象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

普通に怖い?〜「ドアロック」に見るホラー映画の王道とは

2022年12月19日 15時31分18秒 | 映画&ドラマ

 ホラー映画というのは、怖すぎても怖なさ過ぎても滑稽に安っぽく薄っぺらに映る。
 如何に、現実的な視座で”普通に怖い”を映し出す作品が傑作となりうる事がある。つまり、普通にシンプルに怖いホラーほど怖いものもない。
 別に韓国映画を絶賛する筈もないが、今やアジアNo.1の領域にある韓国映画はホラー映画の本質もよく見抜いてると思う。
 日本のホラー映画も一時はハリウッドにリメイクされたりと、絶頂の時期もあったが、今では策に溺れすぎたせいか、お嬢様向けの変態動画を見てるようでもある。

 今日紹介するのは「ドアロック」(2020)という典型の中堅ホラーだが、ジャパニーズホラーの火付け役になった「リング」(1998、東宝)に比べてキャスト的には見劣りするが、実にシンプルで”普通に怖い”秀作に思えた。
 一人暮らしの女性のマンションの一室に、ある男がドアロックを解除し、忍び込む。女は帰宅後に見つける不審な痕跡や朝起きた時の誰かがいた気配を察し、警察へ通報するも証拠不十分だとして相手にしてもらえない。男の歪んだ欲望や殺意と変わり、やがて暴走の時を迎える・・・
 勘のいい人なら、マンションとドアロックのニ文字だけで、ある程度の犯人像は推理できそうだが、この映画は幼稚な犯人探しでも、シリアスなサイコ系ドラマでもない。つまり、現実に何処にでも起こり得る様な日常の当り前の恐怖である。

 無能過ぎる警察を指摘するレヴューもあるが、肝心な時ほど当てにならない警察の描写は日常そのものであり、ハリウッド映画みたいに敏腕のイケメンデカが登場する筈もない。彼らは仕方なく刑事になり、仕方なく捜査をしてるのだ。
 つまり、自分に振りかかった火の粉は自分で振り払うしかない。これも日常の現実と同じである。
 この悲劇の主人公は、銀行の契約社員で窓口を担当する。見た目はパッとしないが、却ってそれが銀行の日常のリアルを忠実に醸し出す。
 展開も登場人物も非常にシンプルなので、これ以上の説明はしないが、不思議と気になったのが主演女優のコン・ヒョジンさんだ。

 パッと見はそれ程の美人でも可愛くもないが、知らずうちに男を惹きつける何かを彼女は持ってるような気がする。
 自分では気が付いてないが、仕事が出来るクレバーな女性はどこでもコンスタントにモテるのだろう。こういう女性ほどストーカーや変態オヤジに付きまとわれるのだ。
 そういう私も注意すべきであるが、それ程までに魅力的に映った女性でもあった。

 昨今の日本のホラー映画も、こうした中堅どころの演技派女優を積極的に採用すべきと思う。日本アカデミー賞を獲得した「新聞記者」(2019)のシム・ウンギョンさんも地味ながら包み込みたくなる程の不思議な魅力を醸し出していた。
 韓国女優といえば色白系の美人が多いが、中堅どころにも実力と深みのある女優が(我こそはと)構えている。
 一方で日本では、アイドルがそのまま女優を兼ねるケースが多いから、パッと見はいいが必ずと言っていい程に飽きてくる。


最後に

 正直いうと、韓国映画はあまりにもシリアスすぎて敬遠する傾向にあるが、こうしたシンプルで実直な展開にすれば、予算を掛けなくとも安定した質感の作品は可能だし、韓国映画の底力を改めて思い知らされたような気がした。

 因みに、映画に登場するドアロックはカードキーと暗証番号によるものだが、(第三者らに)背後から暗証番号を見られるなどの恐れがあるという。
 マンション住まいの人であれば、こうしたセキュリティーの盲点には日頃から十分に注意してる筈だが、私なんかアパートの経験すらないので、犯人が簡単に女の部屋に出入りするシーンは滑稽にも感じた。それに頻繁に男が出入りしてるのなら、(繊細な女性なら)匂いである程度は察するだろう。
 特に田舎から上京してきた女性が一人でマンションに住むとなれば、とても勇気がいる事ではある。異性の誘いを軽く流せる女性ならトラブルは少ないかもだが、そうでなくともセクハラやパワハラが当り前の様に行われる日常では、対策に練りすぎるという事はない。

 「真夜中の訪問者(その14)」でも書いたが、私も子供の頃、(当時は珍しかった)連続強盗殺人犯に侵入され、殺され?そうになった経験があるから、他人事には思えない。
 しかし、日常では起こり得ない様な事が起きるのも日常の一部であり、私達はそんな危険な日常の中で生きてるのである。
 あり得ない事が起きるのもあり得る事であり、映画の中で起きてる事が実際に起きても何ら不思議ではない。
 私は様々な危機をかい潜ってここまで生き延びて来た様にも思える。
 故に、こうした日常製の濃いホラーやサスペンスに惹かれるのだろうが・・・



8 コメント

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Unknown (1948219suisen)
2022-12-20 14:31:00
連続強盗殺人事件はウルトラ級の怖さですが、それより怖いのが普通の人の犯罪ですね。人は顔を隠してしまうと、どんな悪いこともできてしまう側面があるかもしれません。私を誹謗中傷する人も、たぶん日常では普通の人なのでしょう。が、ひとたび顔を隠すと家では職場では常識的な人が見ず知らずの赤の他人の私にどんな残酷なこともできてしまう。ネット犯罪の怖さは過去なかったものです。それを体験できている私はラッキー?
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ビコさん (象が転んだ)
2022-12-20 16:56:08
凶悪犯の場合、ある程度の共通したパターンがあるので、それが救いですが
一般人の曖昧な犯罪の場合、パターンと程度がバラバラなので的が絞れずに捜査に踏み切りにくい。
私の場合、近所の人が(不審な)犯人らしき人を何度か目撃してたから、それも犯人逮捕の大きな要因になり、それに当時は強盗殺人なんて珍しかったから、的も絞りやすかったと思います。

