5月末以来の”アインシュタイン”です。少し間が開いたので、軽くおさらいです。
先ず”Ep1”では、アインシュタインの奇怪な生涯と、一般相対性理論とリーマン幾何学の密な繋がりを、”Ep2”では、リーマン計量(曲率テンソル)とアインシュタイン方程式の関係を、”Ep3”では特殊相対性理論の真相と数々の疑惑に追い詰められたアインシュタインの苦悩と憂鬱を述べました。
一方で、”リーマンとガウスとアインシュタインその1”では、歪んだ空間の幾何学と一般相対性理論について、”その2”では、ガウスとリーマンの幾何学とアインシュタインの宇宙の歪みについて述べました。
つまり、リーマンが確立したテンソル(n次元空間の歪みの幾何学量)というややこしい概念を抜きにして、アインシュタインの”一般相対性理論”(4次元の時空の歪み)は語れないという事ですね。
このテンソルと一般相対性理論の詳しい関係は、後で詳しく述べる予定です。
そして”Ep4”では、一般相対性理論におけるヒルベルトとの先主権争いの真相について、前回の”Ep5”では、一般相対性理論の実証に関する苦難の道とアインシュタインの絶頂の前半について書きました。
因みに、それぞれClickすると各Episodeに飛び、理解がスムーズになるかと。
Episode6〜後半
アルバートは自慢の髭を撫で始めた。
”みんな俺の事をニュートンの敵とかいうけど、ここで少し頭を冷やそうじゃないか。
先ずはだな、ニュートンの重力理論では、重力場は「重力ポテンシャル」と呼んでたんじゃ。 質量がmとMの2つの物体が、rの距離にある時、たった1個の量で与えられる重力ポテンシャルUは、U=−GmM/rという非常に単純?な式での。
簡単に言えばのぉ〜ニュートン力学ではリンゴは真っ直ぐに落下するが、わしの力学ではリンゴが歪んで落ちるんだな。それだけの違いさね、ガッハッハッ”
ここで私(テンゾー=転象)は、口を挟む。
”ここからは、私に説明させて下さい。先ずGは重力定数で、距離rが定まればその場における重力場は、1個の定数で与えられます。
では、アインシュタイン博士が考察する4次元の時空間での重力場はどうすれば計算できるのか?実は、リーマンの計量テンソルがそのまま重力ポテンシャルとして利用できる事に、博士は気付いたんです。
4次元の時空の中の“点”における幾何学的特性を決定する計量テンソルの値(幾何量)が、その場での重力を規定する量として記述できる事に気付いたんです。
これは極めて重要な事で、ここからスタートし、一般共変性を保ちつつ計量テンソルを計算し、博士は最終的な「重力場の方程式」を発見したんですね”
ロマンは顔を背けた。
”テンゾー君!そんな単純な事なのか?元々高等数学に不慣れなアルバートの事だぜ。誰かの助けを借りたに決まってる”
私は頷いた。
”そこで前にも言った様に、ハンガリーの数学者で親友のマルセル•グロスマンの助けを借りたんです(Episode2参照)。
そこでまず、一般相対性理論に必要な高等数学を一から学ぶ必要があったんです。
博士は重力による光線の曲がりを検証する日食観測の準備に奔走し、一方で理論(数学)の面では、試行錯誤を何度も繰りかえしたんです。
そして、ついに1914年11月、最終論文を書きあげたんですが、賛同する物理学者は殆どいなかったんですよね”
アインシュタインは、葉巻を横に置く。
”1915年の11月4日の事だったかな?私はベルリンで一般相対性理論の最終論文を読み上げたんじゃ。
その冒頭でわしは、前年に公表した「重力場の方程式」は誤りだと認め、「一般共変性」を重力理論の出発点とすべきだと主張したんじゃ。
グロスマンとの共同研究で得た「重力場の方程式」は、「一般共変性」を断念する事で導かれたものだ。そしてそれは、宇宙のどこでも通用する重力方程式の存在を否定した事を意味してたんじゃの。
しかし今、3年前に捨て去った「一般共変性」に戻り、前年の論文を読んでみると論理の見通しがよくなり、より単純化された 方程式が現れてくるではないか”
私は、生意気にも博士の声を遮った。
”お陰で重力場の方程式がすっきりした形となり、しかもその近似には、何とニュートン方程式が含まれてたんです”
ロマンが口を挟む。
”ちょっと待ってくれ、その前に「一般共変性」というものをもっと判り易く説明しくれないか。2人とも話が早すぎるんだよ”
私も思わず口を挟んだ。
”以前も言った様に、異なる座標系にて物理法則が同じ形式で記述される為には、物理法則が任意の座標変換 に対して不変である事が必要です。新しい重力理論が宇宙のどこでも成立する為には、この「共変性」を満たす必要があるんです。
