるかもです。

結局、披露宴には数学は及びじゃないって事なんでしょうね。
という事で、tomasの解答に☆4つです。
では・・・
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