アイルランド対日本。ヤッパリ奇跡は起きた。まさかの事が起きたのだ。
グループリーグとは言っても、生で見たかったな。でも、100%負けると思ってたからとタカを括ってた。ホントに私は読みが甘い、いや甘すぎる。
試合は、点取りではなく、点を取らせない展開だった。
日本が最悪でも勝ち点をとるには、このプランしかなかった。そして、そのプラン通りにゲームは進んだ。
世界ランク2位(開幕時は1位)のアイルランドは、後半は1点も取れなかった。世界1位の常連であるオールブラックス(NZ)を下した、あのアイルランドがである。
消去法という名のプラン
消去法でいけば、世界ランク9位(同10位)の日本がアイルランドに勝つという”あり得ない”プランは捨てるべきだった。勿論、引き分けすらもあり得ないが。
唯一残ったプランが、負けても得点差を7点以内にし、勝ち点1を取る事だった。
そこで得点差を7以内にする為には、先ずはアイルランドを20点以内に抑えないといけない。
多分、アイルランドの強力DF陣からトライをとる事は不可能に近いから、きめ細かい”潰し”で相手の焦りを誘い、反則を拾う作戦だ。
事実、タックルの成功率は、アイルランドの88%を上回る、93%にも及んだ。
ペナルティーゴール(PG)は3点。5つの反則を誘ったとして、そのうち3本を決めれば9点。アイルランドの世界一の破壊力からすれば、3つのトライで抑えるのが限度だろうか。
しかし、(5+2)×3=21点。21−7−9=5で、5点足りない。
という事は、何としてでもアイルランドのトライを、2つに抑える必要がある。
つまり、(5+2)×2=14点が限度。という事は日本は殆どが守り一辺倒になる。しかし、”攻撃的な守り”にチームが徹する事で、相手の焦りと動揺くらいは引き出せる筈だ。
仮に、アイルランドを2トライの14点以内に抑えれば、7点差以内にするには7点取ればいい。つまり、PG3つで追いつける。
他力本願だが、相手が2つのCK(コンバージョンキック)の内1つを外せば12点となり、PG2つの6点でいい。そう考えると、勝ち点1を獲得する事は、現実味を帯びてくる。
つまり、自分たちもトライを出来ないが、相手にも点を取らせない作戦。
相手の焦りを誘導し、反則を1つ1つ拾っていく。それ以外にプランはなかった。
想定内の展開と想定外の展開と
事実、ゲーム展開はその通りになった。前半アイルランドは2つのトライを決め、2つのCKの内1つを外し、12点。
一方日本は、5つの反則を誘い、NOトライだが、PGを3本決めて9点。出来すぎだが、想定内の展開で前半を9−12で終えた。勿論、アイルランドの強さも想定内であった。
勝利した事も奇跡ではあるが、前半を3点差で終えた事も奇跡であった。
後半は全くの想定外だった。日本(福岡)が念願のトライ(後半18分)を決めると、アイルランドは一気に意気消沈した。
かつて不沈艦大和がそうであった様に、アイルランドは何も出来ずに沈んでいった。
堅固な筈のアイルランドにミスも目立ったが、それは結果論に過ぎない。”ミスをするのも誘う”のも勝負の一つなのだ。
その後日本は、CKとPGを決め、後半は逆に10−0とアイルランドを圧倒した。
この試合で日本は6つもの反則を誘い出したが、PG4つで12点とこれまた出来過ぎでもあった。
一方、アイルランドの2トライは想定内だったが、後半の失速は全くの想定外だった。勿論、福岡選手のトライも想定外だったが。
しかし、もし後半開始早々アイルランドがトライを決めてたら、全ては終わっていた。数学的消去法も生きる事はなかった。アイルランドのミスの多さが、メディアで指摘される事もなかった筈だ。
そういう意味では、トライを決めた福岡選手がアイルランドにトドメを刺した結果となった。
数学的思考が奇跡を生んだ?
数学的思考は想定内(収束)という条件が必須である。想定外(発散)が起きたら、数学力は生きてこない。
しかし、日本の奇跡的勝利を呼び込んだのは、まさしくプランに忠実なチームプレーに尽きる。
数学的思考がプランを生み出し、そのプランを寸分の狂いもなく実行した結果、想定内と想定外が融合し、奇跡が起きたのだ。
大げさに言えば、全ては数学的思考から始まった奇跡であり、結果なのだ。
もし、アイルランドに勝とうという欲と色気が少しでもあったら、奇跡は起きなかった。プランは脆くも崩壊し、太平洋戦争と同様に、悲劇と惨劇だけが残ったであろうか。
そういう意味では、非常に特異なゲームだったとも言える。
最後に
試合後のアイルランドの選手の態度は立派だった。選手全員で日本チームを称え合った。ノーサイドの精神はこういう所に息づいてるのだ。
数学が美しい様に、彼らも美しかった。奇跡を起こした真摯な日本チームよりも、紳士的で美しかったかもしれない。世界のトップのプライドが、そこにはあった。
こういった4年に一度の大きな大会になると、感情を剥き出しにし、買っても負けても派手に泣き喚くアスリートが多い。
特に女性の場合は感傷的でヒステリックな生き物だから仕方ないが、陳腐なナショナリズムを掲げ、勝利の感動や敗北の屈辱に支配される選手も多い。
そんな中、グループリーグと言えど、アイルランドにとって屈辱には変りはなかった。しかし、彼らはその屈辱に浸る事はなかった。
世界のメディアも紳士的な報道が殆どだった。”衣食足りて礼節を知る”ではないが、元々アッパーミドルの階級から生まれた、ラグビーのノーサイドの精神は筋金入りなのだ。
ノーサイドの精神とラグビーに乾杯!
アイルランドも3つトライを奪えば、楽勝と見てたんだろう。誰もがそう思うよ。でも、FW陣はよく止めたな、あのアイルランドの無骨な攻撃を。これこそ奇跡に近いね。
MVPはFW(フッカー)の堀江選手で17のタックルが評価された。でもチーム全員がMVPだよ。
俺もノーサイドに乾杯!
でも、次のスコットランド戦は気をつけないと。少しでも油断するとアイルランドの様に沈没する事もあり得るから。
それに前回は、中3日で臨んだから完敗だったけど、1つ1つ丹念に潰していけば負ける事はないと思う。ここまで来たら、ベスト8進出でエディーを見返してほしいな。
”アンタがいなくても勝てるんだよ”って。
そんな中で日本は外国人と上手く融合する事で組織力を大きく進化させたお陰で、次々と奇跡を起こすチームになりました。
これも日本人の穏やかな気質がなせる技がと思います。Rホワイティングさんの著書『和を持って日本となす』を捩って、和を持ってラグビーとなす ですかね。
私が大学の頃は、ラグビー人気で多少は湧いたんですが、すぐに下火になりました。早明戦や釜石や神戸製鋼の黄金時代もあったんですが、盛り上がるのは年に一回だけでした。
でも動きの激しいスポーツは見てて興奮しますね。改めてラグビーの持つ本質の凄さを痛感してます。