つまり特殊相対性理論では、物理法則は<ローレンツ変換について不変>である事が求められましたが、一般相対性理論では更に一般的な数学的条件を満たす事が必要です。解り易く言えば、一般相対性原理の数学的表現という事ですね(Episode2参照)”
アインシュタインは、おもわず身を乗り出す。
”翌週の11日の発表で、わしは時空が重力により歪むという極めて大胆な仮説を導入し、ある特別な座標系では一般共変な方程式、つまり数学的方程式が導かれる事を証明したんじゃよ。
お陰で、重力を幾何学化(数式化)するという所まで、あと一歩という所まで来たんだ。時間は、あと2週間程しか残ってなかったがの”
私も思わず身を乗り出す。
”当時、ドイツの数学研究の中心だったゲッティゲン大の教授で、20世紀最大の数学者の一人とされるダーフィト•ヒルベルトは次の様に語りました。
<私は誰よりも、そしてアインシュタインよりも4次元空間についてよく理解している。ところが、あの様な仕事をやったのはアインシュタインだけであり、数学者ではなかった。
何故?我々の世代で、アインシュタインが空間と時間についての最も独創的で深い言葉を いい得たのか?それは、彼が時間および空間についての哲学と数学について、何一つ学ばなかったからだ>と皮肉ったんです”
アインシュタインは、得意気に葉巻を蒸した。
”わしは数学者ではなかったが、物理の研究に数学が必要とされる局面では、巧みに数学を操る事が出来たんじゃよ。 一般相対性理論の完成は、その最も端的なケースじゃがの。
ヒルベルトもその辺はよーく理解してた筈じゃよ。だから、わしは和解の手紙を送ったんだ”
私は、益々得意になった。
”11日の発表の時点で、おそらくアインシュタイン博士は、新しい方程式が論理的に整合性がとれてる事に、強い自信を持ってた筈です。
しかし、この新しい飛躍した論理が万人に受け入れられる為には、その方程式が正しく「自然そのもの」を記述しているか?を検証する必要があったんです。
自然の事は自然に聞け
博士は、論理と自然という2つの事例について数学的計算を挑み、その結果に大いに満足したんですよね?アインシュタイン博士”
ロマンが再び口を挟む。
”その2つの事例って、一体何なんだ?”
アルバートはロマンを遮る。
”ああ、言い忘れてたの。
一つは、水星の近日点移動の観測値を完全に説明できた事じゃ。
近日点とは、惑星の公転(楕円)軌道の太陽に一番近い点での、長い年月の間に位置を変えるでの。太陽に最も近い水星では100年間に43秒の変化が観測されてたが、ニュートン力学ではこの数値は説明できなかったんじゃ。
当時、近日点の移動は近傍の惑星の影響が原因だと考えられてたが、一般相対性理論は惑星の作用がなくとも、近日点が移動する事を予測した。
しかも、わしが導いたアインシュタイン方程式で計算すると、観測値と見事に一致したんじゃよ。わしはとても嬉しくて、数日間はボォーっとしとったな(笑)”
生意気な私は、再び口を挟んだ。
”二つ目は、太陽の重力場による光の曲がりの数値にて、自らの誤りを発見した事です。
以前の予測値では、光を粒子( =光子) とみなし、この粒子が質量を持つと仮定して導いたものでした。
つまり、ニュートンの真っ平らな3次元空間を飛ぶ光子の曲がりを計算したんですが、一般相対性理論では、曲がってるのは空間であり光ではない。そこで博士の新しい方程式が与えた数値では、以前の値の2倍になったんです。
以前で述べた、日食の観測実験でこの値が確証されれば、博士の一般相対性理論の正しさが証明される事になるんです。
1915年11月18日、博士は水星の近日点移動の成果をアカデミーで発表し、1週間後の11月25日、「重力場の方程式」と題した論文をアカデミーで読みあげます。
これにより、念願の一般相対性理論が完成したんです”
4千字近くなったんで、今日はここでお終いです。
次回の”Episode7”では、アインシュタイン方程式とリーマンテンソルの密な関係について述べたいと思います。
アインシュタインのリンゴは歪んで落ちる
つまり、ニュートン力学の延長上にアインシュタインの相対性理論があったっていう事か👅
アインシュタインテンソルの所まで一気に行きたかったんですが。分厚い壁に跳ね返されました。
リッチテンソルだけで4800項近くあるんですよ。アインシュタインがやった様に縮約法を使えば、ある程度は小さくなるんでしょうが、コンピュータが貧相な時代にどうやって計算したんでしょうか?