これがネット上の犯罪となると、まず顔が見えないし、不特定多数に紛れ込めば、実質上の捜査は不可能です。アカウント停止にしてもいくらでも作れるし・・・
確かにネットは便利なツールですが、犯罪する側も便利なんですよね。
個人的には、高度にAI化したサイバーポリスみたいなセキュリティの構築が必要だと思うんですが。まだまだ先の事でしょうね。
解答になってなくてスミマセン
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Unknown (♡マブリー)
2022-12-21 00:10:07
「ドアロック」、Netflixで放映されていましたので観ました。

コン・ヒョジンさんは、あのモグモグした話し方、独特の眼差し、少々膨れっ面のお顔、幾つに成っても三つ編みが似合って、健気な可愛らしさがありますね。
映画ドラマ、特にドラマはヒット作品も多く、愛されキャラのようです。

さて「ドアロック」ですが、
私ならトイレの蓋が上がっている、歯ブラシの向きが違う、警察が捜査してくれない・・・この時点でペンギンの防犯カメラを設置です。勿論ストーカーされる心配など私には露程もありませんが😋 
またそれではお話に映画になりませんが、ね。

後輩の子、勇敢だと思ったら、お兄さんのお友達がマ・ドンソク似だって😄
刑事役の方、いつも悪役で、ドンソクさんとも共演していますね。
感想としては、中途半端なホラー サイコパスかなぁ、と思いましたが "中堅ホラー" い言えていますね。

シン・ウンギョンさんも映画ドラマで活躍で、より知的ですね。韓国の映画ドラマ、仰るようにシリアスな内容や暴力的なものも多いですが、ある独立系のスタジオでは100名の脚本家を抱えて、世界を見据えて多種多様な内容、シビアな戦略のもと制作しているそうです。

以前ご紹介のドラマ「ファーゴ」が、やはりNetflixで放映されているようですが、いまだ未視聴です💦 いつかは観たいと思っています。









 
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マブリーさん (象が転んだ)
2022-12-21 05:37:14
そ、そーなんですよ
いち早く防犯カメラを設置すべきだったんですよね。それで一件落着・・・
映画、いやコンヒョジンさんに見入ってた私がウッカリしてました。

そういう私が強盗殺人犯に狙われた直後にした対策は、何と(あのブルースリーが振り回す)ヌンチャックでした。
今から思うと笑ってしまいますが、今はダミーの防犯カメラから精度の高い奴までピンキリですから、時代も変わったもんですね。

言われる通り、”世界を見据えて多種多様な戦略”は作品にも随所に表現されてます。
でも韓国映画がここまで繁栄するとは思ってもみませんでした。私が子供の頃は香港映画一色でしたから・・・
因みに、マドンソクにはぜひ力道山を演じてほしいです。
コメントとても参考になります。 
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Unknown (♡マブリー)
2022-12-21 22:57:48
ご丁寧な返コメ有り難うございます。

>因みにマドンソクにはぜひ力道山を演じてほしいです。

ご存知かもしれませんが、力道山は日韓のスタッフ俳優で映画化されていますね。
力道山には韓国の名優ソル・ギョングさんが、日本からは藤竜也、中谷美紀さんらが出演。監督脚本はソル・ヘソンさんで(韓国公開2004年日本公開2006年)
私はDVDで随分まえに観ましたが、戦後昭和の雰囲気や裏社会がよく描かれていた記憶があります。

ブルース・リーにヌンチャック。確か関根勤さんも大好きで真似ていましたね、男の子は皆さん憧れたようですね☺️
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マブリーさん (象が転んだ)
2022-12-22 00:58:12
ソルギョングさんの力道山は優し過ぎで、少し物足りなかったです。でも力道山は韓国でもヒーローなんでしょうか。
やはり、マドンソクの力道山がぜひ見たいですね。体型も風貌もそっくりですし、あの分厚い胸と腕で空手チョップなんて、ワクワクします。
世界最高峰のアジア発のアクション映画が出来る事は間違いない(多分)。

ヌンチャクですが、相当に練習しましたね。刃物くらいなら簡単に潰せます(多分)。
あの頃はブルースリーがセキュリティの王道みたいなものでしたから・・・
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ヌンチャク (UNICORN)
2022-12-26 06:14:45
外に出て持ち歩いた時点で、それがたとえ護身の為だとしても”武器不法所持”という立派な犯罪となります。
これは一時流行った(バタフライ)ナイフを持ち歩くのと同じですね。

ただ家に置いておく分には大丈夫ですが、相手が強盗殺人なんかの凶悪犯なら正当防衛として有効な護身用の武器となるかもです。
但し、普段から十分に練習しておかないと本番では無用の危険物になりかねないので、最後の手段という事でしょうか。 
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UNICORNさん (象が転んだ)
2022-12-26 14:49:27
そ~なんですよ
護身用武器だとしても、持ち出したら一発でアウト!
中学生の頃ですが、「ドラゴン怒りの鉄拳」を参考にして毎日の様に練習してました。
一応は、連続殺人犯に命を狙われた身ですから、真剣でしたよ。

60近くなった今でも、ヌンチャクならそこそこ振れますし、護身用武器にはもってこいですかね。
でも持ち歩きは厳禁ということで・・・
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