私少し落ち込んでます。
2階共変のリッチテンソルは、4つの4階共変のリーマンテンソルで出来てます。
そのリーマンテンソルもクリストッフェル記号を含む10個の項を持つんですが、クリストッフェル記号には12の項があります。
リーマンテンソルの最初の2つの項は計量と計量の微分の積でできてるから、それぞれ1回の微分で2倍になる。結果、2×2×12=48個に膨れ上がるんですね。
残り8個の項は、クリストッフェル記号同士の掛け算ですから、8×12×12=1152個です。
故に、48+1152=1200項になり、リッチテンソルは4×1200=4800と転んだサンが嘆くような数になります。
勿論、リッチテンソルはRᵤᵥ=Rᵥᵤと共変性(対称性)を持ちますから、打ち消し合う項もあるし、まとめれる項もあるはずです。しかし、これらを展開して1つ1つ計算するなんて、天文学的時間がかかるでしょう。
そこで、アインシュタイン方程式であるRᵤᵥ−Rgᵤᵥ/2=8πGTᵤᵥ/C⁴の両辺にgᵤᵥの逆行列である半変計量テンソルgᵘᵛを両辺に掛けて、スカラーテンソルRを打ち消すという荒業もありますが、複雑なのは変わりませんかね。
だったら、何らかのトリックを使ったはずだ。
数学ってそういうもんよ、そのトリックがエレガントなんだな。
そのアインシュタインのトリックだが、特殊相対性理論の本質は”全ての慣性系は同等”ということよ。
これは慣性系から慣性系への座標変換のことで、このローレンツ変換により式の形が変わらないことを意味するが故に、あえて数学的記述に拘ったのはその為だろう。
そこでアインシュタインは慣性系だけでなく、重力場という加速度系でも同じように、ローレンツ変換により数学的記述が出来ないかと考えた。
これこそが特殊相対論を拡張した一般相対性原理であり、ローレンツ変換を一般相対性にずらす要因を探ったんだな。勿論その要因は重力だが、その重力の正体はニュートン力学では質量だ。
故に重力(=質量)は使えないなので、アインシュタインはエネルギーを使った。
しかし単なるエネルギーではなく、エネルギー運動量テンソルTᵤᵥという幾何学量の値を使い、時空の歪みをテンソルで表現しようとした。
これこそが転んだが言う、”重力を規定する量”として数学的に記述出来る事に、アインシュタインは気付いたのさ。
後は、ニュートンの重力ポテンシャル(=−GmM/r)の結果と比較し、アインシュタイン方程式(重力場の方程式)の係数k(=8πG/c⁴)をチョチョイと合わせただけなのかもしれないな。
勿論、歪んだ時空の幾何学(量)をテンソルを介し、偏微分方程式を使って弾き出す為の膨大な計算には、流石のグロスマンも挫折したろうね。
でも最後の一番美味しい部分をあっさりと導き出す辺りは、流石アインシュタイン博士だよ。
これがニュートン力学よりも広範囲(一般的)でずっと正確だというのが実証されたんだから、アインシュタインも笑いが止まらんかったろうよ。
トリックとはそういうもんよ👅👅
リーマンテンソルは4共変で、
リーマンクリストッフェルテンソルは3共1反、そしてリッチテンソルは2共変です。
つまり、縮約するほどに項数が増え、計算がややこしくなるんですよね。
その上、2階の偏微分ときます。
リッチテンソルにクリストッフェルとクロネッカーの記号が出てきますが、もうこの時点でアウトですね。
アインシュタインが馬鹿正直にこれらを計算したとは思えませんが、テンソル解析の末恐ろしさを知った気がします。
しっかりとマスターしてますねぇ〜アッパレです、
最初の入りからして、模範解答ですね。
確かに物理学者であるアインシュタインが真っ向勝負でテンソルの計算をしたとは思えませんでした。
流石のグロスマンもテンソルの計算には頓挫したと思います。しかし、アインシュタインは諦めてませんでした。きっと裏口(トリック)があると踏んでたんでしょうね。
分厚いバックドアをニュートンの重力方程式を使って、どんと突き破ったんですよ。
アインシュタインの洞察の凄さには恐れ入ります。リーマンも真っ青なレベルでしょうか。
20世紀最大の物理学者というのも肯けますね。
リーマンクリストッフェルテンソル(リーマン曲率)は4共変で、これを縮約した3共1反の曲率テンソルと同義なリッチテンソルは2共変でした。
右下の添字の数は、順に4→3→2となりますが、ここらへんの計算と理解も骨がオレます。
以上、失礼しました。
でもアインシュタインも単なる計算バカじゃなかったってコト?👅👅👅
これからの数学者にも言える事ですが、単なる計算バカじゃ、新たな発見もエレガントなトリックもシンプルな再証明も出来ないという事ですね。
無駄とまでは言いませんが、数学脳を日本人に植え付けるには、ややこしい計算はAIに頼るべきだと思うんですが・・・
どちらも数学的記述が原則ですが、ブラックホールとは重力崩壊により幾何学的に計算不能になるほどの激しい時空の歪みを作る天体のことで、数学的に破綻した特異なケースとされてきました。
しかしその存在が証明され、一般相対論そのものも大きく拡張します。
理論的に言えば、天体が自身の重力で圧縮され、質量の全てが内側に集中し収まってしまう現象です。
しかしこのブラックホールも、数学的に記述できるんですね。それがシュワルツシュルトの解と言われる、時間に対し不変化な運動量やエネルギーや質量が球対称に分布するという特異な条件で弾き出された解です。
いまアインシュタインが生きてたら、一般相対論がここまで拡張してることに驚きを隠せないでしょうか。